花が招く良縁

まぁ

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 心の中で呟きながらも、東京以来の慶の温かさが手から伝わって来た。慶の手は自分よりも大きいのはもちろんだが、女子である自分よりもすべすべしている。慶だけでなくご近所さんからもいろいろ尽くされる美奈穂は、本当に贅沢の極みだと実感する。
 祭り会場は近所にある広場から神社までだ。さほど大きくもない祭り会場だが、毎年この地域の人達や他の地域からも人がやってきてそれなりに賑わっている。露店も定番のたこ焼きや焼きそば、綿あめにヨーヨー、金魚釣りなど様々なものがある。
「ここのお祭り初めて来ましたけど、毎年こんなに賑わっているんですか?」
「うーん…どうだろ?俺が小さい頃の方が人はいたかもしれないなぁ…」
「この辺も人口減った証拠ですね。それにしてもやっぱり若い子多い…」
 見渡す限り地域の若者、学生さん達の姿が一番目立つ。もちろん一番目立つのは慶だ。あれだけ有名なので、女子高生達は慶を見ながらきゃーきゃー言っているし、OLらしい女性からは声をかけられる。
(すみません…その隣にいるのがこんなので…)
 手を繋いでいるのだから、傍から見れば完全に恋人っぽいだろう。もしこれが東京などの大都市ならスキャンダルものなのだろうか?いろいろと考えていると、自分の目の前に白くふわふわとした綿あめが差し出された。
「どうぞ」
「ありがとうございます…」
 綿あめを貰いかぶりついた美奈穂。綿あめの甘い甘みが口いっぱいに広がる中、隣で歩く慶をチラッとみた。視線に気が付いた慶はニコッとアイドルスマイル顔負けの笑顔を美奈穂に見せた。恥ずかしくなった美奈穂はすぐに目を反らす。
(これくらいでドキドキしてどうするんだ…!)
 自分にそう言い聞かせる美奈穂は、必死になって綿あめにかぶりつく。やはり自分は慶の事を好きなのかもしれないとその時思った。見た目はもう言うまでもないが、慶はとても優しい。これまでの人生で男の人から言われてきたのはかわいいとは反対の酷い言葉ばかりだった。別にいじめに合っていたわけではないが、学生時代などそんな事ばかり言われていた。元々自分に自信はなかったが、これを機に更に自身はなくなった。
 つい過去の事を思いだしてしまった美奈穂は、顔を上げブンブンと首を振った。もっと前向きに!ポジティブに!そう思った矢先だった…
「美奈穂さん…?」
 急に足を止めた美奈穂に慶は首を傾げた。美奈穂は硬直したままでいる。その表情は何か驚いたようにも見えるが、徐々に強張った表情を見せる。一点を見つめる美奈穂の視線を追うように、慶も美奈穂の視線の先を見た。
 視線の先には若い夫婦で、二人の手にぶら下がり子供が楽しそうにしているよくある光景だった。
「美奈穂さん?どうかしたんですか?」
「ご…ごめんなさい…私…」
 凄い勢いで慶の手を払った美奈穂は来た道を走った。
「美奈穂さん!」
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