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事故物件は誰の部屋
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「えぇ、それ、事故物件ってやつじゃないのかい?」
愛の彼氏が、喫茶店でコーヒーを口に運びながら言った。
愛と愛の彼氏は、高校の同級生で、大学と就職先は別々だったが、ずっと将来を見据えてお付き合いをしている。
就職先が近かったこともあり、一緒に住む話も最初は出たのだが、二人で住むマンションで気に入った場所が全て埋まっていて、とりあえず近くで別々に住むことで落ち着いていた。
「でも、全く怖くないのよ。金縛りって言っても、すぐにとけて眠れるし」
「うーん、愛は、昔から、少し抜けているところがあるからなぁ。心配だよ」
「抜けてるって、失礼ね」
愛はココアを飲みながら、頬を膨らます。
「あはは、ただ、心配なのは本当だよ。そうだ、最近はネットで調べたら、事故物件が出てくるんだよ。気にしていないなら、調べるだけ調べてみるかい? もし、事故物件だったら、対処の方法を調べたら良いしさ」
「んー、そうだね。あれが誰なのかも気になるし、調べておいてよ」
「分かった、じゃあ、また夜に連絡するよ」
二人は喫茶店を出ると、お互いの家へと戻っていった。
その日の夜、彼氏からかかってきた電話の内容に、愛は驚いたが、どこか納得していた。
どうやら、この物件は、本当に事故物件と呼ばれるものだったようなのだ。
本来、事故があった物件には告知義務というものがあるらしいのだが、それは、事故の後に一人でも入居者があれば適応外となるらしい。
調べたところによると、この部屋で、女の人が緊急の病気で死亡していたところを、家族に発見されたと書いてあり、それから数年経っていたので、誰かがその後に住んでいたことがあるのだろうということだった。
愛は、納得こそしたが、やはり怖いとは思わなかった。
確かに気配もするし、音もするし、触れる感覚もあるが、敵意を感じたことは一度もないのだ。もし、今もまだここに住んでいるだけだとしたら、それはそれで当たり前のことだと思ったし、自分に害がなければ問題ないと思っている。
だが、彼氏の考え方は違った。
愛が、少なからず影響を受けている以上、警戒するべきだし、対処も必要だというのだ。
お寺にでも行くべきなのか? 愛がそう言うと、彼氏も悩んでいた。あくまでネットで見た情報のみで、いきなり相談に行くのもどうなのだろうかと。
じゃあ、ネットで霊能者でも見てみようかと、通話を繋げたまま一緒に見てみたが、どこか胡散臭く、値段も高い。ぱっと見たときは安い値段でも、あくまでそれは《初回》だったりするのだ。
さてどうしたものかと考えていたとき、ふと、彼氏が思い出したように、大学生の時に有名だった、《キカイ》と呼ばれていたグループを覚えているかと言ってきた。
愛はどのメンバーとも同じ大学ではなかったが、噂は何度も聞いた、《キカイ》と呼ばれる三人組のグループ。そのうちの一人が、彼氏の出身大学に在学中なのだ。
愛も彼氏も、そのグループとは全く接点がない。ただ、不思議なことに、その《キカイ》のグループには、相談してみたいと思えた。何度も噂を聞いたことがあるが、お金をだまし取られたり、要求されたりといったことは一度も聞いたことがなかったからだ。
それに、相手はまだ大学生。何か問題が起きれば、大学側に問い合わせるという手もあると彼氏が言った。問題は、どうやってそのメンバーに頼むかだ。
彼氏は、とりあえず、今も在学中で連絡をとっている後輩に聞いてみると言い、電話を切った。
今日も、視線を感じるし、電話を切った後は、音が鳴り始めた。それでも愛は、全く気にせず、眠りについたのだった。
※※※
「やっすん、ヨーくん、遅くなったな。松子と音羽の話が長引いてな」
安明の家の庭に、虎之助が入ってきた。もうすぐ展示会だから当たり前だと振り返った安明と陽一は、一瞬固まって動けなくなる。
虎之助の隣に、音羽が立っていたのだ。松子を抱いて、いつものような活発さがなく、暗い顔をしている。
「音羽さん? ここに来るのは珍しいですね。元気がないですけれど、何かあったんですか? 松子ちゃん、おかえり。音羽さんもこっちにどうぞ、お菓子とお茶持ってきますね」
「ま、まさか虎ちゃん……!?」
すぐに穏やかな仏スマイルで対応する安明と、まだ絶句している陽一。松子が、陽一を見て、ケタケタと笑った。
《私も残念だけれど、二人はまだそういう関係じゃないわよ》
「まだって……。あ、音羽さん、ここどうぞ」
陽一が松子を抱いた音羽を座らせて、安明がそこにお茶とお菓子を持って帰ってくる。
虎之助は、自分で連れてきたであろうにも関わらず、いつもと変わらず荷物を置いて、筋トレのウォーミングアップを始めてしまう。
《私が音羽をここに誘ったの。だって、虎之助に何か相談したそうにしているのに、何も言わないんだもの。こんなに元気がない音羽は初めて見るから、私心配で》
「なるほどね。音羽さん、松子ちゃんが凄く心配して誘ってくれたらしいですね。松子ちゃん、音羽さんが大好きなんですよ。お泊まり会も楽しかったって言ってましたし」
安明の言葉に、音羽が少し顔を上げた。
「実は……。虎之助くんって、色んな意味で目立つじゃないですか。知っての通り、うちの大学ってそういう人が多いから、みんな気にしてないんです。でも、虎之助くんが、《キカイ》のメンバーだってことは知られていて。それでも、周りのみんなは、ふーんって感じなんですけれど……。最近、私が虎之助くんや松子ちゃんと仲が良いからって、私を通じて、《キカイ》の皆さんに相談をしたいっていう別の大学の人や、卒業生の人や、その友人の人とかが増えてて……」
「あぁ、なるほど……。大丈夫、分かるよ……。僕も、友達や彼女だった人を通じて、ものすごく相談がくるから……」
陽一が、少し遠い目をする。安明は、苦笑いをした。
「《キカイ》っていう名だけは有名だしね。そういうことはよくあるから気にしなくて良いし、全部言ってくれても大丈夫ですよ? 俺たち、ある程度は緊急性や、必要性は選べますから」
安明が、音羽を元気づけるように明るく言うが、音羽は首を横に振った。
「私、なんだかそれが凄く嫌なんです。全員じゃないんですけれど、なんだか虎之助くんを利用しているように感じて。私自身、耕也くんを紹介している訳だから、偉そうなことなんて言えないんですけれど」
《音羽は、凄く優しいのよ。だから、相談されたら聞いちゃうし、でもそれを全部こっちに持ってくるのは違うってジレンマに悩んじゃうの。私は、そんな音羽が大好きなんだけれどね》
「音羽さん、松子ちゃんが、そんな音羽さんが大好きだって言ってますよ。それに正直、虎ちゃんは全く気にしてないですし」
「松子ちゃん……」
音羽が、目を潤ませて松子を抱きしめる。
松子の声が直接聞こえないのに、ここまで松子を大事にできる、それだけでも凄いことだと、安明と陽一は思った。
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