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第32話 歴史が変わった(2)

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「急報! まもなくキカイが30人ほどこちらに……」
「そうだった、トワイライト姫! 大将軍! こちらに―――」

 兵たちもキカイたちの存在に気づいて、慌ててトワイライトたちに進言しようとするが、その前にアークスが駆け出した。


「全員まとめて風穴開けてやらぁぁ!!」

「ターゲット発見。捕獲」

「できるもんならやってみろよぉぉ!」


 アークスが唸って右手を振りかぶる。
 輝きに包まれたその右腕にトワイライトたちも気づき目を見開く。

「おお、救世主殿!」
「救世主様!」

 二人は期待していた。何を見せてくれるのかと。
 そして、同時に証明して欲しかった。

「遠慮いらぬ! おぬしの力、もう一度儂らに!」
「証明してくだされ、救世主様!」

 アークスに対して自分たちが抱いたものを証明して欲しかった。


「ええ、命じます! アークス、『もう一度見せなさい!』。あなたが私たちに見せてくれたものは……間違いなく本物だったのだと!」

「了解ッ!!」


 クローナも己の傷ついた体など一切気にすることなく、ただアークスの背中を見続け、そして信じた。


「貫けえええ、ドリルローズロードォォォォォォォォッッ!!!!」


 それは、世界で初めてキカイを倒したときに見せた渦巻く武器が更に変形し、長く伸びて枝分かれになり、同時に30人のキカイ全ての胴体を貫き、そして次の瞬間にはキカイたちが全て爆発して砕け散った。


「ふは……ふはは……なんという……見事な救世主……いや、男じゃァ! 儂もオナゴであることを思い出させるほど……子宮が疼くほどに!」

「こんな男がこの世に……ああ、ッ、ふふ……小生もチョロい女ということか……ここまで感極まるなど……姫様が惹かれて賭けたくなったわけか……」

 
 それは誰もがいまだかつて見たことのない光景。
 英雄であるトワイライトもオルガスすらも、ただの一人の女として蕩けた表情でアークスを見つめてしまうほど。

「お……おおお……」
「あれが……あれが……」
「は、ははは、や、やった……」
「やったぞおおおお!」

 そう、やったのだ。
 兵士たちの表情が歓喜に染まる。
 そして……

「任務続行不可能。撤退」
「任務続行不可能。撤退」
「任務続行不可能。撤退」

 残り僅かとなったモグラキカイたちが、口を揃えてそう呟き、次々と自分たちが掘った穴に潜って逃げていく。

「キカイたちが……」
「逃げていく……」
「あ、ああ……キカイたちが……」

 これもまた連合軍にとっては初めて見る光景だった。
 いつもは自分たちが逃げていたはずなのに、キカイが自分たちから逃げていく。
 あまりにも衝撃的なことで、誰もが追撃することができない。

「姫様……」
「うむ……わかっておるわい……」

 トワイライトは頷き、そして壊れていない馬車の上に飛び乗って、周囲を見下ろしながら槍を頭上に掲げる。


「おぬしらァ、追わなくてよい。ケリはついたぞ! ……この……いく……さ……」

「「「「ッッッ!!??」」」」

 
 トワイライトが皆に告げようとする言葉を、興奮で叫びだしたい衝動を抑えながらも、兵たちは慌てて口を閉じた。


「キカイとモグラキカイの同時襲撃による防衛戦……交戦した儂たち……儂たち世界連合軍の……じ、人類の……人類の初勝利じゃぁぁぁ!!!!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」」」」」


 それは、もはやいつ以来の勝鬨だったか、兵士たちにはそれほど久しぶりに感じた。
 キカイとの戦い、もはやそれは一切上がることが無かったものだった。
 しかし今日、歴史が変わった。
 この場に集った者たちの全てがそれを理解し、皆が抱き合って喜びを爆発させた。

「爺……散った同胞ども……おぬしらが命を懸けた希望は……間違ってはいなかったのじゃ……おぬしらが希望を死守した功績は……必ず遠い未来まで語り継いでやるわい! だから、見ているのじゃ!」

 トワイライトも空を見上げて、込み上げてくるものを必死に堪えながらも、散った仲間たちに誓った。


「そう、人類の初勝利……そしてこれが……キカイ共への反撃開始の狼煙じゃァッッ!!!」

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