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「お義父さん落ち着いて下さい!」
助け舟のように間に入ったのは母親だった。
「何もそこまで言わなくても。それに相手を決めるのは陽菜自身ですよ」
「わかっとるわ!けど結婚したらもう会えないじゃろうが!」
「何言ってるんですか。子供だって親元を離れる時が来るんですよ。陽菜だって今は向こうの方に生活を構えているんです。こっちに戻って来る事はほぼないんですから」
そうだ。陽菜が大学進学の際もこんな風に寅吉と大喧嘩になった。「家や家族を捨てる気か!」「この親不孝者!」などと言われたものだが、その度に母親が仲裁に入ってくれた。
「それにアレンさんも、お義父さんが思うような人じゃないですよ。むしろ立派すぎて家の娘でいいのかってこちらが思ってしまうくらいなんですから」
「そんな事ないよ。ヒナは僕には十分の人だよ」
そんなアレンの合いの手に寅吉は「ふんっ!」とそっぽ向いて居間を出て行った。
「はぁ……ダメかぁ」
今回は流石に折れないのかもしれないと肩を落とした陽菜だが、母親は「そうでもないわよ」と言ってくれた。
「おじいちゃんは寂しいのよ。陽菜が東京に行って。しかも今度は結婚でしょ。だから」
「お母さん……」
陽菜はなかなか出来なかった母親と父親の間にようやくといった感じで生まれた子だ。それを知っているからか、陽菜が産まれた時、寅吉と亡き祖母は大層喜んだのだと聞いた事がある。そんな自分の子供以上に可愛がっていた孫娘が、見知らぬ地に行こうとしたものだから反対もするだろう。しかも今回は結婚に加えイギリスがチラついている。
「おじいちゃんに関してはもう少し時間をおいてみましょうね。今は何を言っても無駄だろうから」
これにて一旦解散となったわけだが、陽菜とアレンは朝食を済ませた後、町中を散歩して歩いた。
「ヒナはトラキチやマザー、ファザーに愛されて育ったんだね」
「まぁ、苦労の末の子供だったみたいだし」
「でも家族の愛情っていうのは感じたよ。可愛いヒナが見知らぬ外国人の男にとられるのが嫌なトラキチの気持ちもわからなくもないかな」
「アレン……」
「でもヒナの事は絶対にあきらめないからね!」
そこがブレては意味がないだろう。だがその前にいろいろと陽菜はアレンに確認しておかないといけない。
「ねぇアレン。結婚して、アレンがイギリスに戻る時、私もイギリスに行かないといけないのかな?」
「どうしたのヒナ?もしかしてイギリスに行くのは嫌?」
「いや、そうじゃなくて……そんな話聞いてないのもあったし、それに私……アレンからプロポーズされてないんだけど」
致命的な言葉を放った陽菜。その言葉にアレンも衝撃を受けていた。アレンの気持ちはわかっているが、実際に言葉としては聞いていない。
「No!僕はなんていうあやまちを冒してしまったんだ……」
アレン本人はすでにプロポーズ済だとでも思ったのだろう。なにやら英語でぶつぶつと言い始めたアレンに陽菜は声をかけた。
「でも、アレンの気持ちはわかってるから……」
「ダメだよ!ちゃんとプロポーズはする!でも場所はここじゃない所で!もう少しだけ待って!」
今もうしたようなものだろうが、男の矜持とやらでもあるのだろうか。陽菜は「わかった」とだけ言った。
助け舟のように間に入ったのは母親だった。
「何もそこまで言わなくても。それに相手を決めるのは陽菜自身ですよ」
「わかっとるわ!けど結婚したらもう会えないじゃろうが!」
「何言ってるんですか。子供だって親元を離れる時が来るんですよ。陽菜だって今は向こうの方に生活を構えているんです。こっちに戻って来る事はほぼないんですから」
そうだ。陽菜が大学進学の際もこんな風に寅吉と大喧嘩になった。「家や家族を捨てる気か!」「この親不孝者!」などと言われたものだが、その度に母親が仲裁に入ってくれた。
「それにアレンさんも、お義父さんが思うような人じゃないですよ。むしろ立派すぎて家の娘でいいのかってこちらが思ってしまうくらいなんですから」
「そんな事ないよ。ヒナは僕には十分の人だよ」
そんなアレンの合いの手に寅吉は「ふんっ!」とそっぽ向いて居間を出て行った。
「はぁ……ダメかぁ」
今回は流石に折れないのかもしれないと肩を落とした陽菜だが、母親は「そうでもないわよ」と言ってくれた。
「おじいちゃんは寂しいのよ。陽菜が東京に行って。しかも今度は結婚でしょ。だから」
「お母さん……」
陽菜はなかなか出来なかった母親と父親の間にようやくといった感じで生まれた子だ。それを知っているからか、陽菜が産まれた時、寅吉と亡き祖母は大層喜んだのだと聞いた事がある。そんな自分の子供以上に可愛がっていた孫娘が、見知らぬ地に行こうとしたものだから反対もするだろう。しかも今回は結婚に加えイギリスがチラついている。
「おじいちゃんに関してはもう少し時間をおいてみましょうね。今は何を言っても無駄だろうから」
これにて一旦解散となったわけだが、陽菜とアレンは朝食を済ませた後、町中を散歩して歩いた。
「ヒナはトラキチやマザー、ファザーに愛されて育ったんだね」
「まぁ、苦労の末の子供だったみたいだし」
「でも家族の愛情っていうのは感じたよ。可愛いヒナが見知らぬ外国人の男にとられるのが嫌なトラキチの気持ちもわからなくもないかな」
「アレン……」
「でもヒナの事は絶対にあきらめないからね!」
そこがブレては意味がないだろう。だがその前にいろいろと陽菜はアレンに確認しておかないといけない。
「ねぇアレン。結婚して、アレンがイギリスに戻る時、私もイギリスに行かないといけないのかな?」
「どうしたのヒナ?もしかしてイギリスに行くのは嫌?」
「いや、そうじゃなくて……そんな話聞いてないのもあったし、それに私……アレンからプロポーズされてないんだけど」
致命的な言葉を放った陽菜。その言葉にアレンも衝撃を受けていた。アレンの気持ちはわかっているが、実際に言葉としては聞いていない。
「No!僕はなんていうあやまちを冒してしまったんだ……」
アレン本人はすでにプロポーズ済だとでも思ったのだろう。なにやら英語でぶつぶつと言い始めたアレンに陽菜は声をかけた。
「でも、アレンの気持ちはわかってるから……」
「ダメだよ!ちゃんとプロポーズはする!でも場所はここじゃない所で!もう少しだけ待って!」
今もうしたようなものだろうが、男の矜持とやらでもあるのだろうか。陽菜は「わかった」とだけ言った。
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