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ぼくはじぇにふぁー
しおりを挟むあぁ……光が気持ちいい……。
こんなに気持ちいい日なのに、どうして仲間達は泳いでいるのだろう。
こうやってのんびりしていた方が、良いではないか。
「はいはい!!いらっしゃっい!!カメすくいはここだよー!!」
そんな声が聞こえてくる。
「なに、この亀、一匹だけめっちゃ鈍臭そう」
「本当だ!もっと元気に泳いでいるやつにしようぜ!!」
かめを見ながら、ニンゲンの子供達が騒いでいる。
この生き物がニンゲンという生き物だと、賢いかめの仲間が教えてくれた。
今日はニンゲンの「おまつり」というもので、かめは、ここで「ごしゅじんさま」と出会うらしい。
そういえば、仲間が数匹減っている。
ニンゲンが持っている、謎の棒に掴まって、みんなどこかに行ってしまった。
「はい、最後まで責任持って大事に飼ってねー!」
仲間はそう言われながら、ニンゲンに連れられていく。
あれが、仲間の「ごしゅじんさま」なのだろうか。
なんでも「ごしゅじんさま」とは、住処をくれて、食事もくれる、なんとも素晴らしいニンゲンのことを言うらしい。
一体賢い仲間のかめは、どこで情報を仕入れてくるのだろうか。
まぁ、良い。
かめは難しいことが嫌いだ。
元気に泳いでいた方が、「ごしゅじんさま」が早く見つかるぞと言われたが、かめは今ここでのんびりと光にあたっていたいのだ。
「ねぇ!!お母さん!!亀だって!」
なんとも元気なニンゲンの声が聞こえた。
このニンゲンも、誰かの「ごしゅじんさま」になるにだろうか。
「えー、亀?まぁ……飼いやすくはあると思うけど……」
「ねえ!!すっごく可愛いよ!!」
ニンゲンが、かめ達の泳いでる場所を覗き込んできた。
目がきらきらしている、ニンゲンのメスのようだ。
「お母さん!!私この子が良い!!ほらっ、このちっちゃい岩に乗ってるこの子!!なんかアホっぽくて可愛い!!」
「樹里亜、お祭りの亀だし、弱ってるかもしれないわよ。それにあなた、植物でさえまともに育てられたことがないのに、ちゃんと面倒見れるの?お母さんが代わりに見るなんてしないわよ」
「見る!!絶対責任持って見る!!」
「おかあさん」と呼ばれた人間が、ため息をついた。
「すみません、亀の飼い方は……」
「あぁ、簡単ですよ。水を張って、こういう石でも置いて、日光に当たる場所に置いておけば。今ならエサもおつけします!!」
「ねぇ!!凄く簡単だよ!!」
ニンゲン達が、勝手に盛り上がっている。
まぁ、良い。
かめには関係な……。
……??
目の前におりてくる、棒。
「ほらっ、亀ちゃん、この上に乗って!!」
やめろ、甲羅をつつくな。
なんだ、このニンゲン。
君の「ごしゅじんさま」になりたいんだよ。
ほら、行きなよ。
幸せになって。
仲間のかめ達が声をかけてきた。
かめの、「ごしゅじんさま」に……??
かめは、もう一度、ニンゲンを見た。
なんとも楽しそうな声で、笑いながら亀に棒を差し出してくる。
ほら、早くお行き。……ここに残っちゃいけないよ。
あの賢いかめの仲間が言った。
あのかめが言うのなら間違いないのだろう。
かめは、ゆっくりと棒の上に乗った。
「うわぁ!!お母さん!!見て!!可愛い!!」
ニンゲンが叫んだ。
「はい、じゃあこの子は連れて帰ってね。責任持って大切に育ててね」
「はーい!!おじさんありがとう!!」
かめは、ぼちゃんと水の中に入れられた。
なにやら見えない何かが邪魔をする。前に進めない。
「あはは!!可愛い!!ねえ、お母さん!!」
「……そうねえ。こうして見ると可愛いわね。じゃあ、ちゃんとペットショップで水槽とか餌とか買って帰りましょう」
ぐらぐらと、水の中が揺れ始めた。
最初は抵抗して泳いでみたが、なんとも疲れてきたし、このぐらぐらに身を任せるのも悪くない。
そういえば、今日はまだお昼寝をしていなかった。
少し眠るとしよう。
「ねぇー、そろそろ起きてよ、亀ちゃーん。あ、餌をあげたら起きるかな?」
なにやら良い匂いがする。
そう思って目を開けたかめの前に、パラパラと何かが降ってきた。
「あ!!亀ちゃん起きた!!おはよう、亀ちゃん!!さあ、食べて食べて!!」
なにやらニンゲンが興奮しているようだが、これを食べても良いのか。
ふむ、いつもの食事よりとても良い匂いだ。
かめは、降ってきた食事らしきものを口に入れた。
な……ななな!?!?
かめは衝撃的だった。
なんだ、この美味しい食事は。こんなもの食べたことがない。
ねえ、みんな……。
振り返って、ハッとなった。
そうだ、かめは、「ごしゅじんさま」の元に来たのだ。
「ごしゅじんさま」は住処と食事をくれると聞いたが、本当に食事をくれた。
ふむ、だがこんなに沢山の食事は食べきれない。
なんとも贅沢な「ごしゅじんさま」だ。
「わぁ!!食べてくれた!!亀ちゃん、ここが君の新しいお家だよ」
かめの「ごしゅじんさま」になったらしいニンゲンが言った。
ここが、かめの住処なのだろうか。
ふむ、広いし、乗り心地の良さそうな石もあるし、水の温度も心地いい。
食事も贅沢だし、なんとも素晴らしい「ごしゅじんさま」だ。
パシャパシャ!!
な、なんだ。
「ごしゅじんさま」が、四角い薄い物体をかめに向けてきている。
「ほらー、亀ちゃん、こっち向いてよー!!あ!良いのが撮れた!!投稿しよーっと!!」
なにやら四角い薄い物体を、「ごしゅじんさま」は嬉しそうに触っている。
あれはかめの仲間なのだろうか?
「そういえば、亀ちゃん、名前決めなきゃね!!……あ、オスかメスか聞くの忘れてた!!」
かめはオスだ。そう言ったけれど、どうやらかめの声は「ごしゅじんさま」には聞こえていないらしい。
そういえば、ニンゲンとかめの仲間が喋っているのを見たことはない。
ところで、「なまえ」とはなんぞや。
「うーん、可愛いし、メスでいっか!!」
かめはオスだと言っているだろう。
「名前~名前~!!私が樹里亜だから、洋風の可愛い名前が良いかな~!!……そうだ、ジェニファー!!うん!!可愛い!!ジェニファーにしよう!!」
そういえば、あの賢いかめの仲間に聞いたことがある。
ニンゲンには、個々を識別する呼び名があると。かめじゃ駄目なのかと思ったが、「なまえ」とは、きっとそれのことだろう。
「決めた!!亀ちゃん、君の名前は今日からジェニファーだよ!!私の名前は樹里亜!!ふふっ、キラキラネームでしょ?でも、私は気に入ってるの!!ジェニファー、改めてよろしくね!!」
そう言いながら、「ごしゅじんさま」はまたあの四角い薄い物体をかめに向けてくる。
ふむ、「ごしゅじんさま」の「なまえ」は「じゅりあ」というのか。
そして、かめの「なまえ」は「じぇにふぁー」になったらしい。
ふむふむ、なかなか難しい。
とりあえずお腹も膨れたし、ぼーっとしよう。
「あ!!!!ねえ!!ジェニファー!!秀くんから、可愛いねってメッセージが来た!!やったあ!!ジェニファーのおかげだね!!」
なにやら「ごしゅじんさま」は、あの四角い薄い物体が大好きなようだ。片時も離さない。
かめの仲間かわからないが、大事にされているのか。
「これって、ジェニファーの話題でメッセージを送る理由ができるじゃん!ジェニファー、最高だよ!!」
そう言いながら、またあの美味しい食事を、「ごしゅじんさま」はかめの前に降らす。
だが、かめはもうお腹がいっぱいだ。いらぬ。
ふむ、これからかめはここで生活するのであろう。
仲間達はいないし、特になんでも教えてくれていたあの賢いかめの仲間がいないのは、困る。
しょうがない。かめは頑張って自分で学ぶとしよう。
何やら嬉しそうにこっちを見ている「ごしゅじんさま」の顔を見ながら、かめは決めた。
かめの学び
「ごしゅじんさま」の「なまえ」は「じゅりあ」
かめの「なまえ」は「じぇにふぁー」
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