徳島第一高校ゼンタイ部

まとらまじゅつ

文字の大きさ
2 / 13

ACT.1

しおりを挟む
桜が散っていた。潮見高校の校門には「入学式」の看板が掲げられ、黒いスカートの裾とタイツに包まれた脚が列をなしていた。まるで無数の脚だけが、校門から溢れていくように見える。

 佐々波いつきは、その流れに混じっていた。

 脚には、母が買ってくれた新品のネイビーの80デニールタイツ。若干きつく、太ももの裏が軽く締め付けられている感じが心地よくもあり、落ち着かなくもあった。

「おっ、新入生か?いい脚してんじゃん!」

 唐突に、声をかけられた。

 見ると、ツインテールの先輩が校門の脇に立ち、黒光りする全身タイツ姿でポーズを取っていた。顔まで覆われていて、表情すら読めない。それなのに、どこか挑発的で、どこか誇り高い雰囲気をまとっていた。

「へ?」

「そのタイツ、センスあり。80デニールで色選びに冒険する子、今年は少ないのよ。名乗りなよ、新入生。」

「さ、佐々波……いつき、です。」

「佐々波。いい名ね。記憶した。ゼンタイ部、来なよ。放課後、講堂裏。」

 先輩は指先でVサインを作り、颯爽と校舎の影へ消えていった。
 残されたいつきは、まだ心臓の鼓動の収まりきらない胸を押さえながら、校門をくぐった。

 入学式は形式通りだった。
 校長の長い話、女子生徒代表による「新生活におけるタイツの心構え」スピーチ、生徒会長による「本校のタイツ美学」朗読。

 だが、クラスに戻ると様相は変わった。

「今年もゼンタイ部が暴れてたらしいよ。講堂前でマネキンになってたって。」

「マジで? 顔まで包むのはやりすぎっしょ……あたし30デニールすら暑いのに……」

「タイツ芸術っていうか、もう宗教じゃね?」

「でもさ……なんか、かっこよくない?全身で“被る”って。」

 ざわめく声の中、いつきは目を閉じた。思い出すのは、あの黒い先輩の全身タイツ姿。言葉では言い表せない美しさと異様さ。そのバランスが、妙に心に焼き付いていた。

 放課後、部活紹介が体育館で行われた。バレーボール部がトスを披露し、演劇部が即興芝居をし、茶道部が抹茶の香りを漂わせる中、舞台の照明が一度すべて落ちた。

 そして、舞台の中央に現れたのは——

 黒い人影五体。
 まるで生きた彫刻のように、全身タイツに包まれて無言で立つ。音楽も効果音もなく、沈黙だけが支配した。
 一人が静かにポーズを取ると、他の四人が続く。右手を上げ、背中を反らし、脚を交差しながら回転する。

 その動きは、バレエのようであり、儀式のようでもあった。

 ざわ……と体育館中に戦慄が走る。空気が濃くなる。呼吸音すら遠くなるような時間。

「ゼンタイ部、です」

 と、静かに声がした。

 舞台袖から、妊娠中の女性教師が現れた。腹部が大きく膨らんでおり、それを優しく支える手が印象的だった。彼女もまた、艶のあるグレーのマタニティタイツを穿いていた。

「顧問の…堂ノ内優子です。部員の演舞、ありがとうございました。ゼンタイ部は、“自分の内面を被ることで、真の自己を知る”部活です。顔を、心を、脚を覆って、なお美しく。興味がある方は——講堂裏へ」

 ひとつ、腰をかがめて礼をすると、舞台照明が切れ、沈黙が戻った。
 まるで何もなかったように、次の部活紹介が始まる。

 講堂裏、いつきは立っていた。
 脚が震えていた。緊張か、興奮か、恐怖か。自分でも分からない。

 だが、足元を覆うタイツが、その感情すべてを包み込んでくれている気がした。

「ようこそ、ゼンタイ部へ」

 あの全身黒タイツの先輩が、そこにいた。
 その背後には、妊婦の堂ノ内先生が、穏やかな表情で立っていた。

「ようこそ、佐々波さん。あなたの脚と、心と、未来を歓迎します。」

 ——そして、ゼンタイの扉が、静かに開かれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...