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知る真実
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月日が流れ、エイカの傷が完璧に治った頃。小屋の中では言い争いが起こっていた。
「エイカさんにはこっちの方がいいんです!」
「いいえ、こっちの方が動きやすいし、なにしろ見た目がいい!」
言い争っているのは、ケイとケンイチ。手に持っているのは女物の服。「新しい戦闘服が欲しい」と言ったエイカの言葉から今に至るのだ。
その光景を見ていたエイカとチヨが同時にため息をついた。
「エイカ姉、あれ止めてよ」
「...無理だな。それに私はどっちの戦闘服も好かん」
「「えっ...!」」
エイカの言葉にケイとケンイチの視線がこちらに向けられた。驚きのあまり、口をぱくぱくと動かしている。エイカは二人を気に止めることなく、言葉を続けた。
「ケイのはたしかに動きやすい服のようだが、露出が多すぎる」
「...」
エイカの言葉にケイは小屋の片隅に移動し、しゃがみ込み指を壁に押し付け、グリグリと回し始めた。明らかに拗ねているようにしか見えない。
それでもエイカは気にも止めず言葉を続けた。
「まあ、それならまだ服だとわかる。だがケンイチのはまず服なのかもわからん。あんなもの着るわけなかろう」
ハッとケイが少し嬉しそうにエイカを振り返るのと同時に、ケンイチが小屋を出て行った。
「あっ、おい!ケンイチ!」
追いかけようとするエイカの腕をチヨが掴んだ。小さく首を振るチヨの頭にエイカが手を置いた。
「チヨはまだケンイチが怖いか?」
「...怖く、ない...」
少し震えているチヨの手がエイカの腕ではなく、腰あたりに移動しギュッと抱きついた。
ー 強がりなのは、ケイと一緒か...
クスッと少し笑いエイカはチヨを抱きしめた返した。そっと髪を撫でるエイカの手は優しく温かかった。
「チヨ、ケンイチを怖がる必要はない。もしケンイチがお前たちに手を上げるのなら、私は躊躇なくあいつを殺す。あいつも仲間だが、お前たちも私の大切な仲間だからな」
「それはダメっ!エイカ姉が人を殺すことなんて私は望んでない!」
「それがお前の心の声...。私はそれに従う、これでどうだ?」
「...うん」
チヨはそっとエイカから離れた。エイカはケイをチラッと見ると、少し寂しそうに笑いケンイチを追いかけるように走っていった。
「エイカさん...?」
何かが違う。ケイは不思議そうに首を傾げた。寂しそうに笑った顔が頭から離れない。わかっているようでわからないこと。
「お兄ちゃん...。おかしいよ、エイカ姉」
「...え?」
「だってエイカ姉...剣、持ってた」
「剣?!」
ハッと扉の近くの壁を見ると、かけてあったはずの剣が消えていた。そこでやっと繋がった。最近のエイカの様子、さっきの寂しげなエイカの表情。すべてがわかってしまった。
「チヨ、森から出て街に行って。しばらくしたら俺もそっちに行くから、ね?」
チヨはケイの真剣な眼差しにしっかりと頷いた。チヨが出ていくとケイは奥の自分の部屋に行き、扉に手をかけ意を決するように開けた。
エイカは走り続け、ある場所で動きを止めた。目の前には大きな一本の木がある。その木に触れるとエイカは後ろをゆっくりと振り返った。そこにはフードを深くかぶった男が立っていた。
「来るかと思っていたが、まさか雷の一族だったとはな」
右腕の手首に雷の一族である印、イナズマが記されていた。
男は口元に不気味な笑みを浮かべ、一歩ずつ近づいてくる。エイカは腰に下げた剣を滑らかな動きで抜き、一歩踏み出すと同時に男の前に現れ、剣を突きつけた。
「ケイを連れ帰るつもりか?」
今までに見たことがないほどの冷たく威圧感を放つ瞳に男は一歩退いた。
「あいつは連れて行かせない。ここにはもう、あいつのあるべき場所があるんだ」
「...ここは聖の領域に近い」
「聖の領域?」
声を変えていることがハッキリとわかる。くぐもった声がより一層恐ろしさを募らせる。
エイカは男から少し離れ、剣を鞘に収めた。
「あの人が居続けた場所は緑に満ち溢れ、滅びることがない。あの人がいる限り、この森が枯れることは無い。それが聖の領域である証拠」
「ケイは何者なんだ」
「...神から授かった逸材と呼ばれるほどの強者。完璧な判断(パーフェクトジャッジメント)を使いこなせる唯一の存在」
「それが...ケイなのか...」
エイカの予想を超えた存在。神に愛された存在。エイカの知らないケイの過去がゆっくりとわかり始めてきた。
「エイカさんにはこっちの方がいいんです!」
「いいえ、こっちの方が動きやすいし、なにしろ見た目がいい!」
言い争っているのは、ケイとケンイチ。手に持っているのは女物の服。「新しい戦闘服が欲しい」と言ったエイカの言葉から今に至るのだ。
その光景を見ていたエイカとチヨが同時にため息をついた。
「エイカ姉、あれ止めてよ」
「...無理だな。それに私はどっちの戦闘服も好かん」
「「えっ...!」」
エイカの言葉にケイとケンイチの視線がこちらに向けられた。驚きのあまり、口をぱくぱくと動かしている。エイカは二人を気に止めることなく、言葉を続けた。
「ケイのはたしかに動きやすい服のようだが、露出が多すぎる」
「...」
エイカの言葉にケイは小屋の片隅に移動し、しゃがみ込み指を壁に押し付け、グリグリと回し始めた。明らかに拗ねているようにしか見えない。
それでもエイカは気にも止めず言葉を続けた。
「まあ、それならまだ服だとわかる。だがケンイチのはまず服なのかもわからん。あんなもの着るわけなかろう」
ハッとケイが少し嬉しそうにエイカを振り返るのと同時に、ケンイチが小屋を出て行った。
「あっ、おい!ケンイチ!」
追いかけようとするエイカの腕をチヨが掴んだ。小さく首を振るチヨの頭にエイカが手を置いた。
「チヨはまだケンイチが怖いか?」
「...怖く、ない...」
少し震えているチヨの手がエイカの腕ではなく、腰あたりに移動しギュッと抱きついた。
ー 強がりなのは、ケイと一緒か...
クスッと少し笑いエイカはチヨを抱きしめた返した。そっと髪を撫でるエイカの手は優しく温かかった。
「チヨ、ケンイチを怖がる必要はない。もしケンイチがお前たちに手を上げるのなら、私は躊躇なくあいつを殺す。あいつも仲間だが、お前たちも私の大切な仲間だからな」
「それはダメっ!エイカ姉が人を殺すことなんて私は望んでない!」
「それがお前の心の声...。私はそれに従う、これでどうだ?」
「...うん」
チヨはそっとエイカから離れた。エイカはケイをチラッと見ると、少し寂しそうに笑いケンイチを追いかけるように走っていった。
「エイカさん...?」
何かが違う。ケイは不思議そうに首を傾げた。寂しそうに笑った顔が頭から離れない。わかっているようでわからないこと。
「お兄ちゃん...。おかしいよ、エイカ姉」
「...え?」
「だってエイカ姉...剣、持ってた」
「剣?!」
ハッと扉の近くの壁を見ると、かけてあったはずの剣が消えていた。そこでやっと繋がった。最近のエイカの様子、さっきの寂しげなエイカの表情。すべてがわかってしまった。
「チヨ、森から出て街に行って。しばらくしたら俺もそっちに行くから、ね?」
チヨはケイの真剣な眼差しにしっかりと頷いた。チヨが出ていくとケイは奥の自分の部屋に行き、扉に手をかけ意を決するように開けた。
エイカは走り続け、ある場所で動きを止めた。目の前には大きな一本の木がある。その木に触れるとエイカは後ろをゆっくりと振り返った。そこにはフードを深くかぶった男が立っていた。
「来るかと思っていたが、まさか雷の一族だったとはな」
右腕の手首に雷の一族である印、イナズマが記されていた。
男は口元に不気味な笑みを浮かべ、一歩ずつ近づいてくる。エイカは腰に下げた剣を滑らかな動きで抜き、一歩踏み出すと同時に男の前に現れ、剣を突きつけた。
「ケイを連れ帰るつもりか?」
今までに見たことがないほどの冷たく威圧感を放つ瞳に男は一歩退いた。
「あいつは連れて行かせない。ここにはもう、あいつのあるべき場所があるんだ」
「...ここは聖の領域に近い」
「聖の領域?」
声を変えていることがハッキリとわかる。くぐもった声がより一層恐ろしさを募らせる。
エイカは男から少し離れ、剣を鞘に収めた。
「あの人が居続けた場所は緑に満ち溢れ、滅びることがない。あの人がいる限り、この森が枯れることは無い。それが聖の領域である証拠」
「ケイは何者なんだ」
「...神から授かった逸材と呼ばれるほどの強者。完璧な判断(パーフェクトジャッジメント)を使いこなせる唯一の存在」
「それが...ケイなのか...」
エイカの予想を超えた存在。神に愛された存在。エイカの知らないケイの過去がゆっくりとわかり始めてきた。
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