借景 -profiles of a life -

黒井羊太

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再び、親友B

再び、親友B②

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 あっという間の帰省から戻り、一人自分の部屋に寝転がりながら、うだうだと考え事をする。正直、起きあがる気力も湧かないので、もう何日もこうしている。
 ……あんなに早く死んじまって、果たしてあいつの人生とは一体なんだったのだろう?何を残したのだろう?
 ……そもそも、僕はあいつのどれほどを知っているだろう?
 高校時代の一年足らずの時間、それから、再会して飲んだ日。俺は、あいつの人生の、ほんの一部を切り取って見ただけだ。知らない事の方が断然多いはずだ。
 僕の世界に飛び込んできた、ストロボのような男。ほんの一瞬、強烈な閃光で輝いて、そして消えていった。
 僕もきっと、他人から見ればそうだ。誰かの人生にほんの一瞬関わって、人によっては閃光のように、人によってはとても醜い存在として映る。その連続。
 僕は奴があまりに眩しすぎて、辛くなって、必死で忘れようとしていた。
 確かに奴の裏切りはあまりに痛烈で、衝撃的すぎた。人生の価値がいっぺんに崩壊した瞬間だった。
 でも、忘れてしまうべきではなかった。今になってそれを痛切に感じている。
 あいつとの日々は、今も眩しく輝いている。その結末が苦い物だったとしても、その事実は変わらない。そしてこれからも続いていくはずだった。俺と奴の、眩しい日々。そこには今は全く知らない人が加わるかも知れない。昔の知り合いが混じるかも知れない。そんな事に胸を躍らせ、いつも何か良い事があるんじゃないかと思う日々。
 でも、死んでしまったら意味なんて無い。これ以上人と出会う事もない。関わる事もない。その内、誰からも忘れ去られて、いたのかいなかったのかも関係なくなって、やがて最初からいなかった事になって。全部無くなる。
 そいつの悩みも、苦しみも、喜びも。何もかも。何も無くなる。
――人生なんて、意味がない。
 これまで生きてきて、何度か行き着きかけ、その度そんなはずはないと否定してきた答え。
 子どもじみた考えに、思わず自嘲気味に笑う。が、今はこの答え以上にすんなり受け入れられる答えはない。
死んだら終わり。それまでの事は何もかも消えてしまう。何の為に頑張ればいい?どうせ何もかも消えてしまって、無駄になるのに。
 あいつに限った話じゃない。俺だってそうだ。
 どんな人生だろうと、意味なんて無いんだ。
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