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第2部 第7章
第3話 side.ユーリアナ 不本意なサロン参加で、予期せぬ流行を生む
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「ユーリアナ様がわたくしのサロンにご参加くださって、夢を見ているような気分ですわ。大変嬉しく思っておりますのよ?」
サロンの主催者が話を振ってきて、私は内心小さく息を吐く。
こうした他人との関わりを私は嫌っている。
特に貴族の集まりというのは、それだけで嫌悪すべきもので、こうして久々にサロンに参加することで心底己を理解する。私は貴族というものが嫌いなんだな、と。
表情は仮面で、その心を窺わせない淡麗な微笑み。
その機微を窺うのは容易いが、かといってわかったところで不快感は拭えない。今回のサロンとて、私が呼ばれたのは箔づけでしかないのだろう。
そんなものにどうして私が参加しなくてはいけないのか。
腸が煮えくり返って、内側から燃えてしまいそうだ。
どんな誘いも袖にしてきて、誘えたら幸運。幸運の花や青い鳥よろしく“高嶺の銀花”などと呼称されているらしいが、私からすればその呼び名はやめろと文句を言いたくなる。
無名の絵画に、知った顔で名前と意味を添えられるようなもの。
画家の意図したものとはかけ離れ、知らない誰かが付け加えた名前と意味だけが広がっていく。
アルローズ公爵令嬢と同じ。
私という個人が尊重されることはない。サロンの一等席に座っている私はユーリアナではなく、アルローズ公爵家の令嬢であるように。
だから、私はこういう意味もなく、ただただ気分を害する集まりには参加しないようにしていた。
だというのに。
まったくもって腹立たしいことに、私であっても断れない誘いというものは存在する。
その1つはリオネル殿下。
普段は対等のように接しているが、相手は王国第二王子。幼い頃からの付き合いゆえに気安さはあるが、本来は公爵令嬢という立場でも粗雑に扱うなど許されない立場だ。
口では文句を言いつつも、基本的にリオネル殿下の誘いを断れない理由でもある。先日、雪の中、猫を捕まえるなんて使用人に任せればいいことに呼び出されて行ったのも、それが理由だ。
旦那様がいるとわかっていれば、喜んで暖かい部屋を出たけどね。
気を遣ったんだろう。旦那様をだしに使わないのには、好感が持てる。
そんな出来た人物だからこそ、私はリオネル殿下の結婚の申し出を断れている。そうでなければ、リオネル殿下が平均的な貴族であれば、既に婚約くらいしていたはずだ。
その点だけは感謝している。
好きな女性がいるのに、平然と粉をかけてくるのには、意気地なしと罵倒の1つもお見舞いしたくなるが、これでも私は淑女なのでそんな汚い言葉は口にしない。
心の中の旦那様もそうだと頷いているとも。
そして、もう1つ。
私が断れないのは――父の、現アルローズ公爵家当主による要請という名の命令だ。手紙1つ寄越して、参加しろという。なんて簡単な仕事だろうと嗤ってやったとも。
ただ、それだけであれば無視してやったが、手紙にはついでとばかりに“リュウール子爵家の子息を紹介しなさい”と添えられていた。
学園内のこととはいえ、いずれは父の耳に届くと思っていたが、こうして脅しの材料にされるとまでは想像していなかった。
参加しなければ、旦那様がどうなるか。
でなければ、わざわざサロンへの参加要請とともに、旦那様の名前を添えはしない。
――あぁ、まったくもって腹立たしい。
旦那様を人質に取る父にも、わかっていて逆らえない私にも。
自信に満ち溢れ、尊大な態度を取る私が、父の手紙1つに逆らえないとは、情けなさを通り越してもはや笑えてくる。
ただ、このままだと思われるのは――このユーリアナがその程度の器だと断じられるのは甚だ遺憾だ。
いずれ反旗を翻してやろうと心に誓っていると、「あの、ユーリアナ様……?」と恐る恐る尋ねてくる主催者の令嬢の声を拾った。
「なにかな?」
「い、いえ。お返事がなかったもので。体調が優れませんか?」
「いや、健康だとも。少し考えごとをしていただけだ」
「そうでしたか。ユーリアナ様になにごともなく、安心しましたわ」
胸に手を当て、彼女はほっと息を吐く。
お淑やかな所作だ。私とは性質が異なり、たおやかな令嬢で、令息たちが好む清廉さがある。旦那様もこういう一見、弱々しい美人が好みだったりするのだろうか。
守ってあげたくなる女性。
私には当てはまらないし、1人ではなにもできないような女になるつもりはないが、気にはなる。
本人が誘導したわけではないだろうが、手を添えた豊満な胸も。
私とてそこそこあるし、形は綺麗だ。負けている、などと断じて思わないが、それでもその大きさには思うところがある。というか、できた。
男性は大きいのが好きと聞く。
この無駄に大きいだけの胸が……と、つい注視してしまう。
「ゆ、ユーリアナ様?」
「失礼。不躾だったね。もぎ捨てたいと思っただけさ、気にする必要はないよ」
「気にしますわっ!?」
彼女が気にしようが知ったことではない。
あたふたとしたが、そこは高貴な令嬢だ。微笑みを作り直して、話題を切り替えてくる。
「父がアルローズ公爵様に感謝しておりました。石炭を高値で買い取っていただき、どうにか冬を乗り越えられそうだと。ルクレール伯爵家の者として、わたくしからも感謝を伝えさせていただきますわ」
椅子に座りながら、礼を尽くす主催者の令嬢にあぁ、そういうことか、とどうでもいい納得をする。
この国は各領から鉱石が採掘されるが、その中でも宝石類が持て囃される傾向が強い。とても貴族らしいことだ。
そのため、どれだけ爵位が高かろうとも、宝石以外の鉱石を扱う家は社交の場で軽んじられやすい。ただ、石炭は燃料だ。貴族の家でも暖炉やストーブに使えるし、金属の加工でも必須となる。
冬を超えるのにも必需品で、生活を支える動力源。
ただ、宝石史上のこの国では、生活必需品扱いで国から価格を抑えられ、税制面でも宝石ほど優遇されていない。伯爵という地位に似合わない気苦労も多いはずだ。
そうした面を配慮して、父が高値で買い取った、ということだろう。
“高貴なる者の義務”とはよくいったものだ。公爵としての在り方に縛られる父らしい偽善行為。このサロンに私を参加させたのも、その延長ということか。
「私がしたことではない」
「……そう、ですが」
つい、意地になって突っぱねると、彼女は灰の瞳を困ったように潤ませる。
それを見て、よくないな、と意識を改める。
父が関わっているせいで、少々苛ついているようだ。主催者令嬢は知らぬこと。彼女に苛立ちを吐き出すのは、弱い者虐めとなんら変わらない唾棄すべき行為だった。
「すまない、父の話はあまり好きではないんだ。ただ、君には関係のないこと。礼を逸した態度を謝罪しよう」
「お気になさらず。わたくしも、ご不快にさせてしまい申し訳ございませんでした」
謝罪を交換し合い、沈黙が訪れる。
私が参加しているからか、サロンには十数人の令嬢が集まっている。彼女たちの控えめな笑い声や、談笑が通り抜けていく。
このまま黙っていても私は苦ではないのだが……ちらりと気まずそうに俯く令嬢を見て、嘆息する。
どうして私が気を遣わねばならないのか。
旦那様がここにいれば、私の代わりに上手くやってくれただろうに。なぜ、令嬢のみの集まりなのか。そうでなければ、無理やりにでも参加させたというのに。
あぁ……旦那様成分が不足している。
旦那様に思いを馳せていると、「と、ところで」とこの重苦しい空気を追い払おうと、健気に笑う彼女はぱちんと手を合わせる。
「頬に赤い色がついておりますが、なにかの化粧でしょうか?」
「ん?」
頬に?
そんなものをつけた覚えはない。頬の赤みの比喩かなにかとも思ったが、旦那様の前ではないのだから、外の積もった雪のように白いはずだ。
色……と考えて、なるほどと自然と口元が綻ぶのを感じた。
指先で、見えない塗料をなぞる。
「なに、鉱輝祭の準備で看板を作っていてね、それが存外楽しく、顔に塗料が飛んだのにも気づかないほどだ」
「まぁ! 看板を」
手を口に当てて驚かれる。
「ご自分で準備をなさっているのですか?」
「あぁ、旦那様と一緒に」
「心の底から楽しんでいらっしゃるのですね」
ふふ、と主催者の令嬢に笑われ、どうしてそう思ったのか聞くと、だってと彼女は言う。
「ここに来てからずっと、固い表情をしていらっしゃったのに、柔らかく笑うんですもの。その場を見ていないわたくしでも、あぁ、楽しいんだな、というのが伝わってきますわ」
指摘されて、頬に触れる。
笑ったのは事実だが、そんな顔をしているだろうか。鏡がないからわからないが、この令嬢が嘘を吐いていないことくらい判別できる。
それに、
「無論、楽しいとも。旦那様と一緒なら、なんだってね!」
誰に恥じることのない事実なのだから。
――話は変わるが、サロンというのは流行の発信源になりやすい。
特に令嬢たちの集まるサロンでは、互いの好きなものを見せ合うのが通例になっている。最新のファッションだったり、趣味だったり……ときによってはゴシップも。
その中でも、流行になりやすいものがあって、それは身分が1番高い者の発信するものだ。
権威づけ、箔づけ。
ただ単純に気に入ったから、というのもあるが、とかく目に止まりやすい。
「でも、まさか私もこうなるとは思っていなかったんだ」
信じてくれ旦那様と、空き部屋の前で呆然と立ち尽くす彼を見上げる。
その顔は引きつっていて、なにこれ? と思っているのが、声にしなくても明瞭だった。
「鉱輝祭の準備が流行るとか、誰が思うよ……」
ぽつりと零した旦那様のひとりごとに私も同意する。
空き教室だったのは過去の話。
現在は、鉱輝祭の準備をしようと集まった生徒たちが銘々に作業していて、市井の街のような賑わいを見せていた。
「これも1つの青春かな?」
「それで、俺たちの作業場所は?」
「……追い払う?」
ユーリには心底がっかりしたよ、みたいな顔を向けられた。
そうだろうな。
こうして不用意な発言で私と旦那様は居場所を失ったわけだが……これは私が悪いのだろうか?
◆第7章_fin◆
__To be continued.
サロンの主催者が話を振ってきて、私は内心小さく息を吐く。
こうした他人との関わりを私は嫌っている。
特に貴族の集まりというのは、それだけで嫌悪すべきもので、こうして久々にサロンに参加することで心底己を理解する。私は貴族というものが嫌いなんだな、と。
表情は仮面で、その心を窺わせない淡麗な微笑み。
その機微を窺うのは容易いが、かといってわかったところで不快感は拭えない。今回のサロンとて、私が呼ばれたのは箔づけでしかないのだろう。
そんなものにどうして私が参加しなくてはいけないのか。
腸が煮えくり返って、内側から燃えてしまいそうだ。
どんな誘いも袖にしてきて、誘えたら幸運。幸運の花や青い鳥よろしく“高嶺の銀花”などと呼称されているらしいが、私からすればその呼び名はやめろと文句を言いたくなる。
無名の絵画に、知った顔で名前と意味を添えられるようなもの。
画家の意図したものとはかけ離れ、知らない誰かが付け加えた名前と意味だけが広がっていく。
アルローズ公爵令嬢と同じ。
私という個人が尊重されることはない。サロンの一等席に座っている私はユーリアナではなく、アルローズ公爵家の令嬢であるように。
だから、私はこういう意味もなく、ただただ気分を害する集まりには参加しないようにしていた。
だというのに。
まったくもって腹立たしいことに、私であっても断れない誘いというものは存在する。
その1つはリオネル殿下。
普段は対等のように接しているが、相手は王国第二王子。幼い頃からの付き合いゆえに気安さはあるが、本来は公爵令嬢という立場でも粗雑に扱うなど許されない立場だ。
口では文句を言いつつも、基本的にリオネル殿下の誘いを断れない理由でもある。先日、雪の中、猫を捕まえるなんて使用人に任せればいいことに呼び出されて行ったのも、それが理由だ。
旦那様がいるとわかっていれば、喜んで暖かい部屋を出たけどね。
気を遣ったんだろう。旦那様をだしに使わないのには、好感が持てる。
そんな出来た人物だからこそ、私はリオネル殿下の結婚の申し出を断れている。そうでなければ、リオネル殿下が平均的な貴族であれば、既に婚約くらいしていたはずだ。
その点だけは感謝している。
好きな女性がいるのに、平然と粉をかけてくるのには、意気地なしと罵倒の1つもお見舞いしたくなるが、これでも私は淑女なのでそんな汚い言葉は口にしない。
心の中の旦那様もそうだと頷いているとも。
そして、もう1つ。
私が断れないのは――父の、現アルローズ公爵家当主による要請という名の命令だ。手紙1つ寄越して、参加しろという。なんて簡単な仕事だろうと嗤ってやったとも。
ただ、それだけであれば無視してやったが、手紙にはついでとばかりに“リュウール子爵家の子息を紹介しなさい”と添えられていた。
学園内のこととはいえ、いずれは父の耳に届くと思っていたが、こうして脅しの材料にされるとまでは想像していなかった。
参加しなければ、旦那様がどうなるか。
でなければ、わざわざサロンへの参加要請とともに、旦那様の名前を添えはしない。
――あぁ、まったくもって腹立たしい。
旦那様を人質に取る父にも、わかっていて逆らえない私にも。
自信に満ち溢れ、尊大な態度を取る私が、父の手紙1つに逆らえないとは、情けなさを通り越してもはや笑えてくる。
ただ、このままだと思われるのは――このユーリアナがその程度の器だと断じられるのは甚だ遺憾だ。
いずれ反旗を翻してやろうと心に誓っていると、「あの、ユーリアナ様……?」と恐る恐る尋ねてくる主催者の令嬢の声を拾った。
「なにかな?」
「い、いえ。お返事がなかったもので。体調が優れませんか?」
「いや、健康だとも。少し考えごとをしていただけだ」
「そうでしたか。ユーリアナ様になにごともなく、安心しましたわ」
胸に手を当て、彼女はほっと息を吐く。
お淑やかな所作だ。私とは性質が異なり、たおやかな令嬢で、令息たちが好む清廉さがある。旦那様もこういう一見、弱々しい美人が好みだったりするのだろうか。
守ってあげたくなる女性。
私には当てはまらないし、1人ではなにもできないような女になるつもりはないが、気にはなる。
本人が誘導したわけではないだろうが、手を添えた豊満な胸も。
私とてそこそこあるし、形は綺麗だ。負けている、などと断じて思わないが、それでもその大きさには思うところがある。というか、できた。
男性は大きいのが好きと聞く。
この無駄に大きいだけの胸が……と、つい注視してしまう。
「ゆ、ユーリアナ様?」
「失礼。不躾だったね。もぎ捨てたいと思っただけさ、気にする必要はないよ」
「気にしますわっ!?」
彼女が気にしようが知ったことではない。
あたふたとしたが、そこは高貴な令嬢だ。微笑みを作り直して、話題を切り替えてくる。
「父がアルローズ公爵様に感謝しておりました。石炭を高値で買い取っていただき、どうにか冬を乗り越えられそうだと。ルクレール伯爵家の者として、わたくしからも感謝を伝えさせていただきますわ」
椅子に座りながら、礼を尽くす主催者の令嬢にあぁ、そういうことか、とどうでもいい納得をする。
この国は各領から鉱石が採掘されるが、その中でも宝石類が持て囃される傾向が強い。とても貴族らしいことだ。
そのため、どれだけ爵位が高かろうとも、宝石以外の鉱石を扱う家は社交の場で軽んじられやすい。ただ、石炭は燃料だ。貴族の家でも暖炉やストーブに使えるし、金属の加工でも必須となる。
冬を超えるのにも必需品で、生活を支える動力源。
ただ、宝石史上のこの国では、生活必需品扱いで国から価格を抑えられ、税制面でも宝石ほど優遇されていない。伯爵という地位に似合わない気苦労も多いはずだ。
そうした面を配慮して、父が高値で買い取った、ということだろう。
“高貴なる者の義務”とはよくいったものだ。公爵としての在り方に縛られる父らしい偽善行為。このサロンに私を参加させたのも、その延長ということか。
「私がしたことではない」
「……そう、ですが」
つい、意地になって突っぱねると、彼女は灰の瞳を困ったように潤ませる。
それを見て、よくないな、と意識を改める。
父が関わっているせいで、少々苛ついているようだ。主催者令嬢は知らぬこと。彼女に苛立ちを吐き出すのは、弱い者虐めとなんら変わらない唾棄すべき行為だった。
「すまない、父の話はあまり好きではないんだ。ただ、君には関係のないこと。礼を逸した態度を謝罪しよう」
「お気になさらず。わたくしも、ご不快にさせてしまい申し訳ございませんでした」
謝罪を交換し合い、沈黙が訪れる。
私が参加しているからか、サロンには十数人の令嬢が集まっている。彼女たちの控えめな笑い声や、談笑が通り抜けていく。
このまま黙っていても私は苦ではないのだが……ちらりと気まずそうに俯く令嬢を見て、嘆息する。
どうして私が気を遣わねばならないのか。
旦那様がここにいれば、私の代わりに上手くやってくれただろうに。なぜ、令嬢のみの集まりなのか。そうでなければ、無理やりにでも参加させたというのに。
あぁ……旦那様成分が不足している。
旦那様に思いを馳せていると、「と、ところで」とこの重苦しい空気を追い払おうと、健気に笑う彼女はぱちんと手を合わせる。
「頬に赤い色がついておりますが、なにかの化粧でしょうか?」
「ん?」
頬に?
そんなものをつけた覚えはない。頬の赤みの比喩かなにかとも思ったが、旦那様の前ではないのだから、外の積もった雪のように白いはずだ。
色……と考えて、なるほどと自然と口元が綻ぶのを感じた。
指先で、見えない塗料をなぞる。
「なに、鉱輝祭の準備で看板を作っていてね、それが存外楽しく、顔に塗料が飛んだのにも気づかないほどだ」
「まぁ! 看板を」
手を口に当てて驚かれる。
「ご自分で準備をなさっているのですか?」
「あぁ、旦那様と一緒に」
「心の底から楽しんでいらっしゃるのですね」
ふふ、と主催者の令嬢に笑われ、どうしてそう思ったのか聞くと、だってと彼女は言う。
「ここに来てからずっと、固い表情をしていらっしゃったのに、柔らかく笑うんですもの。その場を見ていないわたくしでも、あぁ、楽しいんだな、というのが伝わってきますわ」
指摘されて、頬に触れる。
笑ったのは事実だが、そんな顔をしているだろうか。鏡がないからわからないが、この令嬢が嘘を吐いていないことくらい判別できる。
それに、
「無論、楽しいとも。旦那様と一緒なら、なんだってね!」
誰に恥じることのない事実なのだから。
――話は変わるが、サロンというのは流行の発信源になりやすい。
特に令嬢たちの集まるサロンでは、互いの好きなものを見せ合うのが通例になっている。最新のファッションだったり、趣味だったり……ときによってはゴシップも。
その中でも、流行になりやすいものがあって、それは身分が1番高い者の発信するものだ。
権威づけ、箔づけ。
ただ単純に気に入ったから、というのもあるが、とかく目に止まりやすい。
「でも、まさか私もこうなるとは思っていなかったんだ」
信じてくれ旦那様と、空き部屋の前で呆然と立ち尽くす彼を見上げる。
その顔は引きつっていて、なにこれ? と思っているのが、声にしなくても明瞭だった。
「鉱輝祭の準備が流行るとか、誰が思うよ……」
ぽつりと零した旦那様のひとりごとに私も同意する。
空き教室だったのは過去の話。
現在は、鉱輝祭の準備をしようと集まった生徒たちが銘々に作業していて、市井の街のような賑わいを見せていた。
「これも1つの青春かな?」
「それで、俺たちの作業場所は?」
「……追い払う?」
ユーリには心底がっかりしたよ、みたいな顔を向けられた。
そうだろうな。
こうして不用意な発言で私と旦那様は居場所を失ったわけだが……これは私が悪いのだろうか?
◆第7章_fin◆
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