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第38話 ファクトリー(2)
しおりを挟む「く、クローナ……いつから……」
「ええ、『ふぁくとりーはどこに?』あたりからです」
「そ、そうなんだ……」
気付かなかったと項垂れるアークス。しかし項垂れた瞬間……
「……うそです……『かわいいな』……からです」
微かにボソッと呟いたクローナの言葉。その頬は少しだけ赤くなっている。
だが、その微かな声をアークスはしっかりと聞こえてしまい、自身の顔も熱くなった。
「ごめん……」
「いいえ、とっても嬉しいです♡ そして、あなたはとってもカッコイイです♪」
「ッ、いや、そ、それはどーも、お世辞でも嬉しいよ」
「ん~? お世辞なわけありません! あなたはカッコイイです! 信じなさい!」
「はい、信じます! ありがとうございます! ……あっ……」
「んふふふ~、はい! 私とあなたは、カッコイイかわいいコンビですね」
そう言われて、またアークスは余計に照れてしまう。
そして、実はこと時そんな初々しい二人の姿を、ほっこりした表情で草むらから見守る者たちが十数人以上いたのだった。
しかし、そんな「人の気配」を感知できないほど緊張してしまっているアークスは、ただ、目の前で微笑むクローナに胸が高鳴って……
――抱きしめたいくらいカワイイ……
と、思ってしまう。
だが、思わずそういう想いを抱いてしまっても、そんなことできるはずがないのはアークスも分かっている。
今はとにかく理性を保つために、アークスは顔を逸らした。
「……アークス? どうしたのですか?」
「な、何でもない……よ」
「ん~? そうは見えませんが……って、なんで顔をそっち向けちゃうんですか? こっちを見てください」
「い、いや、だ、大丈夫だから……」
「心配です。どうしたのです?」
照れ隠しで顔を背けたことに対して、「何かあったのではないか?」と勘違いしてしまったクローナ。
こっちを何で見ないのかと、余計にアークスに接触し、その時に触れるクローナの体の感触にアークスは余計に顔だけでなく体まで離れようとしてしまう。
そんなアークスの気持ちが分からないクローナは少しムッとして……
「こっちを見なさい、アークス」
「はい! 見ます!」
「……あら」
「……あ……あぅ……あ」
クローナの命令で顔をまた顔を向けたアークス。そのとき、互いの顔がほとんど触れる寸前。
息をすれば互いに息がかかるほどの距離。
「あ、あは、ご、ごめんなさい。命令しちゃいました」
「う、ううん、い、いいけど……ご、ごめん……」
流石にその距離はクローナも少しびっくりしたのか、少し頬を赤らめる。
「でも、急にどうしたのです?」
「い、いや……その、別に何でもない……」
「む~~~……ふふん、分かりました。あなたがそう言うのでしたら……」
顔を向けてくれたものの、本当のことを言おうとしないアークス。
その言葉を受けて、また「む~」っとしたクローナは、少し悪だくみの表情を見せて……
「アークス。急にどうしたのか、本当のことを言いなさい!」
本当はあまりこういうのはよくないと思いつつも、アークスが何かを隠しているのではないかと気になったクローナは、そう言って本当のことを聞き出そうとした。
すると、アークスは……
「ッ!? は、はい、あの、クローナがすごいかわいいから……抱きしめちゃいたいって思うぐらいかわいくて……でも、そんなのダメだから俺はちょっと離れようとしたんだ」
「……ふぇ……」
「……あ……」
「あ……えっと……」
包み隠さず言ってしまった。その瞬間、アークスの表情の半分が青ざめる。
一方でクローナも自分で命令したものの、予想外のアークスの言葉に思わず惚けてしまう。
同時に、抱きしめたいと言われたことに対して、嫌ではない感情と一緒に、自分でも不思議なほど胸が急に高鳴りだした。
「あ、アークス……その」
「ご、ごめん、おれ、俺、変なこと言っちまった。あー、ごめん、忘れてくれ」
「……アークス……」
顔を手で覆って再び顔を背けるアークス。同時にその肩が少し震えている。
それを見て、クローナは命令という形でアークスに恥ずかしい思いをさせてしまったこと、同時にあれほどキカイ相手に勇猛に戦ったアークスが見せる弱々しい姿に、クローナ自身もアークスを「抱きしめたい」と思ってしまった。
そんな自分の気持ちにクローナは自分自身を少しはしたないと思いつつも、やはり嫌ではないと再確認し……
「アークス……こっちを見なさい」
「はい、見ます。……あっ……」
クローナはアークスに向けて、照れながらも両手をいっぱいに広げて……
「思う存分、私をギュッと抱きしめるのです!」
「ッ!?」
次の瞬間、アークスはクローナを強く抱き寄せていた。
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