お供え物は、プロテイン

Emi 松原

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心霊スポットの奥の奥

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「これは……」
 安明と陽一の顔色が変わる。文面から、もう一人があの廃墟にいるのがわかる。しかも、自分から行ったかのように。
 陽一は、スマホを受け取ると、虎之助に見せるフリをして、松子に画面を見せた。虎之助は、じっと、三人の背後を見ている。
「何かの力が働いているようですね。このままだと危ないです。すぐに向かいましょう。安全を考慮して、私の運転する車に、三人が乗ってください。虎ちゃん、後ろから、ヨーくんを乗せて、バイクで追いかけてくれる?」
「む? かまわぬが、松子はどこに乗る? バイクだと振り落とされてしまうぞ」
「俺が膝に乗せておくよ。その方が俺も心強いしね」
 安明が、三人に向けて言った後、虎之助の方を向いて言った。
「え……俺たちも行くんですか……?」
 泣きそうになりながら、男性の一人が言った。ほかの二人も涙目で頷く。
 そんな三人を、珍しく、陽一が冷めた目で睨み付ける。
「じゃあ、放っておきますか? 僕たちだって、こんな危険な場所に行きたくないんですけれど。この場所にお仲間さんがいる保証だってないですし、何より、依頼者はあなた達《四人》でしょう?」
 陽一は、誰よりも怖がりだが、仲間想いである。口では文句を言いながらも、どんなに怖い場所だって、安明と虎之助が一緒なら行けたし、ましてや置いていくなんて考えたこともない。安明のように表には出していないが、責任のなすりつけを行っているように見える三人に、陽一が嫌悪感を抱くことは自然なことだ。
 依頼者の三人は、渋々ながらも、頷いた。

※※※

「ヨーくん、しっかりつかまっていろよ。トイレに行きたくなったら言うんだぞ」
「もー、虎ちゃん。トイレの話はやめてよ」
 虎之助の運転するバイクに乗って、二人は安明の運転する車を追いかける。
 空はすっかり暗くなり、晴れていたはずなのに、進むにつれ霧が濃くなっていた。
「虎ちゃん、今日……正拳突きをしてたよね。何か感じたの?」
「む? 今日のプロテインか? あれは、俺がバイトをしているジムのメーカーが新しく販売したものの試供品でな、お試しでもらえたのだ。宣伝もしなくてはいけないのだが、なかなか良い品だったぞ。レモン味でな、あっさりした飲み心地は、プロテインの概念を覆すものだ」
「いや、プロテインの感想じゃなくて……」
 安明の運転する車が、小脇の道に入っていく。虎之助は見失うことなく、全員は、廃墟となった元ホテルへと到着した。安明が、松子を抱えて降りてくる。依頼者の三人も、涙目になりながら、お互い張り付くように降りてきた。
「このまま入っちゃう?」
 安明の言葉に、陽一がため息をついた。
「それしかないよね。せめて、依頼者の方は結界で守っておかなくちゃね」
 陽一はそう言うと、依頼者に分からないよう小声でつぶやき、結界術を発動させた。三人の周りを薄い壁が覆うが、三人は全く気がついていない。
《ここ、すごく嫌だわ。でもおかしいわね。死霊の気配とはまた違う気がするもの》
 松子の言葉に、安明が頷く。
「おかしいよね。こういう心霊スポットって、死霊のたまり場が多いのに。気をつけて入ろう」
 安明の先導で、陽一、虎之助、依頼者達が続く。安明達が持ってきた懐中電灯の明かりが、フロントを照らしたとき、依頼者が声を上げた。
「お、お前、なにやって……!!」
 フロントの壊れた椅子には、依頼者の残りの一人が、当たり前のように座っていた。三人を見つけると、笑顔で手を振ってくる。
「やっと着いたんだね、早くチェックインしちゃお」
「な、何言って……」
 異様な雰囲気にのまれないよう、安明と陽一が警戒態勢に入るが、さらにその空気を壊すかのように、虎之助がズンズンと椅子に座っている依頼者に近づいた。

「マッスル!!」

 それは、一瞬だった。
 虎之助が、椅子に座る依頼者の顔面に向けて、正拳突きを行ったのだ。
 その《拳》は、依頼者の目の前で寸止めされていたが、明らかに、その場一帯の空気が変わる。《拳》を受けた依頼者は、目を見開いていた。
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