68 / 101
ラストール
しおりを挟むデキウス二世がまだ闊達で目に輝きがあった時、彼は一人の少女に恋をした。
否、愛した。
恐らくそれがデキウス二世にとって最初で最後の愛だ。
そもそもデキウス二世がエルドリアの王になれたのは奇跡のような偶然が重なったからだ。
一〇年前、エルドリア王国は隣国ラテリアと強国ローデンハイムの二国と戦争状態にあった。
王位継承権の高かった本来の王族達は二国が放った刺客に倒れ、結婚もせず戦場で剣を振るっていた変わり者のデキウス二世の継承権が跳ね上がった結果である。
敵国達を退かせて我に返ると、エルドリアの王冠を置く頭はデキウス二世の物しかなかった。
エリザベトにとって好機だった。
デキウス二世が元々持っていた小さな領地は彼女の領地の隣であり、彼とは面識があった。
彼女は決まっていた結婚を反故にして、デキウス二世の元へ走った。
王となる男は、彼女が思っていたよりも変わった人物だった。
戦場で幾人もの敵の首を上げた逸話が嘘のような、無邪気でよく笑う青年だ。
「結婚したら女と遊べなくなるだろ?」
と、貴婦人達が顔をしかめる男の本音を平気で口にし、実際幾人もの女性との浮き名を流す伊達男だ。
エリザベトの心は一瞬で掴まれた。
何より、この男を落とせば王族になれる。エリザベトは容赦なくライバルをけ落とし、ようやく彼の目に入った。
デキウス二世のベッドで抱きしめられ、一晩中可愛がられた。
だがここでエリザベトの運も途絶える。
一人の少女の輝きにデキウス二世が虜になったのだ。
ソフィア・ボーダー。
ボーダー家、この国を守る要の一族に生まれた娘だ。
ソフィアはエリザベト達と違った。
彼女は権力など望んでいなかった。
故に、貴婦人達の間で遊ぶデキウス二世にはっきりと諫言した。
その時、ソフィア・ボーダー一八歳。
小娘による非難、王の気分によっては極刑もあり得る。
だがデキウス二世は違った。
彼女に魂を奪われてしまった。
デキウス二世はすぐにソフィアを妻に、王妃にしようと動いた。
エリザベトの一族・ラストール家が放った『耳』はすぐに事態を把握した。
嵐のようにエリザベトは怒り狂乱する。
エリザベトが次期王に抱かれたと知るラストール家の当主フレッドも妙な期待をしてい
たらしく、彼女に呼応し謀略を尽くした。
王と言えど簡単に結婚は出来ない。
まず諸侯や領主達を納得させなければならない。
間隙を縫い、ラストール家はボーダー家に反逆の汚名を着せた。
ボーダー家は武門の出で、配下にボーダー騎士団と呼ばれる強力な戦闘集団がいた事が幸いした。
元よりエルドリア王国は直前まで戦をしていた、彼等が武装しているのは当たり前だ。
が、それを証拠と言いがかりを付け、ボーダー家が玉座を狙って反乱の用意をしている事実は公然の物となった。
勿論、この無茶苦茶なやり方に四方八方から異論は出た。
だが至る声を、ラストール家は肥沃な領土と貯め込んだ財産を武器に黙らせる。
ソフィア・ボーダー含めたボーダー一族の処刑はすみやかに行われた。
デキウス二世が介入する前に。
一連を後に知ったデキウス二世は目の煌めきと笑顔、魂を失った。
エリザベトとの結婚を承諾したのも、彼にとってはどうでもよかったからなのだろう。
……なれどっ!
エリザベトは心の中で吠える。
……私は今はエルドリアの王妃!
手にした扇で乱暴に己を扇ぐ。
ソフィアの、ボーダー家の血の臭いを吹き飛ばすかのように。
0
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる