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第三話

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 夜になり、寝付けないでいたカイは外の空気を吸いに館を出た。
「真樹?」
 外に出ると先客がいた。
 先客でもある真樹もカイに気がつき「カイ?」と声を漏らす。その腕の中にはルルがいる。
「こんな夜中にどうしたんだ?」
「ルルが部屋の中で運動会しちゃって……やっぱり元々猫だから夜行性なんだね。カイは?」
「オレはなんか眠れなくて」
「そっか……」
 完全に真樹を親と思っているのか、ルルは真樹の目の届く範囲で走り始めた。
「なんかここに来てからいろいろありすぎなんだけど……」
「ホントだね。でも僕も少しは充実してきたかな?」
「充実?」
「うん。ほら、元々僕はおまけみたいな感じだったから。それにカイみたいに運動神経もないし、人見知りもするし……ここに来てからリスティアムが面倒見てくれたり、ルルが現れたりして、なんだか嬉しくなっちゃった」
 真樹の中の心境の変化は、自分ではなくリスティアムやルルなのがなんとも歯痒い。つまり真樹は構ってほしい。頼られたいという欲求があるのかもしれない。
「オレはおこぼれだったとしても、真樹が一緒で良かったけどな」
「そ、そういうのは女の子に言ったら?」
 カァッと顔を赤くした真樹がそっぽ向く。あの術にかかった夜に真樹の本音を聞いて以来、二人の間にはなんとも言えない空気が漂っている。カイに至っては深く意識しているわけではないが、真樹はカイを意識している。
(ぼ、僕おかしいよ……カイと二人っきりなんてそれまでもあったのに……)
 ドキドキと鼓動を打つ中、遊び終えたのかルルが真樹の腕に戻ってきた。
「ルルお帰り。もう十分遊んだ?」
 ナァっと一鳴きしたルル。するとルルは真樹の首元から服の中に入っていく。
「あっ!ルル!」
 ルルのフカフカした毛が心地よい。だがルルの目的はただ中に入りたいだけではなかったようだ。
「えっ?ちょっと!」
「真樹!どうかしたのか?」
「どうしよう……ルルが僕の胸……」
「胸?」
 怪訝そうな表情を浮かべながら、カイはそっと真樹の服を除く。するとルルは真樹の乳を吸っているのだ。
「どうしよう……それにちょっと痛い……」
 まだ子猫とはいえど牙もある。それに乳を出しやすくする為に足でふみふみしながら出そうとしているが、そもそも真樹は男で出るわけもない。なんだか怪しい雰囲気に、カイはルルの首根っこを掴む。
「おいルル!真樹からは母乳は出ないぞ!」
 そう言うとルルは「シャー!」とカイを威嚇するが、次の瞬間二人は目を疑った。
「邪魔するなよな!」
「はっ?」
「えっ?」
 あきらかに聞こえた人語。それもその声はルルから聞こえたのだ。驚く二人。するとカイの手からすり抜けたルルが地面着地。それと同時に小さな爆発音のような音が鳴る。
「真樹が人間で俺が元猫のキメラだってことくらいわかるよ」
「えっ?ルル?」
 目の前に現れたのは推定五歳くらいの男の子。髪は金で目は緑。頭には耳。背には翼で尻尾がついた人間ではない人型の生き物。その特徴はルルそのものだ。
「そうだよ。俺は真樹のペットのルルだよ」
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