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本編-第一章-鬼に金棒
第1章 8節 -鬼退治の末に-
しおりを挟む戦いが始まる前に程度の差こそあれど構えというものがある。
子鬼は唸り声をあげながら言霊を集中させ、まるで刀身をなでる剣士が如く、バットに手をあてると、瞬く間に金棒へと形を変えた。
正真正銘の棘が突き出た金棒。バットなどとは比べものにならない脅威が見て取れる。
そして、準備が整ったといわんがばかりに一息をつくと、地を割るほどの脚力で迫り、勢いを利用しては躊躇いなく真白に金棒を振り下ろしてくる。
狙いは脳天。当たれば命はない。
無論、打つ「手」はある。真白は左腕に言霊を込め、回転させながら振り上げた。
「白刃流し!」
「ころ」の原理を利用した、カウンター技は上手く一撃を逸らせることに成功し、金棒は真横へと落ちる。
勢いを殺したとはいえ、金棒が地面に接触すれば足場が崩されれば、まともに戦うことなどできない。
故に真白は陸で戦うことを「否」とし、飛んで戦うことを「肯」とした。
そっと、足が地面を蹴ると言霊が両足を包み、羽のように軽くなる。
子鬼は地面を叩き割り、のめり込んでいくがしっかりと狙いを見定め、右足でローキックを叩きこむ。
如何に武術の達人といえど、真似できない「重力を無視した動き」に子鬼の反応は遅れ、吹き飛ばされる。
「一応、加減せずに蹴りこんだけど…やれたかな?」
庭の塀に吹き飛ばされた子鬼の姿を確認しようとするが土煙に紛れて捉えることができない。
「言霊はおろか霊子の反応すら不安定。さっきの狂ったような勢いは一体…」
思考は廻らず疑問が深まる中、反射的に構える。
金棒が音もなく投擲された―――
一撃に反応できただけでも十分尋常ではなかったが、真白はそれを打ち払った。
「危ない…霊子を展開させてなかったら今頃…」
安堵のため息を出しかけたが、真白は異変に気付く。
「いない?一体どこに!?」
周囲を見渡すも子鬼の姿は見当たらず、霊子でくみ上げた感知範囲にも引っかからない。
(逃げられた?さっきの金棒は囮?いや、違う!!落ちた音が確認できない!?)
「しまっ――!!?」
視覚の狭さとパニックを利用され、あり得ないはずの現象がおきれば人の思考力は極端に落ちる。
「ウウォォォォォオオオオオ!?!?!?!?!!!」
そう――撥ね付けられた金棒を空中で掴み、再び襲ってくるなど考えもしなかったのだから…
だが、突然降りかかった災いにも真白は戦意を失うことなく立ち向かう。
「災いとして降りかかるならば福をもってことをなす!!」
決意を込めた言葉とともに右手に言霊を集め、抜き手を構える。
金棒による強烈な横薙ぎの一撃。片や抜き手による強靭な縦方向の刺突はぶつかり合い、炸裂する。
瞬間――霊子が集中した空間は弾け飛んだ。
どす黒いオーラを纏った金棒は折れ、元のバットへと戻る。
そして、そのまま折れることなく突き放たれた抜き手は子鬼の背中を削るように放たれる。
堕ちた子鬼は折れたバットを必死に求めるように手を伸ばし、届かぬまま力尽きる。
「ハァ…ハァ……どう…にか、勝てた…」
大量の言霊を放出した真白はボロボロの右手を下げ、息をきらす…
意識もはっきりとせず、座り込みたいきぶんだったが、子鬼の正体を確かめるためにゆっくりと近づく。
赤く光っていた皮膚の色は人間らしい肌色に戻り、服も以前纏っていたと思われる白いTシャツとジーンズだけであり、鬼であったことすら想像し難い姿にみえる。
残るは右前頭部に生えた一本角のみ。
どんな、人物か確認しようとうつ伏せになった「元子鬼」の体をひっぺ返す。
「嘘!?――い…がらし……くん?」
日没と共に少女の非日常的日常は崩壊を始めた。
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