お供え物は、プロテイン

Emi 松原

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オカルトサークルの降霊術 古本編

1-5

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「結界術、最大、発動!!」
 陽一がすぐに鞄からお札を取り出し、最大限の結界術を発動させる。だが、それもすぐに壊されそうだ。
「ヨーくん、このまま結界術の維持を!! 音羽さんと松子ちゃんは、いつでもさっきのように身を守れるように!! 虎ちゃん、いくよ! 最大出力で、終わらそう!!」
「うむ!!」
 安明のかけ声で、全員が動いた。
「破っ!!」
「マーーッスル!!」
 安明と虎之助が、最大出力の《拳》を叩きつけた。世界が揺れるような風が巻き起こる。
 辺りが、さっきよりは明るくなったと、安心したのもつかの間だった。

「あら、あいつらよりは見込みがあるのね。でもね、私たちも昔とは違うのよ」
 女は笑みを浮かべると、手で何かを合図する。その瞬間に、部室の中から、さっきより強い力と《化け物》達が一気に吹き出した。
「なっ、どういうことだ!? ヨーくん、お願い!!」
「うん!! 炎よ、照らせ!!」
 陽一が真っ直ぐにお札を投げ、炎が辺り一帯を照らした。
 そこに映し出されたのは、驚愕の光景だった。数人の男女が、古本に向かって、自らの腕をナイフで切り裂き血を垂らしていたのだ。
「生き血を……」
 陽一が、顔をこわばらせてつぶやく。
「自分たちが何をやっているのか分からないのか!? 今呼んでいるものだって、偉大なものなんかじゃない!! お前達が引き寄せた、悪霊の塊じゃないか!! このままだと、お前達まで飲まれるぞ!!」
 安明が叫んだが、女は和やかに笑っている。
「あら、自分の親と同じことを言うのね? 良い? この世で最も強い力。それはね、「悪意」なのよ。「悪意」に、「善意」で生きている人間は敵わないの」
「そんなこと……!!」
「そんなことないって、言えるかしら?」
 結界術に全ての力を注ぎ、残りの力が少なくなってきた陽一に、女が問いかけた。
「ならば何故、毎日誰かが抗えずに殺されるのかしら? 戦争によって一番踏みにじられるのは誰かしら? 「悪意」に「善意」は敵わないのよ」
 安明と陽一は、黙って女を睨み付ける。
 虎之助は何度も《拳》を打ち出しているが、次から次に出てくる《化け物》達は、減ることもない。音羽と松子も、自分たちの周りだけでもと、必死で動いていた。
「あがきなさいな。全ての力がなくなるまで。「悪意」はね、底を知らないのよ。だからあの媒体がある限り、いくらだって沸き続ける。ふふふ、あなた達はここで終わるのよ。媒体に近づくこともできずに」
 安明も、陽一も、音羽も松子も、そして虎之助でさえ息を切らしていた。

「ごめっ、結界の維持がっ……!!」
「ヨーくん!!」
 陽一が、膝をついた。結界が揺れ、その形が消える。安明が、咄嗟に陽一の前に立った。
 結界がなくなったことで、一斉に《化け物》達が襲いかかる。

 シュッっと、空気が切れる音がした。
 安明達の前に迫っていた《化け物》達が、何かに切られ、消えていく。

《跡継ぎ殿、無事でござるか》
「あなたはっ……!!」
 安明の目の前には、あの時の落ち武者が立っていた。戦に出向く甲冑をしっかりと着込み、刀を構え。
《それがし、この町の変化を感じ、急ぎ舞い戻ったでござる。跡継ぎ殿の気配を追い、ここに来た次第。苦戦していると見させて貰った。助太刀致す!!》
 落ち武者、いや、今は堂々と戦う武士である者が、刀を振り、《化け物》達をなぎ払っていく。
《跡継ぎ殿、進むのでござるよ! 振り返ってはいけませぬ!!》
 安明は、武士に頷き、陽一の手を引っ張って立たすと、陽一、虎之助、音羽に松子と共に部室の中に飛び込んだ。

 部室に飛び込んだはずなのに、そこは真っ黒なモヤがはびこっていて、前も後ろも上も下も分からない。
 かろうじて、全員の気配は感じ取れるが、周りの「悪意」が自分たちにささやいてくる。
もう楽になれ、と。
「この「悪意」に飲まれちゃ駄目だよ……!!」

《ふむ。よく言ったわ。力こそ弱いが、その心意気だけは認めてやろう》

 陽一の言葉と同時に声が聞こえ、周りの黒い「悪意」のモヤが、一瞬にして吹き飛ばされた。
 全員、部室の中に立っていて、目の前では男女が古本に血をかけ続けている。そこから、「悪意」が吹き出し続けていた。
「白蛇様……!?」
 声の正体を見て、陽一が驚いて声を出した。そこにいたのは、あの時の白蛇様だった。今は、陽一の神社の社で奉られている。
《なにやらきな臭さを感じてな。我は今の居場所がなかなかに気に入っておる。その居場所を整備する末がいなくなるのは癪じゃ》
 白蛇様が、シャーッと大きな口を開けた。
 血を流していた男女が怯え、後ずさる。古本への生き血の供給が途絶えた。
 それでも、悪意は全員を狙い、飛び回る。

「なっ!? あんた達、さっさと血を捧げなさい!!」
 女が叫んだが、男女は白蛇様に怯え、古本に近づくことができずにいた。
「良いわ……どうせあんた達に残っている力なんて……」
 女が言い終わる前に、安明、陽一、音羽、松子、虎之助は、暖かい光に包まれた。
 使い切っていた霊力が、微力ながら回復する。
「これは……??」
「なによ!? これ!?」
 安明達も、女も、何が起きているのか分からない。

「本当に分からないのか? 美優」
「親父!?」
 聞き覚えのある……いや、よく知った声に安明が振り返ると、そこには、安明の父親と陽一の父親が立っていた。
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