8 / 19
第8話 現れた妖魔
しおりを挟む
「鳥……!?」
妖魔の姿を認めた柊也が、大きく目を見開く。
漆黒の闇を纏ったそれは、前に柊也を襲ったものとは違う姿形をしていた。
柊也が口にした通り、見た目は鳥のようである。
ただ、形が違うだけで黒い塊であることには変わりがなく、大きさも柊也を襲った妖魔と同じくらいに見えた。
真っ黒な鳥の形をした妖魔は、柊也たちから少し離れた場所で佇むように、確かに存在していたのだ。
「え、何かいるんですか!?」
わずかに恐怖を滲ませた表情の優海が、きょろきょろと辺りを見回す。
やはり、優海には妖魔の姿は見えていないようだった。
「柊也。君は優海さんと自分の身をちゃんと守るんだ、いいね?」
継が柊也に真剣な眼差しを向ける。
決して大きくはないが、しっかりと言い聞かせるような声音に、柊也は黙って頷いた。
「優海さん、こっちに!」
柊也がすぐさま優海の腕を掴んで、自分の後ろへと引き寄せる。優海は突然のことに少し驚いたようだったが、素直に従い、柊也の後ろに隠れた。
柊也の行動に満足したのか、継はわずかに口角を上げて、また妖魔に向き直る。
そのまま前へと一歩進み出ると、万が一のために持ち歩いていた緋桜を鞘から一気に抜き放った。
「行くよ、緋桜」
夜の闇に、継の凛とした声が響く。
声とほぼ同時に、緋桜の切先に小さな炎が灯った。
炎はゆっくり、静かに刀身を包み込むように広がっていく。
刀身をすべて包み込んだかと思うと、その一瞬の後、今度は弾けるように大きく燃え上がった。
(……すごく綺麗だ)
柊也は、継と緋桜の姿に目を奪われる。
一枚の絵がそこにあるようだった。
これまで訓練の時に数回だけだが、継が緋桜を使う場面を間近で見たことがある。
だが何度見ても、毎回同じ感想を持つのだ。見慣れるということがない。
ありきたりの褒め言葉しか出てこないのが非常に残念だ、と柊也はいつも思っていた。
「柊也、後は任せたよ!」
そう言うと、継は緋桜を手に駆け出す。
「あ、ああ!」
継の言葉で現実に引き戻された柊也が息を呑んだ。
継が駆けてくるのに気づいたらしい妖魔が、迎え撃とうというのか、大きな翼を広げる。
途端、妖魔の周囲に強い風が巻き起こった。
「継!」
柊也は腕で自身の顔を覆いながら、思わず声を上げる。
柊也のところまで届くような強風だ。柊也よりも妖魔の近くにいる継には、もっと強く感じられただろう。
しかし継は足を止めることなく、まっすぐ妖魔に向かっていった。
一気に間合いに入る。まだ大きく渦巻いている風と妖魔を同時に切り裂くように、炎を纏った緋桜で薙いだ。
真一文字に、緋桜の鮮やかな朱が流れる。
固唾を吞んで見守っていた柊也の瞳には、その様がまるでスローモーションのように映っていた。
次の瞬間、妖魔が咆哮し、柊也ははっと我に返る。声の方へと視線を向けると、妖魔が継めがけて翼を叩きつけようとしていた。
「──っ!」
咄嗟に後ろに退いた継は、ぎりぎりで翼をかわすことには成功する。
だが翼が発生させた突風によって、緋桜もろとも吹き飛ばされ、柊也の傍の地面に叩きつけられた。
「継! 大丈夫か!?」
慌てて柊也が駆け寄って膝をつくと、継はゆっくり上半身を起こす。砂埃を吸い込んでしまったのか、軽く咳き込んだ。
「……緋桜……は、ちゃんとあるね……。よかった」
そう小さく呟いた継の手には、炎の消えた緋桜がしっかり握られていた。
「そんなこと気にしてる場合じゃねーだろ! いや、武器がなくなったら困るけど、でも……。そうだ、怪我、ああ、そうじゃなくて……!」
柊也は混乱していた。もはや何を言っているのか、自分でもよくわかっていない。
それでも、継にはだいたい伝わっているようだった。
継は緋桜を握っていない方の手を、柊也に向けて伸ばす。
「……言いたいことが色々ありそうなのは、よくわかったよ」
そのまま柊也の頭をポンポンと優しく叩くと、ようやく柊也は大きく息を吐いた。少しは落ち着いたらしい。
継がこれまで妖魔のいた場所を、目視で確認する。次には空を見上げた。
つられるように、柊也も継の視線の先を追うが、
「妖魔が消えた……?」
ただそう口にするのが精一杯だった。
二人の視界にあるのは夜の闇と、その中で小さく瞬いている星たちだけだ。
「……逃げたか」
低い声で継が言う。
「追わなくていいのかよ!?」
柊也は焦ったように声を荒げるが、継は首を横に振った。
「ああ、あの妖魔は鳥型で動きが速かった。今からじゃ追いつけないし、そもそもどこに行ったのかもわからない。優海さんをここに放っておくわけにもいかないしね」
「でも、逃がしたままにしたらもっと優海さんが危険だろ!」
柊也が優海の方に顔を向ける。
優海はまだ何が起こっていたのか、いまいち理解できていないようだった。胸の前で両手を組んで、不安そうにしているだけである。
おそらくだが、妖魔が近くにいたかもしれない、と認識したくらいだろう。
普通の人間には、妖魔の姿を見ることはおろか、声を聞くこともできないのだ。
継はまだ座り込んだままで、柊也の顔を見上げる。
「それは大丈夫。僕も少しやられたけど、向こうにも怪我を負わせたはずだから。しばらくは怪我を癒すためにどこかに潜伏すると思うよ」
「それじゃ何の解決にもなってねーじゃねーか!」
柊也の言う通りではあったが、継は薄く笑みを浮かべ、言った。
「だから大丈夫だって。とにかく、これからしばらくは優海さんの警護をするよ」
妖魔の姿を認めた柊也が、大きく目を見開く。
漆黒の闇を纏ったそれは、前に柊也を襲ったものとは違う姿形をしていた。
柊也が口にした通り、見た目は鳥のようである。
ただ、形が違うだけで黒い塊であることには変わりがなく、大きさも柊也を襲った妖魔と同じくらいに見えた。
真っ黒な鳥の形をした妖魔は、柊也たちから少し離れた場所で佇むように、確かに存在していたのだ。
「え、何かいるんですか!?」
わずかに恐怖を滲ませた表情の優海が、きょろきょろと辺りを見回す。
やはり、優海には妖魔の姿は見えていないようだった。
「柊也。君は優海さんと自分の身をちゃんと守るんだ、いいね?」
継が柊也に真剣な眼差しを向ける。
決して大きくはないが、しっかりと言い聞かせるような声音に、柊也は黙って頷いた。
「優海さん、こっちに!」
柊也がすぐさま優海の腕を掴んで、自分の後ろへと引き寄せる。優海は突然のことに少し驚いたようだったが、素直に従い、柊也の後ろに隠れた。
柊也の行動に満足したのか、継はわずかに口角を上げて、また妖魔に向き直る。
そのまま前へと一歩進み出ると、万が一のために持ち歩いていた緋桜を鞘から一気に抜き放った。
「行くよ、緋桜」
夜の闇に、継の凛とした声が響く。
声とほぼ同時に、緋桜の切先に小さな炎が灯った。
炎はゆっくり、静かに刀身を包み込むように広がっていく。
刀身をすべて包み込んだかと思うと、その一瞬の後、今度は弾けるように大きく燃え上がった。
(……すごく綺麗だ)
柊也は、継と緋桜の姿に目を奪われる。
一枚の絵がそこにあるようだった。
これまで訓練の時に数回だけだが、継が緋桜を使う場面を間近で見たことがある。
だが何度見ても、毎回同じ感想を持つのだ。見慣れるということがない。
ありきたりの褒め言葉しか出てこないのが非常に残念だ、と柊也はいつも思っていた。
「柊也、後は任せたよ!」
そう言うと、継は緋桜を手に駆け出す。
「あ、ああ!」
継の言葉で現実に引き戻された柊也が息を呑んだ。
継が駆けてくるのに気づいたらしい妖魔が、迎え撃とうというのか、大きな翼を広げる。
途端、妖魔の周囲に強い風が巻き起こった。
「継!」
柊也は腕で自身の顔を覆いながら、思わず声を上げる。
柊也のところまで届くような強風だ。柊也よりも妖魔の近くにいる継には、もっと強く感じられただろう。
しかし継は足を止めることなく、まっすぐ妖魔に向かっていった。
一気に間合いに入る。まだ大きく渦巻いている風と妖魔を同時に切り裂くように、炎を纏った緋桜で薙いだ。
真一文字に、緋桜の鮮やかな朱が流れる。
固唾を吞んで見守っていた柊也の瞳には、その様がまるでスローモーションのように映っていた。
次の瞬間、妖魔が咆哮し、柊也ははっと我に返る。声の方へと視線を向けると、妖魔が継めがけて翼を叩きつけようとしていた。
「──っ!」
咄嗟に後ろに退いた継は、ぎりぎりで翼をかわすことには成功する。
だが翼が発生させた突風によって、緋桜もろとも吹き飛ばされ、柊也の傍の地面に叩きつけられた。
「継! 大丈夫か!?」
慌てて柊也が駆け寄って膝をつくと、継はゆっくり上半身を起こす。砂埃を吸い込んでしまったのか、軽く咳き込んだ。
「……緋桜……は、ちゃんとあるね……。よかった」
そう小さく呟いた継の手には、炎の消えた緋桜がしっかり握られていた。
「そんなこと気にしてる場合じゃねーだろ! いや、武器がなくなったら困るけど、でも……。そうだ、怪我、ああ、そうじゃなくて……!」
柊也は混乱していた。もはや何を言っているのか、自分でもよくわかっていない。
それでも、継にはだいたい伝わっているようだった。
継は緋桜を握っていない方の手を、柊也に向けて伸ばす。
「……言いたいことが色々ありそうなのは、よくわかったよ」
そのまま柊也の頭をポンポンと優しく叩くと、ようやく柊也は大きく息を吐いた。少しは落ち着いたらしい。
継がこれまで妖魔のいた場所を、目視で確認する。次には空を見上げた。
つられるように、柊也も継の視線の先を追うが、
「妖魔が消えた……?」
ただそう口にするのが精一杯だった。
二人の視界にあるのは夜の闇と、その中で小さく瞬いている星たちだけだ。
「……逃げたか」
低い声で継が言う。
「追わなくていいのかよ!?」
柊也は焦ったように声を荒げるが、継は首を横に振った。
「ああ、あの妖魔は鳥型で動きが速かった。今からじゃ追いつけないし、そもそもどこに行ったのかもわからない。優海さんをここに放っておくわけにもいかないしね」
「でも、逃がしたままにしたらもっと優海さんが危険だろ!」
柊也が優海の方に顔を向ける。
優海はまだ何が起こっていたのか、いまいち理解できていないようだった。胸の前で両手を組んで、不安そうにしているだけである。
おそらくだが、妖魔が近くにいたかもしれない、と認識したくらいだろう。
普通の人間には、妖魔の姿を見ることはおろか、声を聞くこともできないのだ。
継はまだ座り込んだままで、柊也の顔を見上げる。
「それは大丈夫。僕も少しやられたけど、向こうにも怪我を負わせたはずだから。しばらくは怪我を癒すためにどこかに潜伏すると思うよ」
「それじゃ何の解決にもなってねーじゃねーか!」
柊也の言う通りではあったが、継は薄く笑みを浮かべ、言った。
「だから大丈夫だって。とにかく、これからしばらくは優海さんの警護をするよ」
0
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる