花が招く良縁

まぁ

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 個展開催の話は夕食の話題に持ち上がった。
「えぇ!それってかなりすごいんですよね?」
 話を聞いた美奈穂は驚いたまま、茶碗を持つ手が止まっている。あの後に洋二から開催は十月と伝えられ、いくつかテーマも出された。
「まぁ…そういう事で、美奈穂さんには悪いんですが、九月下旬くらいからしばらく東京の本家に行くことになりました」
「そっか…お花扱うんだからここでやって送り届けるって難しいですよね。でもすごいなぁ…頑張ってお金溜めて私も見に行きます!」
 華道家一族でもある西園寺本家は東京で、ここは分家の西園寺らしい。慶の亡くなった父親には兄がいて、その兄が本家で指揮をしているそうだ。ここも随分立派な家だが、本家ともなれば相当なのだろうと美奈穂は頭の中で想像した。
「俺としては今のままでも十分に食っていけるんでいいとは思ってたんですが、洋二の口車に乗せられて…」
「でも楽しみです!私絶対に見に行きますから!」
 花についてあまり詳しくはないが、それでも美奈穂は慶の生けた花が好きだった。一輪の花を囲う小さな花々は賑やかな印象を与えるし、数はさほど使っていないがそこから儚さも読み取れる。知らず知らずのうちに慶の生ける花の虜になってしまっていた。
「はぁ…こうして美奈穂さんと食事するのもしばらく本家の連中と一緒かぁ…気が重くなる…」
 そんなに堅苦しいのかと思ったが、慶が本家に行きたくない理由は麗子の事があるからなのだが、それは決して美奈穂には言えなかった。

 季節が真夏から残暑の九月になり、秋へと移行する時期、慶は東京にあるという西園寺本家へと向かった。それまで一緒にいた人物がいなくなり、がらんとした家の中で、美奈穂は猫の風香と一緒に過ごす事になった。
 それまで出張で家を空ける事は多かったが、長期にわたって家を空ける事などなかったので、なんだか寂しいも思った。
「何よ…彼氏いないからって私連れまわす事ないじゃない…」
 慶不在の中家に遊びに来た由美は縁側に座って風香をわしわしと撫でまわしていた。
「いいじゃない…どうせお互い暇なんだし」
「それはそうだけど…あんたもわかりやすい性格してるわね。彼氏出来る前は消極的に輪をかけたチキンだったのに、彼氏出来たとたんメロメロだし…」
「まさか彼氏って存在がこんなにも偉大だとは…まったく知りませんでした」
 家に置いてある煎茶を煎れながら美奈穂はため息を漏らした。夏の祭りで元彼に遭遇した時は未練を残していた自分が、すっかり手のひらを返したかのようにどうでもいい存在になっていた。
 慶の事も好きから大好きに変わって行ってる自分に正直驚いていた。あれほど熱を上げる事はないだろうと思っていたが、案の定、身体を重ねる事で好きの度合いが増えて行った。

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