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第35話 癒し(1)
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人類の初勝利。その歓喜を力の限り叫んだ者たちは、やがて力尽きて泥のように眠った。
夜も深くなり、星空の下に響くイビキや虫たちの音ぐらいしか聞こえなかった。
そんな空間から、アークスはコッソリ抜け出した。
宴では中心に座らされてもみくちゃにされ、楽しかった。だが、一方で今回のことで色々と再び分からなくなってしまった自分自身のことを、アークスは気にせずにはいられなかった。
「ふぅ……さっきまでの騒ぎが嘘みたいだ……近くにはまったくキカイの気配も感じないし……って、俺……なんでそんなこと分かっちゃうんだろ……」
自嘲気味になりながら、少し森から抜けた川沿いにアークスは出た。
そして空を見上げれば、いくつもの星々が照らされている。
「うわぁ……星が―――」
「きれいですね」
「えっ? うわっ!?」
キカイの気配は分かったというのに、近くに居た女の子の気配にまったく気づかず、驚いて思わず声を上げてしまった。
「うふふふ、ごめんなさい。アークスがどこかに行ってしまうのが見えて……」
振り返ってそこにいたのは、クローナ。
手に何かを包んだ布袋を持っている。
ペロッと舌を出しながら謝る彼女の微笑みにアークスは照れて目を逸らしてしまう。
「べ、べつに、ちょっと散歩で……」
「そうですか。でも、あんまりフラフラされちゃいますと、心配しちゃいます」
「うん……ごめん……」
少しあたりを見渡すと、丁度良い木陰を見つけてゆっくりと腰を下ろすクローナ。
そのまま自分の隣をポンポン叩いてアークスを誘う。
「アークスも座りませんか?」
「あ、う、うん……」
特に断る理由もなく、誘われるまま隣に座るアークス。
「あの、クローナ……怪我は大丈夫なの? 肩……」
「はい! もうへっちゃらです。痕もあまり残らないと思いますので」
「そ、そう……良かった……」
静かな空間に可愛い女の子と二人きりという状況に、アークスも少し緊張してしまう。
だが、そんなアークスに構わずクローナは簡単に距離を詰める。
「あ、服が乱れちゃってますよ? 宴の時にですか? 私がボタンしめてあげます」
「あ、い、いいよ、自分で……」
「遠慮しないでください♪」
ちょっと息を吐けば互いにかかるほどの距離で、クローナは特に緊張するわけでもなくマイペースなまま。
だが、そうやって簡単に近くに寄ってくるクローナに、アークスは余計に照れて顔をソッポ向いてしまった。
「アークスもすっかり人気者ですね」
「……え?」
「宴で皆さんがアークスにくっついてましたから……でも、その気持ちもわかります。アークスはとってもカッコよかったです。そして、私たちの目に狂いはなかったのです」
「そんなこと……」
「初めてお尻やお股を見られた男の子もアークスで良かったです♡」
「ちょっ、そ、それはぁ~……」
「うふふふ、でも、安心してください! 今も穿いてますから!」
「うぅ……」
小さく白い指で丁寧にアークスのボタンをしめていきながらそう告げるクローナ。
アークスはその言葉を聞いて宴の時を思い返す。
確かに、皆が笑顔で自分に接してくれて、記憶が何もない自分でも嬉しくて、楽しかったと感じた。
だが、一方で……
――足りない……もっと、お腹空いた……もっと!
――おにいちゃ……ッ!?
あのときのことがどうしても気にせずにはいられなかった。
「俺さ……自分でも分からないんだよ……どうしてあんなに俺……」
「アークス?」
「……なぁ……クローナたちは……キカイを……おいしそうとか思う? 昼に出されたスープとか、宴会の御馳走とか全然食べられないのに……キカイの体がおいしそうって思っちゃって……夢中に食べちゃったんだ……」
「…………」
自分でも自分が分からずその食欲に我を忘れてしまった。
記憶のない自分には、キカイが人類にとっての敵という記憶も、食べられる存在だということも覚えてない。
しかし、自分は食べた。
そしてそんな自分を無垢な子供たちは恐怖で怯えたような様子で青ざめていた。
夜も深くなり、星空の下に響くイビキや虫たちの音ぐらいしか聞こえなかった。
そんな空間から、アークスはコッソリ抜け出した。
宴では中心に座らされてもみくちゃにされ、楽しかった。だが、一方で今回のことで色々と再び分からなくなってしまった自分自身のことを、アークスは気にせずにはいられなかった。
「ふぅ……さっきまでの騒ぎが嘘みたいだ……近くにはまったくキカイの気配も感じないし……って、俺……なんでそんなこと分かっちゃうんだろ……」
自嘲気味になりながら、少し森から抜けた川沿いにアークスは出た。
そして空を見上げれば、いくつもの星々が照らされている。
「うわぁ……星が―――」
「きれいですね」
「えっ? うわっ!?」
キカイの気配は分かったというのに、近くに居た女の子の気配にまったく気づかず、驚いて思わず声を上げてしまった。
「うふふふ、ごめんなさい。アークスがどこかに行ってしまうのが見えて……」
振り返ってそこにいたのは、クローナ。
手に何かを包んだ布袋を持っている。
ペロッと舌を出しながら謝る彼女の微笑みにアークスは照れて目を逸らしてしまう。
「べ、べつに、ちょっと散歩で……」
「そうですか。でも、あんまりフラフラされちゃいますと、心配しちゃいます」
「うん……ごめん……」
少しあたりを見渡すと、丁度良い木陰を見つけてゆっくりと腰を下ろすクローナ。
そのまま自分の隣をポンポン叩いてアークスを誘う。
「アークスも座りませんか?」
「あ、う、うん……」
特に断る理由もなく、誘われるまま隣に座るアークス。
「あの、クローナ……怪我は大丈夫なの? 肩……」
「はい! もうへっちゃらです。痕もあまり残らないと思いますので」
「そ、そう……良かった……」
静かな空間に可愛い女の子と二人きりという状況に、アークスも少し緊張してしまう。
だが、そんなアークスに構わずクローナは簡単に距離を詰める。
「あ、服が乱れちゃってますよ? 宴の時にですか? 私がボタンしめてあげます」
「あ、い、いいよ、自分で……」
「遠慮しないでください♪」
ちょっと息を吐けば互いにかかるほどの距離で、クローナは特に緊張するわけでもなくマイペースなまま。
だが、そうやって簡単に近くに寄ってくるクローナに、アークスは余計に照れて顔をソッポ向いてしまった。
「アークスもすっかり人気者ですね」
「……え?」
「宴で皆さんがアークスにくっついてましたから……でも、その気持ちもわかります。アークスはとってもカッコよかったです。そして、私たちの目に狂いはなかったのです」
「そんなこと……」
「初めてお尻やお股を見られた男の子もアークスで良かったです♡」
「ちょっ、そ、それはぁ~……」
「うふふふ、でも、安心してください! 今も穿いてますから!」
「うぅ……」
小さく白い指で丁寧にアークスのボタンをしめていきながらそう告げるクローナ。
アークスはその言葉を聞いて宴の時を思い返す。
確かに、皆が笑顔で自分に接してくれて、記憶が何もない自分でも嬉しくて、楽しかったと感じた。
だが、一方で……
――足りない……もっと、お腹空いた……もっと!
――おにいちゃ……ッ!?
あのときのことがどうしても気にせずにはいられなかった。
「俺さ……自分でも分からないんだよ……どうしてあんなに俺……」
「アークス?」
「……なぁ……クローナたちは……キカイを……おいしそうとか思う? 昼に出されたスープとか、宴会の御馳走とか全然食べられないのに……キカイの体がおいしそうって思っちゃって……夢中に食べちゃったんだ……」
「…………」
自分でも自分が分からずその食欲に我を忘れてしまった。
記憶のない自分には、キカイが人類にとっての敵という記憶も、食べられる存在だということも覚えてない。
しかし、自分は食べた。
そしてそんな自分を無垢な子供たちは恐怖で怯えたような様子で青ざめていた。
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