花が招く良縁

まぁ

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 翌日になり、美奈穂は住所変更の手続きをする為に半休を取り、市役所や銀行などに向かった。昼になり出社し、今度は会社の変更手続きを上司の相川に提出した。提出した書類を見ながら相川は泣くふりをしながら言った。
「この会社の最後の砦がようやく嫁に行くか…」
「行かないです!ただ冴えない、モテない、金ないアラサ―女子救済団体に保護してもらっただけです」
「お前…自虐ネタが段々笑えなくなってきたな…」
 憐みの目を向け、相川は上司印の欄にポンッと判を押した。
「でもまさかあの西園寺慶と同居…」
「それなんですが…誰も信じないでしょうが言わないで下さいね」
「わかってるよ。相手は全国規模のプリンス様だからな。しがないOL女子、しかもアラサ―女子と同居なんて格好のネタだろうが…」
 これが都会ならそうなるだろうが、ここは地方だ。そう簡単に踏み込んでは来ないだろう。とはいえ恋人ではない者同士の同居だ。都会ならばシェアハウスで通るだろうが、そんなハイカラな仕組みはこちらでは浸透していない。なのであまり口外しないようにしている。もちろん美奈穂の親にも知り合いと一緒に暮らすとしか言っていない。相手が慶であろうとなかろうと、年頃の、リーチのかかった女子が男と同棲など、それこそ結婚はいつするんだ?という騒ぎになる。
(これだから田舎は…)
 心の中で悪態をつく美奈穂。田舎では適齢期になると大半は結婚する。都会のように好きな職を失いたくない、まだいい…と言った考えはあまりないので、二十五前後を境に結婚ラッシュがやって来る。
「あぁ、それと来月も年休取りますね」

 一旦実家に戻り残りの段ボールを車に詰め込んでから美奈穂は慶の家に向かった。今日は稽古のある日だと言う事で稽古場の電気が灯っていた。合鍵を使い中に入ると、その明かりに釣られ中を覗く。
 慶は畳に敷かれた紙に並べられてある色とりどりの花を丁寧に花瓶に挿していく。
(うわっ…めっちゃ所作綺麗…)
 スッと伸びた背筋に綺麗な手。慶に出会って一度も華道をしている姿を見た事がなかったが、こうして見ると本当に世界の違う人なのだなと思った。じっと覗き込むようにして見ていたせいか、慶は美奈穂の視線に気が付き、少し開いた襖の美奈穂を見て驚いた。
「わっ!びっくりした…美奈穂さんお帰りなさい…」
「あっ、ただいま戻りました…てか、すみません。驚かせるつもりはなかったんですが…」
「いえ、集中してると物音一つ気が付かないんで…」
 そう言いながら立ち上がった慶はせっせと道具を片づける。
「夕飯準備しますので、もう少し待って下さいね」
「ゆっくりでいいですよ。私もその間に荷物の整理とかお風呂沸かしたりしますので」
 ただぬくぬくと住まわせてもらうわけにもいかない。料理が慶ならそれ以外は自分がやろうと思い、急いで車に乗せている段ボールを下ろして風呂を沸かした。沸かし終わると丁度夕飯も出来たとの事で、今日もまた豪勢な夕食を一緒に食べた。
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