十年目の恋情

まぁ

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「お前って本当に俺が好きなんだな」
「そうだよ……今も昔もこれからも、俺にはコウちゃんだけ」
「ふ、ふーん……」
「コウちゃんは俺の事嫌い?盛ったガキにフェラするような俺は嫌い?」
「別に嫌いじゃない……でも恋愛の意味での好きでもないぞ!」
 ここはちゃんと言っておかないといけない。すると伊織はニコッと笑って「そっか」と言った。何故かその表情にドキリとしてしまった。
「込み入った話してもいい?」
「あ、あぁ……」
「コウちゃんは都会の大企業に就職して、結婚もして、順風満帆な人生を歩んでたんだよね?けどどうして離婚して退職までしてこっちに戻って来たの?」
「それは……」
 まさかそんな事を聞かれるとは思ってもみなかった。そりゃ俺の出戻り会を開いた同級生連中は面白おかしく聞いてきたが、伊織の場合は面白半分でもからかいでもなく、真剣に聞いてきている。
「まっ、大人にはいろいろあるんだよ」
「そっか……言いたくないんだね。だったらいいや」
「いいのか?」
「うん。コウちゃんが言いたくないのに、無理やり聞いちゃいけないし」
 こいつの事だから興味津々に追及するかと思ったが、そうでもなかった。妙な所で引いて大人のような対応をする伊織は、この時ばかりは幼馴染とも年下とも思えなかった。
「でも、いつか教えてくれたらいいな。コウちゃんが自分の意志で、自分の言葉で言えるようになったら聞かせて」
「わかったよ……」
 聞き分けのいい子供なのか、伊織はこれ以上何も言ってこなかった。黙ったまま俺の顔を見つめている。
「そろそろ寝ないと。明日も朝練あるんだろ?」
「うん。ねぇ、コウちゃん。俺の我儘聞いてくれる?」
「なんだよ急に……」
「キスしてほしい」
 唐突に何を言い出すかと思った。キスなら自分からしてくるだろうに。なのに今は「俺から」を要望している。伊織はすぐに「ダメ?」と聞いてきた。
 今更だ。俺は伊織に近づき、赤く色づく薄い唇にキスをしてやった。
「ありがと。おやすみ」
 そう言って伊織は指を解き俺に背を向けて寝てしまった。俺も「おやすみ」と言って再び二階に上がった。
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