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第一章 出会い
4 触れ合う、肌と肌
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玄関から廊下に上がったあたりで、その大きな黒い影と沙夜さんは向かい合っていた。
離れた廊下の端から、僕は沙夜さんの後ろ姿を見ている。
僕が出会った時と同じ、純白のセーターにタイトスカート姿の沙夜さん。
沙夜さんは少し溜息をついたあと、両手を差し出して黒い影の肩と思えるところにぶら下がりキスを求めた。
すると、黒い影の顔のあたりから、ぬるぬるの触手が長く伸びて、沙夜さんの首に幾重にも巻きついた。
「うぐ……」
うめき声を制するように、巻きついた触手の先端が、ちゅくちゅく音を立てて沙夜さんの唇をこじ開け進入する。黒い影は激しく動きながら、そのままむくむくと天井近くまで膨張し、沙夜さんの体がとうとう宙に浮き始めた。
つま先にストッキングのだぶついた、ふしだらな足先が、ちらりと見えた。
……なに? 変な夢。エロアニメの観過ぎだな、きっと。
リビングの窓から、夕日に照らされた公園の桜の木が見える。
そろそろ桜も満開か。
壁の時計は、最後に見た時から十分ほどのちを指していた。長い時間寝ていたわけではなさそうだ。
結局、三回も出しちゃったよ。
突然、壁のむこうで、ドカンドカンと大きな音がした。
へ? 沙夜さん帰ってる?
僕はソファから立ち上がった。なんだ、真っ裸じゃないか、そうか、そうだった。
慌てて自分の部屋に戻りスウェットの上下を着て、親父の部屋の扉の前に立った。
扉のむこうでなにかをぶちまけるような音がした。さっきのドカンという音は、この音だったんだ。帰った早々、なにをやってるんだろう? ……ていうか、見られてたとか。まさかね。
「あのー、お手伝いしましょうか?」
とりあえず声をかけてみた。
返事はない。聞こえなかったのかな?
「沙夜さん?」
しばらく待つも、やっぱり返事はない。
「あのー、晩ご飯どうしますぅ?」
アプローチを変えて聞いてみた。
すると……。
「パス! 失格お義母さんは、しばらく反省モードということで」
投げやりな物言い。
はあー、見られてたんだよなあ。きっと。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
炊飯器にお米をセットしたあと、冷凍庫にあったすじ肉を解凍して、カレーを作った。ああ、金玉の裏が重だるい。
沙夜さんはあれ以来沈黙したまま、部屋から出てくる様子はない。
僕はリビングの照明を消して、壁の時計を息を詰めつつそおっと外し、穴から沙夜さんの様子を窺った。
なぜかむこう側の本棚の本がなくなっていて、日没後の青白い部屋に、ベッドサイドのルームランプで赤く照らされたベッド全体が、はっきりと見渡せた。
ベッドの真ん中で布団が丸く膨らんで、それが小刻みに上下しているのが確認できる。布団の中でなにか食べてるのか?
森の中、新種の野生動物を物陰から観察するような心持ちになった。
微笑ましく目を細めている自分がいる。
いやいや、今の状況は完全にアウトでしょ! でもなあ……。
しっかりしているようでいて少し詰めが甘い、地味に苦労を重ねてきたらしいけど、どこかしらお嬢さん風。楽天的っていうのか、そんな沙夜さんのキャラに、僕はずいぶん助けられているように思う。あんなにもきれいな大人の女性と、女の子と手を繋いだことすらない僕が、本来ならば初めからうまく打ち解けられる筈がないのだから、ここは感謝すべきだ。
ああいうのを人徳、っていうのかな、ちょっと違うか?
そうしてるうちに、ベッドの上の沙夜さんが、むくりと起き上がった。下着姿? 白のスリップ? 柔らかそうでいて大きく突きだした胸の先端に、ランプに照らされてツンと現れた透け乳首の陰影。
うわ、エロ過ぎ! ブラ着けてないし。
布団の中をまさぐって、手にしたなにかを大きく宙に掲げた。
あれは……ディルド? 僕が見たのとは違うやつだ。いくつ持ってるんだよ!
きのうの黒人仕様ほど長くはないが、カリは大きい。日本人仕様ってところか。それでも充分巨根のディルドだ。
沙夜さんはベッド横の壁にかかった大きな楕円形の鏡に、ディルドの根っこについている吸盤をペタリと貼りつけ固定した。そしておもむろに咥え始めた。
そうか、布団の中であれを!
大きく張ったカリがねっとりと沙夜さんの口の中に呑みこまれた。
じゅるじゅると唾の音がかすかに聞こえてくる。
そのうちに、頭全体をグラインドさせながら、長いディルドが沙夜さんの中に、徐々に徐々に沈んでいく。
すげっ!
七分目ほど埋まったあたりで挿入が滞り、小刻みに頭を震わせて「うぐぐぐ」と、さらに先に進もうと呻く沙夜さん。
そのうちにすとんと、ディルドの茎が小さな頭の中に手品のように消た。
あれって二十センチくらいはあるよね。嘘みたい。すごいな、沙夜さん。
汗でテラついた首の喉仏あたりが、心なしか太く膨張しているようにも見える。
喉ちんこを越え、食道にまで達してるのか?
女の子の胴体に剣を突き刺すマジックを見たときのような猟奇的な興奮を、僕は覚えた。
そのまま数秒を耐え、沙夜さんは、ディルドを一気に引き抜いた。
「ふあああぁ……」
反動で体を仰け反らせて座り込んだ姿勢のまま、幾度も乳首の浮いた大きな胸を上下させて大きく息をつく沙夜さんが、力無くなにか言い始めた。
僕は穴に耳を押し当てて聞いた。
「ハア、ハア……きた早々急展開です。じゅるっ……ねえセンセ、わたしはどうすればいいですか? ……それに、それに、わたしなんか期待しちゃってます……だって、あんなに凄い……」
言いかけたまま体勢を立て直すと、大きく息をついて、再度、壁のディルドを飲み込んだ。こんどは最初から奥までずっぽり入った。
両手を後ろ手に組んで、ノーハンドでディルド相手に自ら杭打ちのようにピストン運動を繰り返す。
「うぐ、うぐ……うゎか、うゎか、うゎか」
馬鹿、馬鹿って言ってる?
ふたたびディルドを引き抜くと、幾筋ものえずき汁が、透き通った水飴みたいにキラキラと派手に糸を引く。
「ハア、ハア、でも半分は、センセの、せいれすからねっ! なんであのビデオがリビングのテレビに流れてるのよぅ? なんで光くんがそれを観てるのよぅ! それに、それに……うぐぐぐぐぐ」
また咥え込んだ。もう耳を当てなくても聞こえる声の高さだし。
「らめぇ、らめぇ、おがしくらっちゃう! こんらのいやら、ほんものらいひっ」
まさか今、本物がいいって言わなかったか?
沙夜さんの両手が胸の方に移り、両方の乳首をスリップの上からつまみながら、頭のグラインドと合わせて、突き出したおしりまでエロく回し始めた。
片方だけ肩紐が落ちたスリップの背中の肌が、見る間に汗で輝き始め、むっちりとしたふとももの肉がかすかに震え出す。
もしかしてイッちゃう? 喉奥で? それに、義母さんは反省モード、なんでしょ?
なにかが憑いたみたいに、大仰に震えたあと、壁の鏡にディルドを残したまま、沙夜さんは果てて、崩れ落ちた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
時計を見ると、まだ九時を回った頃だ。
こんなに早い時間にベッドに入るのは、オール明けの試験時期を除けば、小学生低学年以来かもしれない。
新学期が始まったところなので、新しい教科書に目を通すだとか、するべきことはいろいろある。でも……。
なにも手につかない、する気がしない、いや、できる気がしない。
そりゃそうだ。きのうからいろんなことがあった。僕の人生の中でも、インパクトのある、ありすぎる出来事の数々。
暗い部屋の布団の中でスマホを点け、さっき親父から届いていた短いメールを、もう一回読んだ。
今、フランクフルトで昼メシを食ってる。
現地スタッフも優秀で順調な滑り出しだ。
そっちはどうだ。仲よくできてるか。
沙夜ちゃんから刺激をもらってるか。
身寄りのない沙夜ちゃんにとって
おまえはかけがえのない家族だっていう
自覚を持っておいて欲しい。
やさしく接してやってくれ。頼んだぞ。
それじゃ、また。
身寄りがないって、そんなの聞いてないよ。もう、小出しにしないでよ。
それから、刺激? たっぷりいただいてますがなにか?
沙夜ちゃんは、あれからずっと、晩ご飯も食べないで籠もりっぱなし。しかたがないから、ただ今、部屋で寝ながら待ってます。出てきたらやさしくしますんで。
そんなような事を、打ち込みかけて、やめた。
『了解! まかせて!』
そう短く返信した。
とりあえずこのまま待つのがいい。
リビングでテレビを見ながら振り返って、やあ、起きた!、というのも笑っちゃうし、部屋でゲームやネットをしているうちに、スルーされ明日に持ち越し、というのもめんどくさい。
昼に笹田クンが唐突に言った、『扉を開けて』というのを思い出し、ドアは全開にしてみた。笹田クンはきっと、心を開いて、って意味で言ったんだろうとは思うけど、なんかピンときた。廊下の照明をわざと点けたままにして、暗い部屋を際立たせて誘導する作戦、いや、笹田クン言うところの、実験だ。
この暗闇で待っていたら、夜中に沙夜さんがそっと現れて、そして僕はそう、きっと……ひひ。
写真を見てずっとあこがれてましたっ、なんて言って、あの胸に顔をうずめるんだ。刺激をいっぱいもらって、これからの三週間が楽しみでしかたがない。
不埒な考えが頭の中を駆け巡り、期待に満ちたペニスは、重だるい感覚もどこかに消えて、すでに準備完了の状態だ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
僕が布団に入って一時間ほど経った頃だろうか。ドアが閉まるカチャリという小さな音が廊下の方から聞こえ、うとうとしかけていた意識が一気に引き戻された。
出てきたの?
廊下から部屋に差し込む光が、少しだけ揺らいだように思えた。
頭を少しだけもたげて、全開のドアの方を薄目で窺い見た。
ドアの端に貼りつくように黒い影があった。
心臓がきゅっとすぼまるような感覚。思わず息を殺した。
今起き出すと、きっと逃げる。僕はただただ、じっと寝たふりをして待った。
しばらく待つとそのうちに、光の揺らぎが大きく確実なものになり、冷えた部屋の空気が少し動くのがわかった。
きた! そして僕は、薄目だった目をしっかりと閉じた。
腰のあたりのベッドマットがすうっと静かに沈んで、スプリングがかすかに鳴った。
座った! 僕の横に。
まだだ、まだそのまま。
なにか言うのか? とにかく僕はこのまま待つ。そして起こされたアクションに応える、そうするんだ。
ほんの数秒がやけに長い。
そして不意に脇腹がゆっくり圧迫されて、ベッドマットがさらに沈み、スプリングが大きく軋んだ。
顔面にかすかに感じる生ぬるい空気。そして息がかかる。あたたかくて甘い息。
いよいよだ!
でも、その先は……ない。
顔面にまとわりついた体温は肌に接することはなく、すぐさま冷たい空気に入れ替わり、またベッドが軋んで、遠くで溜息をつくのが聞こえた。長い鼻溜息。それからベッドマットがふわっと浮き上がりかけた。
いかないで、沙夜さん!
僕は、思わず沙夜さんの腰にしがみついた。
「起きてたのね」
驚く風でもなく、思いのほか落ち着いた低い声が返ってきた。
腕から伝わる腰まわりの感触。
柔らかいね。やさしいね。もういいんじゃない、このくらいで。そうもうひとりの自分が怖じ気づく気持ちを隠すみたいに心の中で囁いた。
それでも僕は離さなかった。
まだ、ダメって言ってないよね。やめなさい、とも言ってないよね。もう少しこのままでいさせてよ。
さらに力を込めると、腰に回した腕がするりとウエストのくびれに落ちついた。
やばい。エロい。征服しちゃってOKって思える細さ。
ふんわり厚めの布が腕の動きに合わせて、内側で滑る感触。もしかしてさっきのスリップの上にガウンを羽織っただけ?
少しずつ気持ちに余裕が生まれてきた。
僕は沙夜さんの肩に手をかけて素早く起き上がり、正面から抱きしめた。すがるように。
これでもまだ、ダメ、じゃないの沙夜さん?
顔と顔が密着する。頬と頬がすれる。柔らかい頬の肉、顎までもが柔らかい。意外と頑丈そうな首にのど笛のほんのりプツプツ感。そしてガウンを開いてたどり着いた胸元、超絶のすべすべ。ああ。
めくるめく、ってこういうのをいうんだね。香水じゃない甘い香り。女の匂い。
僕の顔はとうとう沙夜さんの胸の谷間にうずめられた。そう、とうとう。
すごいですね。とうとうここまできましたね。初めてなのにやるじゃん、オレ。
でも……。
沙夜さんはなにも言わない。抱きしめてくれることもない。そして……。
「何やってるの?」
低い声音がしんとした部屋に響いた。
僕は動きをとめた。
沙夜さんはさらに続けた。
「誰に、なにやってんのって聞いてんの?」
耳がかっと熱くなった。
悪かったね!
「だ、誰ってそりゃ沙夜さん、いやお継母さん、お義母さん、いやいや、お母さん?」
「ふーん。じゃ聞くけど、そのお母さんにこんなことしていいわけ?」
「そりゃ、ダメかもしれないけど。でもでも、そりゃないよ沙夜さん!」
「なにがないの?」
「会って早々にハグしてくるし、ブラ紐見せびらかして……、それに、あのビデオだって……」
「ちょっとぉ、あれは光くんが先生のやつを盗み観してたんでしょ。それに、ああいうのの見せびらかして! ブラ紐と比べないで」
「そんなの不可抗力だよ」
「いい? 手を尽くしてなお、って時に使うのよ不可抗力って言葉は。玄関の鍵はかかってないし、わざわざスリッパぱたぱたさせて入ってやったのに、ヘッドホン着けちゃって聞こえもしない。それからわたしをオカズに三回も……」
「もしかして、ずっと見てたとか?」
「……見てたんじゃなくて、見えただけ」
「立ち去らずに見てたんでしょ?」
「それは、そうなんだけど……」
明確に反論せず沙夜さんが口ごもる。
ははーん。やっぱり欲情しちゃったとか。 さっと心が軽くなった。
いきさつはさておき、このままヤッちゃいませんか、と軽く微笑んで提案できちゃいそうな、そんな雰囲気ではないのか? 今のこの状況は。女性経験を積んだ男ならきっと、このタイミングを逃すことなく、すかさず女の唇を奪うに違いない、そんな確信が湧いた。
そして、僕はそうしてみた。
「あう……」
有無を言わさずって感じでキスをした。
唇に押し当てた舌が、するりと口内に滑り込む。僕の唾液と沙夜さんの唾液が混ざり合って泡音を立てたが、変な違和感は少しも感じなかった。唇を奪った瞬間、かすかに唾液の匂いを感じはしたが、今は甘美な味だけが舌を満たしている。
全然力の入ってない沙夜さんの両手のひらが、ふわふわと僕の胸を叩く。
抵抗してるつもり? それとももっと吸って欲しいわけ?
こわばりがちだった沙夜さんの舌から力がみるみる抜け、じきにねっとりと僕の舌に絡み始めた。
「……ふぅあーん」と鼻から抜ける声。
うわぁ、エロMAX!
誰にも教わってないのに、鼻が当たらないようにちゃんと顔をずらせてキスができているじゃん。沙夜さんの冷たい鼻先が、僕の頬にめり込む。
沙夜さんの両手がいつの間にか僕の背中に回されてるが、そこに情熱までもを感じとれないのが、じれったい。
僕は沙夜さんを力いっぱい抱きしめ、そのままバランスを崩してふたりしてベッドから床に崩れ落ちた。
「……冷たい」
いつの間にかガウンが脱げ落ちてスリップ姿になった沙夜さんが、唇から唾液の糸を引きながらつぶやいた。
「あ、ごめん」
僕は素直に謝り、冷たい床に貼りついた沙夜さんの背中に手を差し入れて、少しだけ持ち上げた。
スリップ越しの柔らかな肉の感触とその奥にある骨の控えめな存在感。
焦り過ぎた。
やっぱり、キャパオーバーだ。
「じゃあ僕、どうすればいいの?」
廊下の光を受けキラキラと輝く色素の薄い茶色い瞳が、僕を慈しむように見ていた。
「試すようなまねして、ごめんね」
持ち上げられた体勢のまま、沙夜さんの両手がそっと僕の顔を包む。
「……ははっ、ほんともう、困った子」
ほんのり妖しさを宿した瞳で沙夜さんは微笑む。
「重かったでしょ。ありがと。……光くんって、やさしいよね」
沙夜さんは起き上がり、あらためて僕の背中に両手を回した。
こんどは包み込まれるような抱擁だった。
「お母さん……か。母親ぶるのもおこがましいし、正直実感も薄いんだけど、うれしいよ。自分でも不思議な気分。何だろうね。ずっとずっと一緒に居られる確約を得た……みたいなこと?」
一時の過ちはこれでもう終わり、そんなことを思って沙夜さんはまとめに入ってるのかもな。僕は心の中で溜息をついた。
「光くんもいよいよ受験だし、変なことばっかり考えてちゃダメよ……」
やっぱりね。
「だからね、……きょうはこのまま……」
そして沙夜さんは僕に口づけた。それはおしまいのキスにしては濃密な、ねっとりと舌の絡むキスだった。
離れた廊下の端から、僕は沙夜さんの後ろ姿を見ている。
僕が出会った時と同じ、純白のセーターにタイトスカート姿の沙夜さん。
沙夜さんは少し溜息をついたあと、両手を差し出して黒い影の肩と思えるところにぶら下がりキスを求めた。
すると、黒い影の顔のあたりから、ぬるぬるの触手が長く伸びて、沙夜さんの首に幾重にも巻きついた。
「うぐ……」
うめき声を制するように、巻きついた触手の先端が、ちゅくちゅく音を立てて沙夜さんの唇をこじ開け進入する。黒い影は激しく動きながら、そのままむくむくと天井近くまで膨張し、沙夜さんの体がとうとう宙に浮き始めた。
つま先にストッキングのだぶついた、ふしだらな足先が、ちらりと見えた。
……なに? 変な夢。エロアニメの観過ぎだな、きっと。
リビングの窓から、夕日に照らされた公園の桜の木が見える。
そろそろ桜も満開か。
壁の時計は、最後に見た時から十分ほどのちを指していた。長い時間寝ていたわけではなさそうだ。
結局、三回も出しちゃったよ。
突然、壁のむこうで、ドカンドカンと大きな音がした。
へ? 沙夜さん帰ってる?
僕はソファから立ち上がった。なんだ、真っ裸じゃないか、そうか、そうだった。
慌てて自分の部屋に戻りスウェットの上下を着て、親父の部屋の扉の前に立った。
扉のむこうでなにかをぶちまけるような音がした。さっきのドカンという音は、この音だったんだ。帰った早々、なにをやってるんだろう? ……ていうか、見られてたとか。まさかね。
「あのー、お手伝いしましょうか?」
とりあえず声をかけてみた。
返事はない。聞こえなかったのかな?
「沙夜さん?」
しばらく待つも、やっぱり返事はない。
「あのー、晩ご飯どうしますぅ?」
アプローチを変えて聞いてみた。
すると……。
「パス! 失格お義母さんは、しばらく反省モードということで」
投げやりな物言い。
はあー、見られてたんだよなあ。きっと。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
炊飯器にお米をセットしたあと、冷凍庫にあったすじ肉を解凍して、カレーを作った。ああ、金玉の裏が重だるい。
沙夜さんはあれ以来沈黙したまま、部屋から出てくる様子はない。
僕はリビングの照明を消して、壁の時計を息を詰めつつそおっと外し、穴から沙夜さんの様子を窺った。
なぜかむこう側の本棚の本がなくなっていて、日没後の青白い部屋に、ベッドサイドのルームランプで赤く照らされたベッド全体が、はっきりと見渡せた。
ベッドの真ん中で布団が丸く膨らんで、それが小刻みに上下しているのが確認できる。布団の中でなにか食べてるのか?
森の中、新種の野生動物を物陰から観察するような心持ちになった。
微笑ましく目を細めている自分がいる。
いやいや、今の状況は完全にアウトでしょ! でもなあ……。
しっかりしているようでいて少し詰めが甘い、地味に苦労を重ねてきたらしいけど、どこかしらお嬢さん風。楽天的っていうのか、そんな沙夜さんのキャラに、僕はずいぶん助けられているように思う。あんなにもきれいな大人の女性と、女の子と手を繋いだことすらない僕が、本来ならば初めからうまく打ち解けられる筈がないのだから、ここは感謝すべきだ。
ああいうのを人徳、っていうのかな、ちょっと違うか?
そうしてるうちに、ベッドの上の沙夜さんが、むくりと起き上がった。下着姿? 白のスリップ? 柔らかそうでいて大きく突きだした胸の先端に、ランプに照らされてツンと現れた透け乳首の陰影。
うわ、エロ過ぎ! ブラ着けてないし。
布団の中をまさぐって、手にしたなにかを大きく宙に掲げた。
あれは……ディルド? 僕が見たのとは違うやつだ。いくつ持ってるんだよ!
きのうの黒人仕様ほど長くはないが、カリは大きい。日本人仕様ってところか。それでも充分巨根のディルドだ。
沙夜さんはベッド横の壁にかかった大きな楕円形の鏡に、ディルドの根っこについている吸盤をペタリと貼りつけ固定した。そしておもむろに咥え始めた。
そうか、布団の中であれを!
大きく張ったカリがねっとりと沙夜さんの口の中に呑みこまれた。
じゅるじゅると唾の音がかすかに聞こえてくる。
そのうちに、頭全体をグラインドさせながら、長いディルドが沙夜さんの中に、徐々に徐々に沈んでいく。
すげっ!
七分目ほど埋まったあたりで挿入が滞り、小刻みに頭を震わせて「うぐぐぐ」と、さらに先に進もうと呻く沙夜さん。
そのうちにすとんと、ディルドの茎が小さな頭の中に手品のように消た。
あれって二十センチくらいはあるよね。嘘みたい。すごいな、沙夜さん。
汗でテラついた首の喉仏あたりが、心なしか太く膨張しているようにも見える。
喉ちんこを越え、食道にまで達してるのか?
女の子の胴体に剣を突き刺すマジックを見たときのような猟奇的な興奮を、僕は覚えた。
そのまま数秒を耐え、沙夜さんは、ディルドを一気に引き抜いた。
「ふあああぁ……」
反動で体を仰け反らせて座り込んだ姿勢のまま、幾度も乳首の浮いた大きな胸を上下させて大きく息をつく沙夜さんが、力無くなにか言い始めた。
僕は穴に耳を押し当てて聞いた。
「ハア、ハア……きた早々急展開です。じゅるっ……ねえセンセ、わたしはどうすればいいですか? ……それに、それに、わたしなんか期待しちゃってます……だって、あんなに凄い……」
言いかけたまま体勢を立て直すと、大きく息をついて、再度、壁のディルドを飲み込んだ。こんどは最初から奥までずっぽり入った。
両手を後ろ手に組んで、ノーハンドでディルド相手に自ら杭打ちのようにピストン運動を繰り返す。
「うぐ、うぐ……うゎか、うゎか、うゎか」
馬鹿、馬鹿って言ってる?
ふたたびディルドを引き抜くと、幾筋ものえずき汁が、透き通った水飴みたいにキラキラと派手に糸を引く。
「ハア、ハア、でも半分は、センセの、せいれすからねっ! なんであのビデオがリビングのテレビに流れてるのよぅ? なんで光くんがそれを観てるのよぅ! それに、それに……うぐぐぐぐぐ」
また咥え込んだ。もう耳を当てなくても聞こえる声の高さだし。
「らめぇ、らめぇ、おがしくらっちゃう! こんらのいやら、ほんものらいひっ」
まさか今、本物がいいって言わなかったか?
沙夜さんの両手が胸の方に移り、両方の乳首をスリップの上からつまみながら、頭のグラインドと合わせて、突き出したおしりまでエロく回し始めた。
片方だけ肩紐が落ちたスリップの背中の肌が、見る間に汗で輝き始め、むっちりとしたふとももの肉がかすかに震え出す。
もしかしてイッちゃう? 喉奥で? それに、義母さんは反省モード、なんでしょ?
なにかが憑いたみたいに、大仰に震えたあと、壁の鏡にディルドを残したまま、沙夜さんは果てて、崩れ落ちた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
時計を見ると、まだ九時を回った頃だ。
こんなに早い時間にベッドに入るのは、オール明けの試験時期を除けば、小学生低学年以来かもしれない。
新学期が始まったところなので、新しい教科書に目を通すだとか、するべきことはいろいろある。でも……。
なにも手につかない、する気がしない、いや、できる気がしない。
そりゃそうだ。きのうからいろんなことがあった。僕の人生の中でも、インパクトのある、ありすぎる出来事の数々。
暗い部屋の布団の中でスマホを点け、さっき親父から届いていた短いメールを、もう一回読んだ。
今、フランクフルトで昼メシを食ってる。
現地スタッフも優秀で順調な滑り出しだ。
そっちはどうだ。仲よくできてるか。
沙夜ちゃんから刺激をもらってるか。
身寄りのない沙夜ちゃんにとって
おまえはかけがえのない家族だっていう
自覚を持っておいて欲しい。
やさしく接してやってくれ。頼んだぞ。
それじゃ、また。
身寄りがないって、そんなの聞いてないよ。もう、小出しにしないでよ。
それから、刺激? たっぷりいただいてますがなにか?
沙夜ちゃんは、あれからずっと、晩ご飯も食べないで籠もりっぱなし。しかたがないから、ただ今、部屋で寝ながら待ってます。出てきたらやさしくしますんで。
そんなような事を、打ち込みかけて、やめた。
『了解! まかせて!』
そう短く返信した。
とりあえずこのまま待つのがいい。
リビングでテレビを見ながら振り返って、やあ、起きた!、というのも笑っちゃうし、部屋でゲームやネットをしているうちに、スルーされ明日に持ち越し、というのもめんどくさい。
昼に笹田クンが唐突に言った、『扉を開けて』というのを思い出し、ドアは全開にしてみた。笹田クンはきっと、心を開いて、って意味で言ったんだろうとは思うけど、なんかピンときた。廊下の照明をわざと点けたままにして、暗い部屋を際立たせて誘導する作戦、いや、笹田クン言うところの、実験だ。
この暗闇で待っていたら、夜中に沙夜さんがそっと現れて、そして僕はそう、きっと……ひひ。
写真を見てずっとあこがれてましたっ、なんて言って、あの胸に顔をうずめるんだ。刺激をいっぱいもらって、これからの三週間が楽しみでしかたがない。
不埒な考えが頭の中を駆け巡り、期待に満ちたペニスは、重だるい感覚もどこかに消えて、すでに準備完了の状態だ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
僕が布団に入って一時間ほど経った頃だろうか。ドアが閉まるカチャリという小さな音が廊下の方から聞こえ、うとうとしかけていた意識が一気に引き戻された。
出てきたの?
廊下から部屋に差し込む光が、少しだけ揺らいだように思えた。
頭を少しだけもたげて、全開のドアの方を薄目で窺い見た。
ドアの端に貼りつくように黒い影があった。
心臓がきゅっとすぼまるような感覚。思わず息を殺した。
今起き出すと、きっと逃げる。僕はただただ、じっと寝たふりをして待った。
しばらく待つとそのうちに、光の揺らぎが大きく確実なものになり、冷えた部屋の空気が少し動くのがわかった。
きた! そして僕は、薄目だった目をしっかりと閉じた。
腰のあたりのベッドマットがすうっと静かに沈んで、スプリングがかすかに鳴った。
座った! 僕の横に。
まだだ、まだそのまま。
なにか言うのか? とにかく僕はこのまま待つ。そして起こされたアクションに応える、そうするんだ。
ほんの数秒がやけに長い。
そして不意に脇腹がゆっくり圧迫されて、ベッドマットがさらに沈み、スプリングが大きく軋んだ。
顔面にかすかに感じる生ぬるい空気。そして息がかかる。あたたかくて甘い息。
いよいよだ!
でも、その先は……ない。
顔面にまとわりついた体温は肌に接することはなく、すぐさま冷たい空気に入れ替わり、またベッドが軋んで、遠くで溜息をつくのが聞こえた。長い鼻溜息。それからベッドマットがふわっと浮き上がりかけた。
いかないで、沙夜さん!
僕は、思わず沙夜さんの腰にしがみついた。
「起きてたのね」
驚く風でもなく、思いのほか落ち着いた低い声が返ってきた。
腕から伝わる腰まわりの感触。
柔らかいね。やさしいね。もういいんじゃない、このくらいで。そうもうひとりの自分が怖じ気づく気持ちを隠すみたいに心の中で囁いた。
それでも僕は離さなかった。
まだ、ダメって言ってないよね。やめなさい、とも言ってないよね。もう少しこのままでいさせてよ。
さらに力を込めると、腰に回した腕がするりとウエストのくびれに落ちついた。
やばい。エロい。征服しちゃってOKって思える細さ。
ふんわり厚めの布が腕の動きに合わせて、内側で滑る感触。もしかしてさっきのスリップの上にガウンを羽織っただけ?
少しずつ気持ちに余裕が生まれてきた。
僕は沙夜さんの肩に手をかけて素早く起き上がり、正面から抱きしめた。すがるように。
これでもまだ、ダメ、じゃないの沙夜さん?
顔と顔が密着する。頬と頬がすれる。柔らかい頬の肉、顎までもが柔らかい。意外と頑丈そうな首にのど笛のほんのりプツプツ感。そしてガウンを開いてたどり着いた胸元、超絶のすべすべ。ああ。
めくるめく、ってこういうのをいうんだね。香水じゃない甘い香り。女の匂い。
僕の顔はとうとう沙夜さんの胸の谷間にうずめられた。そう、とうとう。
すごいですね。とうとうここまできましたね。初めてなのにやるじゃん、オレ。
でも……。
沙夜さんはなにも言わない。抱きしめてくれることもない。そして……。
「何やってるの?」
低い声音がしんとした部屋に響いた。
僕は動きをとめた。
沙夜さんはさらに続けた。
「誰に、なにやってんのって聞いてんの?」
耳がかっと熱くなった。
悪かったね!
「だ、誰ってそりゃ沙夜さん、いやお継母さん、お義母さん、いやいや、お母さん?」
「ふーん。じゃ聞くけど、そのお母さんにこんなことしていいわけ?」
「そりゃ、ダメかもしれないけど。でもでも、そりゃないよ沙夜さん!」
「なにがないの?」
「会って早々にハグしてくるし、ブラ紐見せびらかして……、それに、あのビデオだって……」
「ちょっとぉ、あれは光くんが先生のやつを盗み観してたんでしょ。それに、ああいうのの見せびらかして! ブラ紐と比べないで」
「そんなの不可抗力だよ」
「いい? 手を尽くしてなお、って時に使うのよ不可抗力って言葉は。玄関の鍵はかかってないし、わざわざスリッパぱたぱたさせて入ってやったのに、ヘッドホン着けちゃって聞こえもしない。それからわたしをオカズに三回も……」
「もしかして、ずっと見てたとか?」
「……見てたんじゃなくて、見えただけ」
「立ち去らずに見てたんでしょ?」
「それは、そうなんだけど……」
明確に反論せず沙夜さんが口ごもる。
ははーん。やっぱり欲情しちゃったとか。 さっと心が軽くなった。
いきさつはさておき、このままヤッちゃいませんか、と軽く微笑んで提案できちゃいそうな、そんな雰囲気ではないのか? 今のこの状況は。女性経験を積んだ男ならきっと、このタイミングを逃すことなく、すかさず女の唇を奪うに違いない、そんな確信が湧いた。
そして、僕はそうしてみた。
「あう……」
有無を言わさずって感じでキスをした。
唇に押し当てた舌が、するりと口内に滑り込む。僕の唾液と沙夜さんの唾液が混ざり合って泡音を立てたが、変な違和感は少しも感じなかった。唇を奪った瞬間、かすかに唾液の匂いを感じはしたが、今は甘美な味だけが舌を満たしている。
全然力の入ってない沙夜さんの両手のひらが、ふわふわと僕の胸を叩く。
抵抗してるつもり? それとももっと吸って欲しいわけ?
こわばりがちだった沙夜さんの舌から力がみるみる抜け、じきにねっとりと僕の舌に絡み始めた。
「……ふぅあーん」と鼻から抜ける声。
うわぁ、エロMAX!
誰にも教わってないのに、鼻が当たらないようにちゃんと顔をずらせてキスができているじゃん。沙夜さんの冷たい鼻先が、僕の頬にめり込む。
沙夜さんの両手がいつの間にか僕の背中に回されてるが、そこに情熱までもを感じとれないのが、じれったい。
僕は沙夜さんを力いっぱい抱きしめ、そのままバランスを崩してふたりしてベッドから床に崩れ落ちた。
「……冷たい」
いつの間にかガウンが脱げ落ちてスリップ姿になった沙夜さんが、唇から唾液の糸を引きながらつぶやいた。
「あ、ごめん」
僕は素直に謝り、冷たい床に貼りついた沙夜さんの背中に手を差し入れて、少しだけ持ち上げた。
スリップ越しの柔らかな肉の感触とその奥にある骨の控えめな存在感。
焦り過ぎた。
やっぱり、キャパオーバーだ。
「じゃあ僕、どうすればいいの?」
廊下の光を受けキラキラと輝く色素の薄い茶色い瞳が、僕を慈しむように見ていた。
「試すようなまねして、ごめんね」
持ち上げられた体勢のまま、沙夜さんの両手がそっと僕の顔を包む。
「……ははっ、ほんともう、困った子」
ほんのり妖しさを宿した瞳で沙夜さんは微笑む。
「重かったでしょ。ありがと。……光くんって、やさしいよね」
沙夜さんは起き上がり、あらためて僕の背中に両手を回した。
こんどは包み込まれるような抱擁だった。
「お母さん……か。母親ぶるのもおこがましいし、正直実感も薄いんだけど、うれしいよ。自分でも不思議な気分。何だろうね。ずっとずっと一緒に居られる確約を得た……みたいなこと?」
一時の過ちはこれでもう終わり、そんなことを思って沙夜さんはまとめに入ってるのかもな。僕は心の中で溜息をついた。
「光くんもいよいよ受験だし、変なことばっかり考えてちゃダメよ……」
やっぱりね。
「だからね、……きょうはこのまま……」
そして沙夜さんは僕に口づけた。それはおしまいのキスにしては濃密な、ねっとりと舌の絡むキスだった。
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