心を閉ざした財閥令嬢と話し相手になった庶民?の俺が婚約する話 作者 半魚人

半魚人

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第一章

第18話 北条さんの過去

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 俺と翔子さんは階段の前にある大きく張り出したバルコニーにやってきた。
 そして翔子さんは手すりに腕をクロスさせて乗っけて満月に照らされた庭を眺めた。俺も翔子さんの隣に来て庭を見る。

 「最近どう?学校とかはうまくやってる」
 「ええ、友達もできましたし、学校も楽しいですよ。まぁ思ったよりも勉強が大変ですが」
 「ふふ、そうね。龍皇学園は入学試験がない分、定期考査でふるい落としてくるから頑張ってしがみついてね。じゃないとあなたのお父さんに克人さんがいじめられてしまいますからね」

 そう言ってこちらを見ながらウィンクをしてくる。

 「はは、頑張ります……」

 改めてきつい事を突きつけられて、苦笑し、だんだん声が小さくなってしまった。

翔子さんは俺の消えそうな言葉を聞いてフフッと笑うと、突然庭から目を話し、屋敷の方をむいて手すりに寄り掛かった。

 「陽葵とはどう?」

 先ほどとは違って少し声のトーンを落として話しかけてくる。

「学校は席が隣なので良く話してますよ。お昼も友達も交えて一緒に食べたりしてますよ」
 「そう。じゃあ学校以外は?」
 「……俺や友達が誘ってもずっと断っています」

 少し言いにくくて間が開いてしまった。

 「修君から見て、陽葵はどう思う?」
 他の人からすればわからないであろう、翔子さんの言いたい事を俺は正確に理解した。

 「そうですね。なんと言うか、人と深く関わる事を避けている感じですね。学校での最低限な友達付き合いは必要だから、少しは話をしたりするけど、それ以上のことはしない。そう思いますね」

 俺の話を聞いて翔子さんは少し黙り、考える。

 「昔はね。友達が沢山いて、よく遊んでいたんだけどね。陽葵が小学校4年生のときだったかしら。元気がなく、目を腫らせて帰ってきてね。克人さんと一緒にどうしたのと聞いても教えてくれなくてね、しばらくして私が再び聞いてみたら教えてくれたの。どうやら一緒に公園で遊ぼうって約束していた友達が誰も来なかったみたいなの。フフッ、それだけと思ったでしょ。私も思ったわ。でも話を聞くと一番傷ついた点はそこじゃないの。」

 みんなで約束していたのに自分だけハブられた、これだけでも結構傷つきそうだけど……

 「陽葵によるとね、約束の時間になっても誰も来なかったから、近くにあるもう一つの公園に行ってみたらしいの。そこにね、みんないたらしいのよ」
 「それは集合場所を間違えたとか?」
 「いいえ、それはないって断言してたわ」

 首を左右に振って俺の言葉を否定した。

 「陽葵も最初はそう思ったらしく、近づいてみると会話が聞こえてきたらしいの。その内容を聞いて思わず木の影に隠れてしまったみたいなの」
 「その内容っていうのは……」
 「どうやら髪についてらしいのよ」
 「えっ……髪……ですか?」
 「ええ、修君は陽葵の髪、どう思う?」
 「え、普通に綺麗だなと思いますよ。あ、翔子さんもですけど」
 「ふふ、ありがと。実は私はハーフなの。お父さんが日本人、お母さんがロシア人なの。顔立ちは混ざってるけど髪はお母さんに似て銀髪でね。あとこの青眼もお母さん似ね」

 そう言って翔子さんは自分の目を触る。

 「それが陽葵にも遺伝してね。お友達もみんな綺麗だと言っていたわ。陽葵はみんなと髪色、目の色が違うから不安だったと思うけど、みんなが褒めてくれて安心したの。でもあの日公園で友達が変な髪だよねと話しているところを聞いて強いショックを受けたのよ」

 確かに自分だけ違うから不安で、みんなが綺麗だと言ってくれたから安心したのに、いきなり変な髪と言われたら誰だってショックを受けるよな。

 「ほら北条家って財閥だからライバル企業や、倒産に追い込んだ会社も多いんだけど、どうやらその子の親が倒産した会社の社長さんだったみたいで、親から陽葵と付き合うなと言われたらしいの。中学校ではそんなこと言ってくる人はいなかったし、たとえ居たとしても気にしなかったようだけど、あの頃はまだ幼かったから、心に深い傷が残ってしまったの」

 なるほど、そんなことがあったのか。

 「俺はどうすればいいですかね」

 翔子さんの話を聞いても、どうすれば北条さんの傷を癒せるのか思いつかなかった。

 「うーん。そうね。陽葵は今暗闇の中に閉じこもっているわ。だから陽葵を照らす光が必要なの。でも私たちは親としては情けないことに光になってあげられなかった。だから修君、陽葵の光になってくれるかしら。もちろん私たちも手伝う」

 翔子さんはそう言って俺の目を懇願するように見つめてきた。

 「ええ、僕で良ければ」
 「ありがとう」

 そう言って翔子さんはおやすみと言いながら自室に戻っていった。

 そして一人バルコニーに残された俺は少しどうすればいいか考えたのち、自室えと戻るのだった。
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