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オカルトサークルの降霊術 古本編
1-6
しおりを挟む気絶させたのだろうか。それとも「悪意」に耐えられなかったのだろうか。その足下には、秀樹と男が横たわっていた。
「やっぱり、あんた達が……!!」
女が二人を睨み付ける。陽一の父親が、静かに首を横に振った。
「美優、私たちは、何もしていないよ。武士様が助けに来てくださったのも、白蛇様が来てくださったのも、全てはこの子達が繋いだご縁で、それを大切にしたからだ。分かるだろう? 今この子達の周りで力を貸しているのも、この子達が繋いで手を差し伸べてきたご縁によるものだと」
「私の名を呼ばないで!!」
女が癇癪を起こしたように叫んだ。
「美優、もう終わりだ。お前の言う「悪意」は、ただ壊すだけ、何も生まぬ。だが、この子達が繋いできたものは違う。時には傷つきながらも前を向いて繋いできたものが、この結果なのだ。支え、支えられる。人は筋肉と同じなのだから」
「うるさい、うるさい、うるさいうるさい!!」
安明の父親の言葉に、女が狂ったように叫び続ける。
それに反応したように、「悪意」が四方八方に飛び散った。
もはや、誰が標的などと関係なくなった「悪意」が、ところ構わず襲い始める。
「ひぃぃ!! 初代様、お助けを!!」
血を流していた男女が、恐怖のあまり叫んだ。だが、女は怒り狂ったままで、男女を助けようとはしない。
「さぁ、お前達。ここまで来たのなら、やることは分かっているだろう。どれだけお前達が鍛錬してきたのか、見せてみろ!」
「君たちが繋いだ暖かいご縁、確かに見させて貰ったよ。進むんだ、自分の信じた道を、仲間と共に」
安明の父親と、陽一の父親がそう言うと、一気に道を開けるために二人で構えた。
その姿を見た音羽は、反射的に松子を抱いた手の反対の手で、虎之助の手を握る。
「音羽?」
「私、さっきから虎之助くんが教えてくれた動きをしていて、自分の体の中を流れている何かを感じ取れることが少しだけれどできるようになったの! 松子ちゃんのぬくもりも、前より感じられるようになった。だから、私の力をもし受け取れるなら、持って行って! 私、松子ちゃんと一緒に、ここで三人を待っているから!!」
《安明と陽一には、私の力を。不思議ね、音羽と一緒にいたら良い意味で私の霊力も上がった気がするの。音羽と一緒に、待ってるわ》
松子が風に霊力を乗せ、安明と陽一に力を渡す。
「音羽、お前……」
何か言いかけた虎之助だったが、力強く頷く音羽と松子の表情を見て、しっかりと頷いた。
「お礼に、終わったらお試しで飲んでみたいプロテインを買ってやろう」
「うん、楽しみにしてる」
音羽が笑顔で答えるのと同時に、安明の父親と、陽一の父親が、後ろから大きな力を放った。
一直線に一瞬できた道に、虎之助、安明、陽一は迷わず飛び込んでいく。
「終わりだ!! 破っ!!」
「終わらせるよ!! 破っ!!」
「マーーーーッスル!!!!」
三人の声が重なり、血を滴らせている古本に、同時に《拳》を叩きつけた。
その途端、古本から断末魔の叫び声が聞こえ、残りの「悪意」が一気に噴出される。
だが三人はそれに負けじと押し返した。
「「悪意」は確かに強い。俺は何度も「悪意」に負けた。だが、今の俺は一人じゃない。筋肉が他の筋肉に支えられて保っているように、今の俺も、やっすん、ヨーくん、音羽、松子、みんなに支えられているのだ。だから俺は、もう「悪意」などには負けぬ!!」
虎之助の言葉と同時に、三人は最後の力を込めた。
押し合っていた力は、生き血を失った古本の方が段々と小さくなっていき、叫び声も消えたのだった。
「終わった……??」
陽一が、床に膝をつきながら言った。
目の前には、今はもう何の力もなくなった古本が置かれている。
「終わった、ね」
安明が、ふぅ、と息を吐くと、その場に座り込んだ。
虎之助も無言で座り込み、いつもの鞄からいくつものカップとプロテインを出すと、無言で作り始めた。
「みんな、大丈夫!?」
《この様子なら、大丈夫そうね》
音羽と、音羽に抱かれた松子が走り寄ってきて、安心したように膝をつく。音羽は緊張しっぱなしだった糸が切れたようだ。
「あの女の人、どうなるんだろ……」
陽一が、初代様、母上、美優、様々な呼ばれ方をしていた女を見た。
女の目は虚ろで、何も映していない。地面に座り込み、聞き取れない何かをブツブツと喋っている。
「勿論、警察に連れて行くよ。園の動物を殺すなんて、犯罪以外の何物でもないからね」
陽一の父親が、部室に入ってくる。白蛇様がその側についていた。
「全く。あの時もあれだけ己を鍛えろとさとしたのに、聞く耳を持たんな」
《住職殿、いつの時代もそうでござる。良い意味でも悪い意味でも》
武士は刀を収めると、安明の父親に答える。
そんな中、虎之助は、どれだけ入れていたか分からない量のカップでプロテインを作り、一人一人に手渡した。
口では何も言わないが、感謝を示すように。
《ほぉ、これは前に恵みみてくれたもの。また飲みたいと思っていたのだ》
《よく分からぬが、相も変わらず美味であるな》
武士と白蛇様が、最初に一気に飲み干すと、カップを置く。
《では、我は帰るぞ》
白蛇様はそれだけ言うと、スッと姿を消した。
《それがしも、旅の続きに戻るでござる。跡継ぎ殿、それがしは何かあれば、またいつでも参るでござるよ》
武士も、安明と安明の父親、そして全員に頭を下げ、ふわっと消えていく。
「さて、ここからは大人の仕事をしようか」
「うむ」
陽一の父親の言葉に、安明の父親が答え、二人は一気にプロテインを飲み干した。
そして、残った全員に目で合図をすると、宙を見つめ続ける女を抱え、歩き去る。
安明、陽一、音羽は目で合図をすると、思わず笑顔になりながら、プロテインを口に運び一気に飲み干した。松子だけは、まだプロテインに抵抗があるようだ。
「結構飲みやすいんだね、プロテインって」
「これはうちのジムの提携店のものだ。音羽も、社員割引で買えるぞ」
「ふふっ、考えておくね」
いつもの調子に戻った虎之助を見て、音羽が微笑んだ。
「さぁ、帰ろうか」
「お腹すいたぁ……」
安明と陽一も、笑顔のまま立ち上がる。
《あなた達といると、毎日が飽きなくて楽しいわ》
音羽の腕の中で、松子が笑いながら言ったのだった。
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