花が招く良縁

まぁ

文字の大きさ
上 下
25 / 50

25

しおりを挟む
 こういうものは美奈穂一人で決めていいものか?チラッと慶を見ると「俺はいいですよ」と欠伸をしながら言ったので、美奈穂は美津子の好意に甘える事にした。
 夕方近くになり美津子の家に行った美奈穂は、美津子の娘が着ていたという浴衣を着せてくれた。浴衣は落ち着いた藤色に夏らしく朝顔の描かれたものだ。
「あらあら!美奈穂ちゃん似合ってるわよ!」
「あ、ありがとうございます…」
 浴衣など実に何年ぶりだろうか…満足気な美津子に対し、美奈穂はなんだか恥ずかしかった。普段しない恰好なだけにドキドキしている。何せこの後慶と一緒に祭りに行くのだから。
「髪も結った方がいいわね。美奈穂ちゃん座って!」
「何から何まですみません…」
「いいわよ!私も娘にやらなくなってちょっと寂しかったし、隣に美奈穂ちゃんが来てくれたから正直嬉しいのよ。美奈穂ちゃんいい子だし、またこうしてやってあげるのに嫌な顔一つしないから!」
 相手が最近の子や、ギャル風の子だったら絶対にしないとの事だ。だが慶の家に住む子だから悪い子ではないだろうと美津子は楽しそうに話した。
「慶ちゃんも美奈穂ちゃんが来てくれて嬉しいんじゃないかしら?」
「そんな事ないと思いますけど…」
「そんな謙遜しなくてもいいわよ!だってお父様亡くなってから慶ちゃん寂しそうだったし、美奈穂ちゃん来てからなんだか明るくなったしね」
 隣に住んでいるのだから慶の事情は知っているだろう。それを聞いてやっぱりあの広い家で一人は寂しかったのだろう。だからといって美奈穂なのは今だ納得は出来ない。もっとかわいい子や綺麗な人など、慶だったら逝く手数多だろう。
「はい!出来たわよ!」
 鏡に映った自分を見て特別驚きはしないが、美奈穂は美津子に礼を言った。最近の浴衣ヘアアレンジではなく、シンプルに一つに結い上げたものだ。簪の先端に付いたビー玉のような玉が動く度にふるふると揺れる。
「それじゃ!慶ちゃんと楽しくね!」
「ありがとうございました!」
 深々と礼をして、隣から家に戻った美奈穂。すると慶は待っていたのだろう。玄関で風香と遊んでいた。
「あっ、美奈穂さん。お帰り。へぇ…似合ってますよ」
「あ…りがとうございます…」
 とても恥ずかしい…慶も美奈穂に合せたかのように浴衣を着ている。家にいて稽古のある時などは着物を着ているので見慣れてはいるが、和装は何度見ても眼福ものだ。
(相変わらず輝いてます…プリンス!)
 風香をどかし、スッと立ち上った慶が美奈穂に向かって手を差し出した。
「迷子になったらいけないから手を繋ぎましょう」
「へっ!は、はい…!」
 何を動揺してるんだ!
しおりを挟む

処理中です...