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第4話 不意に出た言葉(1)
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「とにかく私は変態さんではありません!」
「そ、そうすか……」
「はい、え~、そういえばまだ名乗っていませんでしたね。改めて初めましてです。私はクローナ・マーリッジです。マーリッジ魔王国の姫です。あなたは?」
「あ、ども……えっと……俺はぁ……え、お姫様!?」
「はい。御存じですか?」
慌てふためきながら、何とか「見られたもの」から話題を逸らそうと、無理やり自己紹介をするクローナ。
たとえ顔は分からなくとも、その名前ならば人類に広く轟いているので、男の反応はクローナにとっては予想通りだった。
だが……
「え、あ、その、まーりっじ? まおうこく? それは分からないけど……お姫様ってのはすごいなって……」
「え? マーリッジ魔王国を知らないのですか? 自分で言うのもなんですが、一応最大最強の魔王国家『だった』のですけど……」
「あ、そ、そんなすごいんだ……わ、わるい、全然わからなくて……っていうか、俺、無礼な態度とか、見てはいけないものを見てしまっ……え、死刑?」
「だ、大丈夫です! アレは事故ですので、忘れるということにしましょう。それと、なんとなく新鮮なので、別に態度も改めて頂かなくて大丈夫ですよ? もっと肩の力を抜いてお話してください」
「そ、そう、すか……あ、ありがとうございます……」
「はい、そーっす……って、もっと柔らかくです!」
「そ、そう言われても……」
シュンとなる目の前の男に、クローナは「ムムム」と唸った。
「えっと、それであなたは……」
「あ、お、おお、そうなんだけど……」
「……何も分からないのですか?」
「……ん……うん……」
箱から現れた目の前の男は自分自身のことを分かっていなかった。
何故箱の中にいたのか。何故この洞窟にいたのか。いつから箱の中にいたのか。そして、自分が何もなのかすらも……
「う~ん、記憶喪失というものかもしれませんね。私も初めてです……」
「記憶……そ、うだ、俺なんで……俺はなんで……そもそもここどこだよ……俺は何でいつどこでなにを……」
目の前の男が何者かは分からないが、少なくとも嘘をついているのようにはクローナには思えなかった。
自分を騙そうとしているようにも思えない。
本当に自分のことを名前すら分からず戸惑っている。まるで迷子の子供のように不安な表情で。
「あら? あなたの首に何かぶら下がってます。ペンダントですね」
「ぇ……あ……本当だ」
シャツが少しはだけた男の首元に銀色のタグのようなペンダントがぶら下がっていた。
「なんだろう……これ……」
気になってペンダントを手に取ってみる。するとそこには文字が刻まれていた。
「う~ん……何だか見たことない文字? 模様? 一体何―――」
「っと……『Arks.Razen』……アークス・ラゼン? って書いてある……俺の名前なのかな?」
「へ?」
「アークス……ラゼン……アークス……」
「あ、あなた、読めるのですか?」
「アークス……アークス……」
クローナがまるで読めなかったものを、男はスラスラと自然に読み上げた。
そしてその「アークス」というものを何度も男は繰り返して口にするが、まるでピンと来ていない様子。
自分は誰なのか? どこから来たのか? 何でここに居るのか? 家族は? 仲間は? 友は? 故郷は?
何も分からないからこその恐怖に男の表情は暗くなるばかりだった。
「あの、どうしてあなたはこの文字を……」
「アークス……俺、誰なんだよ? アークス……」
「…………」
自分の名と思われる「アークス」という名前。ピンとは来ない。だが、何かを思い出すかもしれないと、必死にその名前を男は繰り返した。
クローナは「どうして読める?」と更に追求しようとしたが、今の目の前の男の姿に言葉を飲み込み、代わりにニッコリ微笑んで男の両手を掴んだ。
「分かりました。では、今からあなたは『アークス』です」
「そ、そうすか……」
「はい、え~、そういえばまだ名乗っていませんでしたね。改めて初めましてです。私はクローナ・マーリッジです。マーリッジ魔王国の姫です。あなたは?」
「あ、ども……えっと……俺はぁ……え、お姫様!?」
「はい。御存じですか?」
慌てふためきながら、何とか「見られたもの」から話題を逸らそうと、無理やり自己紹介をするクローナ。
たとえ顔は分からなくとも、その名前ならば人類に広く轟いているので、男の反応はクローナにとっては予想通りだった。
だが……
「え、あ、その、まーりっじ? まおうこく? それは分からないけど……お姫様ってのはすごいなって……」
「え? マーリッジ魔王国を知らないのですか? 自分で言うのもなんですが、一応最大最強の魔王国家『だった』のですけど……」
「あ、そ、そんなすごいんだ……わ、わるい、全然わからなくて……っていうか、俺、無礼な態度とか、見てはいけないものを見てしまっ……え、死刑?」
「だ、大丈夫です! アレは事故ですので、忘れるということにしましょう。それと、なんとなく新鮮なので、別に態度も改めて頂かなくて大丈夫ですよ? もっと肩の力を抜いてお話してください」
「そ、そう、すか……あ、ありがとうございます……」
「はい、そーっす……って、もっと柔らかくです!」
「そ、そう言われても……」
シュンとなる目の前の男に、クローナは「ムムム」と唸った。
「えっと、それであなたは……」
「あ、お、おお、そうなんだけど……」
「……何も分からないのですか?」
「……ん……うん……」
箱から現れた目の前の男は自分自身のことを分かっていなかった。
何故箱の中にいたのか。何故この洞窟にいたのか。いつから箱の中にいたのか。そして、自分が何もなのかすらも……
「う~ん、記憶喪失というものかもしれませんね。私も初めてです……」
「記憶……そ、うだ、俺なんで……俺はなんで……そもそもここどこだよ……俺は何でいつどこでなにを……」
目の前の男が何者かは分からないが、少なくとも嘘をついているのようにはクローナには思えなかった。
自分を騙そうとしているようにも思えない。
本当に自分のことを名前すら分からず戸惑っている。まるで迷子の子供のように不安な表情で。
「あら? あなたの首に何かぶら下がってます。ペンダントですね」
「ぇ……あ……本当だ」
シャツが少しはだけた男の首元に銀色のタグのようなペンダントがぶら下がっていた。
「なんだろう……これ……」
気になってペンダントを手に取ってみる。するとそこには文字が刻まれていた。
「う~ん……何だか見たことない文字? 模様? 一体何―――」
「っと……『Arks.Razen』……アークス・ラゼン? って書いてある……俺の名前なのかな?」
「へ?」
「アークス……ラゼン……アークス……」
「あ、あなた、読めるのですか?」
「アークス……アークス……」
クローナがまるで読めなかったものを、男はスラスラと自然に読み上げた。
そしてその「アークス」というものを何度も男は繰り返して口にするが、まるでピンと来ていない様子。
自分は誰なのか? どこから来たのか? 何でここに居るのか? 家族は? 仲間は? 友は? 故郷は?
何も分からないからこその恐怖に男の表情は暗くなるばかりだった。
「あの、どうしてあなたはこの文字を……」
「アークス……俺、誰なんだよ? アークス……」
「…………」
自分の名と思われる「アークス」という名前。ピンとは来ない。だが、何かを思い出すかもしれないと、必死にその名前を男は繰り返した。
クローナは「どうして読める?」と更に追求しようとしたが、今の目の前の男の姿に言葉を飲み込み、代わりにニッコリ微笑んで男の両手を掴んだ。
「分かりました。では、今からあなたは『アークス』です」
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