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事故物件は誰の部屋
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「……落ち武者さん、いるのかな?」
いつものように視線を感じた愛が、その場所を見る。
安明達の話を聞いて、愛は、ここにいる落ち武者は本当に凄いと思った。
誰かを恨むわけでもなく、ただ自分の使命を全うしようとしてるからだ。
「えーっと、置くもの……。通販の段ボールで良いかなぁ」
愛は、通販の段ボールを持ってくると、視線を感じる場所に置く。
そして、お茶と、お茶菓子を持ってきて、段ボールの上に置いた。
「落ち武者さん、よければ休憩にどうぞ」
落ち武者からの返事は聞こえないし、自己満足だとも分かっていたが、愛はそのままいつものように眠りについた。
不思議と、その日は金縛りに遭わなかった。
次の日からも、愛は、段ボールの上に、お菓子や、食事を置いた。
置いておいて、次の日にお菓子は食べれば良いと思っていたし、自炊をしてあまったものをお皿に置いておくだけだが、少しでも落ち武者の気持ちが楽になれば良いなと、声もかけた。
もちろん、そんなことをしているから、人を家に呼ぶことはできなかったし、彼氏には言ったものの、状況を知っている彼氏は、反対せず愛のすることを受け入れてくれている。
そんなとき、愛と彼氏が狙っていた物件が空いたと、不動産屋から連絡が入ったのだ。
引っ越しの準備をしながらも、愛は、段ボールの上にお茶だけは供えることをやめなかった。一人暮らしを満喫した家だ。寂しい気持ちも大きくあった。
「落ち武者さん、私、明日この家を出ます。私、落ち武者さんのことを知って、本当に凄いなと思ったし、あれからこの家にいると、なぜか私も守られている気がしたんです。次の人が、どんな人が入るかは分からないけれど、その人が過剰に怖がらないと良いなって思っています。ありがとうございました」
愛はそう言って頭を下げると、眠りについた。
引っ越しの日、愛は最後に、部屋の中を見た。そして、目を見開いた。
一瞬だったが、そこには、時代劇で見るようなしっかりとした武士の格好をした、若い男の人が、笑って頭を下げたように見えたのだった。
※※※
「そっか、愛さんは彼氏さんと住むために、引っ越すんだね」
いつもの場所で、音羽から情報を聞いた陽一が、頷いて答えた。
音羽は、サークルが終わると、時々ここに来るようになっていた。
その時に、依頼されたことを言うこともあれば、みんなで楽しく話して時間を過ごしている。
誰よりも嬉しそうなのが、松子だった。
《跡継ぎ殿、ご挨拶に参ったでござる》
その日、突然の落ち武者の登場に、安明と陽一、松子は驚いた。
いや、前は、まさに「落ち武者」という格好をしていたのに、今は全く違ったのだ。
武士の中での正装をしていて、まげもしっかり結ってある。傷跡はなく、その顔には笑顔が浮かんでいた。
虎之助は、その姿を見ると、またプロテインを作り始める。
「え、一体何が……」
珍しく驚く安明の前に立ち、落ち武者は、安明と陽一達全員に頭を下げた。
《愛殿が、毎日それがしに話しかけ、恵みをくれた。それがしは、心が落ち着いていき、本来の姿を思い出したのでござる。これからどうするかはまだハッキリと決めてはおらぬが、思い出の地を回ってみようと思う》
《あら、素敵ね。愛は、虎之助達が私にしてくれていることを、落ち武者さんにしてあげたのね》
松子の言葉に、落ち武者が微笑んで頷いた。
《跡取り殿、ご友人殿、それがしが必要な時には、いつでも呼んでくだされ》
落ち武者が、そう言って全員に頭を下げる。
そんな落ち武者に、虎之助はまた無言で、プロテインを差し出した。
落ち武者は、それを笑顔で受け取ると、一気に飲み干す。
《誠に美味であった》
落ち武者はそう言って笑うと、姿を消したのだった。
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