お供え物は、プロテイン

Emi 松原

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心霊スポットの奥の奥

1-4

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「わ、私……何を……?? ここは……??」
「お前、正気に戻ったのか!?」
 依頼者の三人が、正気に戻った一人に駆け寄ると、状況を説明する。
 その間も、虎之助は、ズンズンと一人で歩き、二階に上がろうとしていた。
「虎ちゃん!」
 陽一が、安明に目で合図をして、虎之助を追いかける。
 依頼者達に、その場で待つように指示を出した安明と、安明に抱かれた松子も、すぐに追いついた。
 二階は、客室だった。真っ暗の中、ずらりと並んだ客室は、ホラー映画を連想させる空間だが、虎之助は迷わず進む。
《あらあら、虎之助は、根本から根絶やしにするつもりなのかしら》
「そうだね。虎ちゃんの《拳》が出るときは、いつもそうだよ。虎ちゃんは、ああ見えて、人に害を及ぼす心霊現象とかが、嫌いなんだ」
 陽一の言葉に、松子が納得したように頷いた。
 虎之助は、迷わず歩き、一つの部屋の前で止まると、扉を開く。ホテルの内装は、そのまま残っていた。すべてが埃をかぶり、壊れているものがほとんどだが。
「死霊ではないと思っていたけれど……。これは、思念?」
「確かに。生き霊とも全く違うね。まさに、強い想いがそのまま残ったって感じかなぁ」
 安明の言葉に、陽一が答える。松子が、キョロキョロしながら周りを見ていた。
《お店なんかと同じね。お客さんが楽しい想いをしたお店は、その思念が残って、誰かに影響して、その人も楽しく過ごせたりするやつ》
 松子がそう言ったとき、虎之助が息を大きく吸った。
「マッスル!!」
 かけ声と同時に、残っていたベッドをたたき割る。
「あー、これ、器物破損とか大丈夫かなぁ……」
「大丈夫でしょ。所有者はいるんだろうけれど」
 陽一の言葉に、安明が苦笑しながら言った。二人は、虎之助のこの突然の行動に慣れているため、落ち着いてその場を見守っていた。松子だけは、楽しむように虎之助を見る。

 壊れたベッドから、煙のようなモヤが出てきた。埃とは違う、何かだ。
 その煙が、部屋中にまとわりつき、安明と陽一には、その場にある思念が浮かんできた。

※※※

 このホテルが人気だった頃。いつもこの部屋で、逢い引きをしている男女がいた。
 男は、このホテルのフロントで働いていた為、当時の、書類は手書きが一般的だった時代、名前を偽造することは簡単で、客のことも、出入りも把握していた。
 だからちょうど良かったのだ。
 他の男と結婚していた女と、逢い引きをするのには。
 男は、優越感を感じていた。自分が勝った気になっていた。
 女の夫が、友人だという客と泊まりに来た日も。それをあざ笑うかのように、女と部屋で逢い引きをした。
 夫が連れてきていたのは、探偵だとも知らずに。
 そして、この部屋に、夫と探偵が飛び込んできて、現場を押さえられた。
 しくじった、負けた。だが、なぜだろう。この、高揚感は。
 次は、《ゲーム》に負けられないな。男は、そう思ってニヤリと笑った。

※※※

「これが、この部屋に残る思念……?」
「みたいだね。どのくらい前なのか分からないけれど。多分、この思念の男は、この後も、《ゲーム》と称して、似たようなことを楽しんでいたんじゃないかな。その異常とも言える思念が残り続けて、今のようになったのかも」
「そっか……。もしかしたら、依頼者が男女の集団だったのも、関係していたのかもしれないね……」
 陽一と安明が納得する目の前で、虎之助は、膝を曲げ、腰を下ろし、腕を引く。
 多分、この《拳》一発で、ここはもう本物の心霊スポットではなくなるだろう。

「マーーッスル!!!!」

 虎之助が、勢いよく正拳突きを行った。その瞬間、もやのような思念が消し飛ぶ。
 この部屋を中心に、フロント、そして来るものに影響を与えていた思念が。
《あら、流石ね》
 松子だけが、楽しそうに、ケタケタと笑っていた。

※※※

 あれから、怪奇現象が消えたと、依頼者の四人が安明達の元へお礼を持ってきた。もう二度と、遊び半分であのような場所には行かないと、何度も頭を下げていた。

 今日も、いつものように、安明の家の庭で虎之助は筋トレをしていて、安明と陽一、そして松子は、縁側で会話をしながらそれを眺めている。
「あの思念だけれどさ、結局、よく分からなかったな。悪意でも憎悪でもなく、悲しみでもなく」
「んー。俺たちには分からない感情だよね。人生そのものを、《ゲーム》として見ているというか……」
 そんな安明と陽一をよそに、虎之助はリズミカルに筋トレを続けていた。
「まっ、虎ちゃんがあの様子だから、いっか」
 安明の言葉に、陽一が頷いたのだった。
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