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第八章
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古乃美は早かった。体育の徒競走で万年ビリで涙目な彼女とは思えないスピードで、慌てて続く優さえも追いつかない。
古乃美は階段を下りきると、速度を全く落とさず渡り廊下の方向へ駆けた。
突然、止まる。
急停止に、全力で追跡していた優が仰け反る。
「うわっ」
廊下の一角が火に包まれている。窓のカーテンが燃え、教室の壁が焼け、真っ赤な炎が生きているかのように床を這っていた。
優は反射的に古乃美を庇いながら、さっと周囲を観察した。
腕を押さえて床で呻いている三浦がいる。そして……、
炎の中に小柄な人影があった。
「三浦君!」遅れて到着した須藤が、三浦に気づき近寄る。
だが優はそれに構っていられない。彼と恐らく古乃美は、倒れる三浦、炎の中の誰かに注意を向けていられなかった。
肉の焦げる寒気を誘う臭気が鼻を刺激したが、力づくでぐっと堪えた。
ぬめぬめと蠢く炎の向こうに、異様な人物がいるのだ。
顔を厳重に巻いた包帯で隠し、運動部……野球部のユニフォームを着用している、長身の人物だ。
「誰だ! お前っ」
古乃美を背後に押しやりながら、時間稼ぎも含めて優が誰何すると、意外な所から答えが返ってくる。
「は、はしづめ、くん」
須藤の声は夢でも見ているかのように、ふわふわとしていた。
改めて見直すと、確かに着ているユニフォームに『橋爪』と記されている。
「だけど」優は唇を噛んだ。
それでけでは断定できない。橋爪のユニフォームなど、手に入れるのは簡単だ。
ゆらり、包帯ユニフォームが腕を上げた。指を真っ直ぐ倒れる三浦に向ける。
「裏切り者……」
「え?」苦痛に頬を歪ませながら、三浦が答える。
「花火と共に誓った友情を裏切った、裏切り者……その要因たるゲスな女は始末した」
包帯男の声はくぐもり、地の底から響くようだ。
「俺が……殺してやった」
そして「ははははははははははははは」と耳障りに甲高く笑うと、近くの窓から外へ飛び出した。
「待て!」優は咄嗟に追おうと考えたが、前面が火の海になっている故に諦めた。
「はしづめ……あれは、橋爪だ」
須藤に肩を借りて起きあがった三浦が、ぽつりと呟いた。
古乃美は階段を下りきると、速度を全く落とさず渡り廊下の方向へ駆けた。
突然、止まる。
急停止に、全力で追跡していた優が仰け反る。
「うわっ」
廊下の一角が火に包まれている。窓のカーテンが燃え、教室の壁が焼け、真っ赤な炎が生きているかのように床を這っていた。
優は反射的に古乃美を庇いながら、さっと周囲を観察した。
腕を押さえて床で呻いている三浦がいる。そして……、
炎の中に小柄な人影があった。
「三浦君!」遅れて到着した須藤が、三浦に気づき近寄る。
だが優はそれに構っていられない。彼と恐らく古乃美は、倒れる三浦、炎の中の誰かに注意を向けていられなかった。
肉の焦げる寒気を誘う臭気が鼻を刺激したが、力づくでぐっと堪えた。
ぬめぬめと蠢く炎の向こうに、異様な人物がいるのだ。
顔を厳重に巻いた包帯で隠し、運動部……野球部のユニフォームを着用している、長身の人物だ。
「誰だ! お前っ」
古乃美を背後に押しやりながら、時間稼ぎも含めて優が誰何すると、意外な所から答えが返ってくる。
「は、はしづめ、くん」
須藤の声は夢でも見ているかのように、ふわふわとしていた。
改めて見直すと、確かに着ているユニフォームに『橋爪』と記されている。
「だけど」優は唇を噛んだ。
それでけでは断定できない。橋爪のユニフォームなど、手に入れるのは簡単だ。
ゆらり、包帯ユニフォームが腕を上げた。指を真っ直ぐ倒れる三浦に向ける。
「裏切り者……」
「え?」苦痛に頬を歪ませながら、三浦が答える。
「花火と共に誓った友情を裏切った、裏切り者……その要因たるゲスな女は始末した」
包帯男の声はくぐもり、地の底から響くようだ。
「俺が……殺してやった」
そして「ははははははははははははは」と耳障りに甲高く笑うと、近くの窓から外へ飛び出した。
「待て!」優は咄嗟に追おうと考えたが、前面が火の海になっている故に諦めた。
「はしづめ……あれは、橋爪だ」
須藤に肩を借りて起きあがった三浦が、ぽつりと呟いた。
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