借景 -profiles of a life -

黒井羊太

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生徒D

生徒D④

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×月△日(曇)
 今日は先生にはいないでもらった。勝手な話だが、見ていて辛くなってしまう。先生はそうかといって、職員室で仕事、をほっぽりなげて、小説を読み始めた。最近流行っているそうだ。
 一人でカツカツ彫りながら考えていたが、そもそも私の先生に対する気持ちは一体どんなだっただろうか?
 恋心、に近いとは思う。だが違うんだろう。
 私は知っている。先生が私に優しいのは、私に対する『同情』だ。
 ……
 日記というのは誰かが見るという事を全く想定していない物であるが、ここから書く事は私にとって特に誰にも見られたく無い事である。私の心の整理の為に敢えて書くが、人にやたらめったら知られて良い物ではない。従って、この日記は未来永劫死守せねばならない。

 私の家族について。
 私の父というのは大変ひどい人で、目が合う度に殴られた。殴られて腫れぼったくなった私の目を見て、「何だその目は!」と怒鳴りながらまた殴る。その繰り返し。
 母は、私を一生懸命かばってくれた。自分が傷ついても。でも、それを見ていたくなかった。
 私は部屋にこもった。なるべく父親と会わないように。それで平和になるならそうするしかなかった。
 人と話さなくなって、しゃべる事もできなくなって、絵ばかりを描くようになった。心の中を吐き出すように描いた。
 やがて母は、私を連れて家を出た。父は追いかけて来なかった。
 だからといって一度壊れた私の心は、すぐに元通りという訳にはいかなかった。私は、学校へも行かず絵を描いた。
 母は、働きながら画材をくれた。文句一つ言わず、私の描くひどい絵を見てくれていた。
 二、三、質問をしてくる。あの頃は面倒臭いとしか思っていなかったけど、答えてあげると母は喜んだ。私は、あの時気持ちを言葉に出来なかったけど、確かに嬉しかった。
 心が落ち着いてきた頃、部屋にこもる前の友達が訪ねてくれた。
「一緒に学校へ行こう?」
 あの時の事は今でも忘れない。私が今高校に通っているのも、普通の人間のようにしていられるのも、あの子のおかげ。今もこうして友達としていてくれてる事にいつも感謝している。

 高校。入ってすぐに現れたのは、先生だった。
 私は最初、怖くて仕方なかった。だって、あの父親と同じくらいの年頃だったから。
ーーきっと殴られる。
 治りかけていた心の傷が開いていったんだ。
 先生と目があった瞬間、私は多分相当青ざめていただろう。
 そんな私を見て、先生が真っ青になったんだ。
「おい、大丈夫か!?」
 そんな言葉、かけられるなんて思っていなくて、びっくりしてると、先生は私をお姫様だっこして保健室まで運んでくれたんだ。
 あの時の私には、理解を遙かに超えていた。でも、とても嬉しかった。
 その後も先生は、私に対して当たり前に接してくれた。普通に挨拶し、普通に話し、普通に叱り。
 昔の事なんてすっかり忘れてしまって、先生に構ってもらえるのが嬉しくて。目が合う度幸せな気持ちになった。
 冷静に書くと恥ずかしいな。
 高校生活。友達と先生のおかげで楽しかった。家に帰るたびに、学校であった事を話すと母は嬉しそうに聞いてくれた。
 先生は、私の生い立ちを知っている。いつだったか、何かの拍子に聞いてみたら、知っていると答えた。そして 自分も似たようなもんだったと教えてくれた。だから、人一倍何かをガンバレって言ってくれた。
 先生はいつだって優しい。他の生徒より、私に優しくしてくれる。でもそれは、好意じゃない。……とてももやもやする。
 ……
 先生には明日謝ろう。何となく、そうすべきだと思う。



×月★日(曇)
 先生に謝った。先生はとても驚いていたが、事情を話すと(勿論私の先生に対する気持ちは伏せているが)、先生は笑った。何だ、そんな事を悩んでいたのかと。
 先生はとても優しい。けど、だから私は苦しい。
 ……
 制作に集中しよう。
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