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小説家H
小説家H②
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――確かに。この作品の最大の特徴はそういう点だと思います。しかし作品から主人公を外す、という発想に至ったのは、何かあったんでしょうか?
(H)それは話せば長くなりますが……尺、大丈夫ですか、では。
先程申し上げました通り、書いては心が折れる時期が長かったもので、そうした折りには公園へ行ってぼんやりと考え事をするのが日課だったんです。人気の多い公園で、まあまあ、色んな人が来るんですよ。子どもから大人、老人、アベック……何か良いネタになるような事が起きないかな~とか見てるのが趣味でした。
ある日、物凄い暗い少年がいました。見ただけで分かるくらいに暗い。何というか、僕はそう言うのが「視える」人ではないんですが、負のオーラが半端じゃなかった。
一発で引きつけられましたね。そして「何でこの子はこんな年でこんな暗いんだ?」という疑問で頭の中が一杯になりました。
誰と遊ぶでもなく、ただ一人、誰の邪魔にもならない所へふらふら~と場所を移しながら時間を潰しているようでした。
僕も暇なもんですから、ず~っと見ていた。明くる日もその次の日もその翌日も。彼はふらふらと公園を移動する。歩き回るんじゃないんです。ただ誰の邪魔にもならないようにしているだけ。
誰も彼を気にしなかったでしょう。そこにいる、だなんて誰も思わない。思いつきもしない。そんな様子でした。
僕は、彼の人生を想像しました。一体どんな人生を歩めば、十才そこそこだろう彼はああなれるんだろう、と。
――声はかけてみたんですか?
(H)ついぞ掛ける機会がなくて。で、しばらく毎日彼はそうしていました。
その後、僅か数日だけ見かけない日が続いて、次に現れた時には、びっくりしました。髪が一本残らず真っ白になってました。しかし彼の顔は晴れ晴れとしていて、何というか、エネルギーに満ちていました。
――そんな事があるんですか?
(H)信じられない内容ですし、信じなくても良いですが、作り話じゃないんです。それで気になって、遂に声を掛けてみたんです。
彼も僕に気付いていたみたいで、すんなり応じてくれました。
彼は多くは語らなかった。自身の事もほとんど。ただ、とてもエネルギーに溢れていた。
強烈でしたね。そこから僕は、「どうして数日でここまで変われるのか?」と言う事に取り憑かれてしまいました。
――確かにそう思いますね。その彼とは今でも?
(H)いえ。その次の日から見かける事は無くなりました。
まるで夢のようでした。その事が却って私の妄想を掻き立てました。
彼のこれまでの人生は? 彼の両親は? 彼の住んでいる部屋は? 彼のこれからの人生は? 妄想が無限に湧いてきては、矛盾や破綻が出てきてしまって。しかも正解は分からない(笑)
――そうですね(笑) 答え合わせも出来ませんし。
(H)でしょ? そんな思考を繰り返している内に、待てよ。と思ったんです。こうして公園のベンチから見る人たち、幸せそうな人でもそうでない人でも、それぞれ生活があって、人生があって、たまたま今この時に、この公園に居合わせているんだなって。
その辺の母子を見ても、少女が母親になるまでには二十年、あるいはもっと時間が掛かる。それまでのたくさんの悩み、苦しみ、喜び、あらゆるものを乗り越えてここにいる。子どもを産んで、きっと皆喜んで、すくすくと元気に育って、今こうして公園で遊んでいる。今日が初めてかもしれない。通い慣れた場所なのかもしれない。その子どもにとって、ここは思い出の場所になって、何十年か後に訪れて懐かしいなぁとか言っているおっさんになっているかもしれない。とか。
それ以外にも、僕が見ていない時の公園について、考えたりし始めて。誰かがすれ違ったり、たまたま誰かと再会したり、女の子に告白している男の子がいたり、酔っ払いがいたり。とか。
――妄想が激しくなってますね(笑)
(H)全くその通り(笑) でも、『ただそこにある人生』、というものに強く惹かれるようになりました。
そして僕は、猛烈に『ただそこにある人生』を書き綴ってみたくなった。そして『ただそこにある人生』を、書かない事で想像させてみたくなったんです。
今挙げた例からも分かりますが、世の中の多くの人にとって、誰も彼も小説や映画のような特別な人生ばかりじゃない。普通の人生、ありふれた人生と言い表せるものばかりです。けど、そんな特別じゃない人生の関わりあいが、この世の中を覆い尽くしているような気がしたんです。
今ここで僕の話を聞いている貴方だって、昨日パッと虚空から産まれて、今日ここにポンといる、と言うわけではないでしょ? 今から年齢の分だけ前に産まれて、色んな経験をして、こういう文章の世界で生きたいと思って、努力して、時には支えてもらいながらここに辿り着いた。そしてこの先もきっとそう言う感じで道を開いていく……見える……見えます……!
――あ、今私の人生も妄想されてますね(笑)
(H)絶賛妄想中です(笑) でも、そう言う事なんです。
(H)それは話せば長くなりますが……尺、大丈夫ですか、では。
先程申し上げました通り、書いては心が折れる時期が長かったもので、そうした折りには公園へ行ってぼんやりと考え事をするのが日課だったんです。人気の多い公園で、まあまあ、色んな人が来るんですよ。子どもから大人、老人、アベック……何か良いネタになるような事が起きないかな~とか見てるのが趣味でした。
ある日、物凄い暗い少年がいました。見ただけで分かるくらいに暗い。何というか、僕はそう言うのが「視える」人ではないんですが、負のオーラが半端じゃなかった。
一発で引きつけられましたね。そして「何でこの子はこんな年でこんな暗いんだ?」という疑問で頭の中が一杯になりました。
誰と遊ぶでもなく、ただ一人、誰の邪魔にもならない所へふらふら~と場所を移しながら時間を潰しているようでした。
僕も暇なもんですから、ず~っと見ていた。明くる日もその次の日もその翌日も。彼はふらふらと公園を移動する。歩き回るんじゃないんです。ただ誰の邪魔にもならないようにしているだけ。
誰も彼を気にしなかったでしょう。そこにいる、だなんて誰も思わない。思いつきもしない。そんな様子でした。
僕は、彼の人生を想像しました。一体どんな人生を歩めば、十才そこそこだろう彼はああなれるんだろう、と。
――声はかけてみたんですか?
(H)ついぞ掛ける機会がなくて。で、しばらく毎日彼はそうしていました。
その後、僅か数日だけ見かけない日が続いて、次に現れた時には、びっくりしました。髪が一本残らず真っ白になってました。しかし彼の顔は晴れ晴れとしていて、何というか、エネルギーに満ちていました。
――そんな事があるんですか?
(H)信じられない内容ですし、信じなくても良いですが、作り話じゃないんです。それで気になって、遂に声を掛けてみたんです。
彼も僕に気付いていたみたいで、すんなり応じてくれました。
彼は多くは語らなかった。自身の事もほとんど。ただ、とてもエネルギーに溢れていた。
強烈でしたね。そこから僕は、「どうして数日でここまで変われるのか?」と言う事に取り憑かれてしまいました。
――確かにそう思いますね。その彼とは今でも?
(H)いえ。その次の日から見かける事は無くなりました。
まるで夢のようでした。その事が却って私の妄想を掻き立てました。
彼のこれまでの人生は? 彼の両親は? 彼の住んでいる部屋は? 彼のこれからの人生は? 妄想が無限に湧いてきては、矛盾や破綻が出てきてしまって。しかも正解は分からない(笑)
――そうですね(笑) 答え合わせも出来ませんし。
(H)でしょ? そんな思考を繰り返している内に、待てよ。と思ったんです。こうして公園のベンチから見る人たち、幸せそうな人でもそうでない人でも、それぞれ生活があって、人生があって、たまたま今この時に、この公園に居合わせているんだなって。
その辺の母子を見ても、少女が母親になるまでには二十年、あるいはもっと時間が掛かる。それまでのたくさんの悩み、苦しみ、喜び、あらゆるものを乗り越えてここにいる。子どもを産んで、きっと皆喜んで、すくすくと元気に育って、今こうして公園で遊んでいる。今日が初めてかもしれない。通い慣れた場所なのかもしれない。その子どもにとって、ここは思い出の場所になって、何十年か後に訪れて懐かしいなぁとか言っているおっさんになっているかもしれない。とか。
それ以外にも、僕が見ていない時の公園について、考えたりし始めて。誰かがすれ違ったり、たまたま誰かと再会したり、女の子に告白している男の子がいたり、酔っ払いがいたり。とか。
――妄想が激しくなってますね(笑)
(H)全くその通り(笑) でも、『ただそこにある人生』、というものに強く惹かれるようになりました。
そして僕は、猛烈に『ただそこにある人生』を書き綴ってみたくなった。そして『ただそこにある人生』を、書かない事で想像させてみたくなったんです。
今挙げた例からも分かりますが、世の中の多くの人にとって、誰も彼も小説や映画のような特別な人生ばかりじゃない。普通の人生、ありふれた人生と言い表せるものばかりです。けど、そんな特別じゃない人生の関わりあいが、この世の中を覆い尽くしているような気がしたんです。
今ここで僕の話を聞いている貴方だって、昨日パッと虚空から産まれて、今日ここにポンといる、と言うわけではないでしょ? 今から年齢の分だけ前に産まれて、色んな経験をして、こういう文章の世界で生きたいと思って、努力して、時には支えてもらいながらここに辿り着いた。そしてこの先もきっとそう言う感じで道を開いていく……見える……見えます……!
――あ、今私の人生も妄想されてますね(笑)
(H)絶賛妄想中です(笑) でも、そう言う事なんです。
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