文字の大きさ
大
中
小
154 / 231
5章 イズナバール迷宮編
218話 交渉
「ですから、迷宮産の素材は当ギルドで買取が原則なのです!!」
「加工品はその限りでは無いと、確認済みですが?」
テーブルを挟んで、身振り手振り感情を込めて訴える男と綺麗な姿勢で無感情に言い放つ男が言葉を交わす。
ここは探索者ギルドの応接室、40層突破の報告にギルドの門を叩いた一同は、地上で報告を待っていた待機組の歓声と、他コミュニティの厳しい視線に晒されながら受付を済ませた。
「まあ! 遂に40層突破なのですね、本当におめでとうございます!!」
イヌ耳の営業スマイルに頬が緩みかけるジンとゲンマをよそに、ルフト達は淡々と、掲示板から達成可能な素材採集依頼の木札や羊皮紙を剥ぎ取ってゆく。
受付テーブルの前に並べられた達成依頼の多さは、ラフィニアが奥にいた職員を手伝いに駆り出すほどであったが、ゲンマの一言で周りが凍りつく。
「ふ~ん、スパイダーシルクの依頼は無いんだな」
その言葉に営業スマイルのまま表情が凍りつくラフィニア、そして誰かに首根っこを掴まれこの場から姿を消すゲンマ、そしてギルドの外から聞こえてくる悲鳴。
ジンとルフトはラフィニア達ギルド職員によって、引きずられるように探索者ギルドの特別応接室に連れてこられ、現在ギルド長の必死の説得に遭っている。
「よろしいですかお二方、何度も言うようですがギルドと探索者は相互扶助、相互依存の関係と言ってもよいのです、どちらか一方だけがその恩恵に預かるのは今後の関係に不和をもたらします!」
「仰る事は一々ご尤もなのですが、命を質草にして手に入れた貴重な素材を二足三文で寄越せというのは、ギルド長の今の言葉に反するのでは?」
「ですから、これから私どもの方から各業者に連絡を取って──」
「ところで、ヘヴィ・トータスの甲羅の件はどうなりました?」
「うっ……」
目を閉じ、出されたお茶の香りを楽しみながらジンは、澄まし顔で目の前の男──探索者ギルドの長、マルケス──に向かって言葉の冷水を浴びせる。
ヘヴィ・トータスの甲羅──先日、ギルド側にコレを扱える業者・職人からの依頼は出ないかと打診した所、現在コイツを加工出来る工房はいくつかあるが、加工にかかる手間賃や時間を考えると、非常に高価なものになる商品を外の業者に卸せる商人が2人しかおらず、現在足元を見られているという。
その為、ジンが希望する最低金額と商人の間で板挟み状態のギルドは大変困っていた。
ジンはその件を引き合いに出し、ギルド側に対し一切譲歩しない。
「先にお願いしている案件については文字通りお茶を濁し、こちらがイヤだと言っているスパイダーシルクは寄越せと、ギルド長の掲げる相互扶助の精神とは、もしかして俺達の考えている物とは全く違うのでしょうか?」
「それは、その……」
小太りの、見るからに中間管理職といった風体のマルケスは、迷宮踏破のスピード著しい昨今、日々持ち込まれる高価な素材の買い取り、業者への口利き、商人達との折衝と、表に出ない所で目まぐるしく立ち回る苦労人である。
ジンは二束三文と言うが、高価、貴重というだけで幾らでも買い手が付くのは、大都市圏や国家の管理の行き届いた一部に限った事で、ほぼ民間企業扱いのリトルフィンガーの探索者ギルドに、それらと同等の対応を求めるのが無茶という物だ。
ただし、そんな事はジン達には関係の無い話で、今までは上層の魔物の素材しか獲って来なかった探索者たちに愚痴の1つもこぼしていた連中が、望み通りに高価な素材を持ち込んだら今度はとても対処出来ません、話が通らない。
その辺をチクチクと突っつくジンだった。
「なんでしたら、そちらの職員で欲しい素材を採りに行くツアーでも企画しますか? 今なら40層まで引率が可能ですよ」
「………………………………」
「ジン、あまり虐めてやるな。ギルド長も立場というものがある」
ジンの嫌味をルフトがたしなめると、マルケスは嬉しそうに表情を輝かせ、ルフトに顔を向ける。
1対2の不利な戦いだと思っていたが、向こうはどうやら1枚岩では無いらしい、しかも中立の立場にいるのはこの町きっての最古参コミュニティの代表で、ゴネているのは新進気鋭とはいえ、この町に来てまだ半年にも満たない単一パーティ、付け込むスキはいくらでもある。
……などと思えるほどに楽な相手ではなく、彼はその最古参コミュニティと肩を並べて40層を攻略できるほどの猛者を仲間に持っており、その力は共に戦った連中が太鼓判を押すほどだ。
その分他のコミュニティと軋轢を生みかけているらしいが、決して粗略に扱っていい相手とも言えない。
何より、とかく粗暴な連中が多い探索者・冒険者の中において、ジン達は常日頃から一定の礼節をもってギルドとも接している、いわゆる優良物件なのだから。
「ジン君、もちろん君の言い分はもっともだ。ただ判って欲しいのは、こういった取引においては常々、需要と供給のバランスというものが発生する訳で、優先度が高いものはそれだけ話に飛びつく連中も多いのだよ。そして逆もまた然り」
「……つまり、ヘヴィ・トータスの甲羅を扱いたがる業者はいない、と?」
「いない訳ではない。キミだけには内情を打ち明けるが、今、あの素材から盾なり鎧なりを作ったとして、それが出来上がる頃に都合よく仕入れ話に乗ってくれそうな商人、それに渡りを付けられそうな取引先は2つしかなくてね、そこが共謀してこちらの足元を見ているって現状なのだよ」
マルケスはジンの説得を諦め、相手の矛先を自分以外に向けることで、あくまで自分は味方であると思わせるように話の内容をスライドさせる。
しかして、ジンはその話に乗ってきてくれた。
「なるほど、確かに商人は慈善事業ではありませんから、安く買い叩ける機会は最大限利用したいところですねえ……」
「そこなんだ、彼等も商談をふいにするつもりは無いだろうが、だからといってこちらの希望をホイホイと聞いてくれるほどにお人好しでもない」
ジンの瞳に少しだけ攻撃的なものを感じたマルケスは、ここぞとばかりにジンの意見に追従すると、自分はあくまで探索者側の人間だとアピールしてくる。
そして、そんなマルケスの態度にほだされたか、ジンは
「そういえばマルケスさん、ギルドを通さず素材を売買、町外への持ち出しは規約によって厳重に罰せられると書いてありましたが、素材を加工したものはその限りでは無いんですよね。では、こちらが職人達に直接加工依頼を出すのは?」
「そうですね……規約に書かれていませんな。面倒な金額交渉などをしたがる探索者はそうは居ませんから、かりにあっても年に数件程度、お目溢しの範囲と言えますかな」
ジンの言わんとしている事が理解できたマルケスは、顎に手を当てながらあさっての方向を向いて空々しく話し出す。
これでようやく交渉が出来ると踏んだジンは、
「ギルド長、先程の話しぶりからすれば、甲羅を加工できる職人についてはいくつか見当を付けているようですが、出来ればお教え頂けませんでしょうか? 交渉はコチラで済ませます、勿論ギルドとは無関係を貫きます」
「しかしですなぁ、言わんとする事は判りますが彼等にも生活という物があります。今回の一件で商人から目を付けられると今後の生活に支障がきたしますので……」
「もしご了承頂けるのでしたら、スパイダーシルクの安定的な供給の方法をお教えいたしますが?」
ガバッ──!!
「ジン君……今、何と?」
何らかの条件が提示されるかと思っていたが、まさか、スパイダーシルクの買取をごねた後の交渉材料がそれだとは、流石のギルド長も意表を突かれた。
「言葉の通りですよ、苦労して手に入れたスパイダーシルクを手放すのは嫌ですが、別の誰かがそれを手に入れる事を邪魔するほど野暮ではありませんので」
そう言いながらジンは、懐から小さな壺を取り出す。
「これは?」
「糸の粘着成分だけを分解する剥離液です」
スパイダーシルクは通常、氷水にさらして粘着成分を半固形化、それを熱湯にくぐらせて糸本体から徐々に分離させる。そうする事でまず糸の部分だけが取り出される。
それを、糸を痛めないよう日を置いて何度もしなければいけないのだが、ジンの取り出した剥離液は、ぬるま湯に溶かして中でほぐすだけで粘着成分を除去する事が可能だという。また、直接かけるだけでもすぐに効果が現れるので、戦闘中に糸に囚われるような事があっても脱出が可能との事。
さらに、比較的低~中レベルの探索者でも入手が可能なように、上層で出現するジャイアントスパイダーからの糸の入手方法も教えた。
……ジンの行った、ルディを囮に使っての採集方法には、マルケス・ルフトの両者に引かれたが。
「その2つの取引先とやらがもし職人側に圧力をかけるのでしたら、スパイダーシルクの取引相手から除外すると言えばいい。どうです?」
「その様な薬、聞いた事もありませんが?」
「ええ、コレはある知り合いに「古代迷宮に潜る仕事が来た」と行った際に、きっと必要になるといって渡してもらった薬なんですが、まあその知り合いってのが、錬金術ギルドに未加入なまま色々な新薬を作っていましてね」
市販の物では無いから、ここで乗らないのであれば話はここまで、と言外に示され、マルケスは頭の中で算盤を弾き、結果、ジンの話に乗ることにした。
「いいでしょう、ジン君の提案はこちらで進めておきましょう。ほかに何かありますか?」
「そうですね……この薬、結構大量に貰ってはいるんですが、如何せん数に限りがあります。この薬をオレが提供するのはコミュニティ「異種混合」のメンバーに限定させていただきます。勿論、これを使いたいという加工業者には、ギルド長から紹介を頂ければ格安でお譲りしますよ」
「いやはや、ジン君は商人の方が合っているのではないかね? ともあれ、キミの提案はとても魅力的だ、こちらもすぐに動くのでルフト殿、できればコミュニティのメンバーには他言無用という事で話を付けておいてくれないか?」
「コチラには利益しかない話だからな、喜んで応じよう」
談合、と言えば聞こえは悪いが、関係者の誰も不幸にならない取引を成立させ、ジンとマルケスは年の差を感じさせないほど手を握りながら笑いあい、ルフトは2人の手の上に手の平を重ね、3者間の蜜月を祝う。
その後マルケスは職員を呼び出し色々と事務手続きに入ったので、ジンとルフトはギルドを後にし、40層攻略の祝賀会が開かれている異種混合の本部に向かい、肩を並べて歩く。
「これでジンには借りばかり作っているな」
「なに、こちらも慈善事業のつもりは無いので気にする必要はありませんよ」
「と言うと?」
「利益は先にそちらに渡しました。その分の対価を後で回収させて頂くつもりですから」
そう言って肩をすくめるジンの顔は、少しだけ意地悪ではあったが嫌らしい感じはしなかった。だからルフトは気楽に、そのまま話を広げた。
「ふむ、対価とは仰々しいな、一体何を望んでいるのだ」
自分たちに差し出せる物であればいいのだが、とルフトがほぼ蜥蜴の頭部を振りながら冗談めかして聞いてくるので、ジンもサラリと言い放つ。
「大した物ではありませんよ。迷宮の最深層、50層を攻略した時に手に入る秘宝。もしも俺達が望む物であった場合は無条件でこちらに渡して頂きたい」
ルフトはシュッ──と息を飲み、目を限界まで開いてジンを見やる。
ジンはその視線を軽く受け止めながら言葉を続ける。
「その代わり、俺達は異種混合が最初に50層を攻略出来るよう、最大限協力をさせていただきますよ──どうしました?」
ジンの落とした爆弾は、しっかり10秒ほどルフトを硬直させる事に成功した。
「加工品はその限りでは無いと、確認済みですが?」
テーブルを挟んで、身振り手振り感情を込めて訴える男と綺麗な姿勢で無感情に言い放つ男が言葉を交わす。
ここは探索者ギルドの応接室、40層突破の報告にギルドの門を叩いた一同は、地上で報告を待っていた待機組の歓声と、他コミュニティの厳しい視線に晒されながら受付を済ませた。
「まあ! 遂に40層突破なのですね、本当におめでとうございます!!」
イヌ耳の営業スマイルに頬が緩みかけるジンとゲンマをよそに、ルフト達は淡々と、掲示板から達成可能な素材採集依頼の木札や羊皮紙を剥ぎ取ってゆく。
受付テーブルの前に並べられた達成依頼の多さは、ラフィニアが奥にいた職員を手伝いに駆り出すほどであったが、ゲンマの一言で周りが凍りつく。
「ふ~ん、スパイダーシルクの依頼は無いんだな」
その言葉に営業スマイルのまま表情が凍りつくラフィニア、そして誰かに首根っこを掴まれこの場から姿を消すゲンマ、そしてギルドの外から聞こえてくる悲鳴。
ジンとルフトはラフィニア達ギルド職員によって、引きずられるように探索者ギルドの特別応接室に連れてこられ、現在ギルド長の必死の説得に遭っている。
「よろしいですかお二方、何度も言うようですがギルドと探索者は相互扶助、相互依存の関係と言ってもよいのです、どちらか一方だけがその恩恵に預かるのは今後の関係に不和をもたらします!」
「仰る事は一々ご尤もなのですが、命を質草にして手に入れた貴重な素材を二足三文で寄越せというのは、ギルド長の今の言葉に反するのでは?」
「ですから、これから私どもの方から各業者に連絡を取って──」
「ところで、ヘヴィ・トータスの甲羅の件はどうなりました?」
「うっ……」
目を閉じ、出されたお茶の香りを楽しみながらジンは、澄まし顔で目の前の男──探索者ギルドの長、マルケス──に向かって言葉の冷水を浴びせる。
ヘヴィ・トータスの甲羅──先日、ギルド側にコレを扱える業者・職人からの依頼は出ないかと打診した所、現在コイツを加工出来る工房はいくつかあるが、加工にかかる手間賃や時間を考えると、非常に高価なものになる商品を外の業者に卸せる商人が2人しかおらず、現在足元を見られているという。
その為、ジンが希望する最低金額と商人の間で板挟み状態のギルドは大変困っていた。
ジンはその件を引き合いに出し、ギルド側に対し一切譲歩しない。
「先にお願いしている案件については文字通りお茶を濁し、こちらがイヤだと言っているスパイダーシルクは寄越せと、ギルド長の掲げる相互扶助の精神とは、もしかして俺達の考えている物とは全く違うのでしょうか?」
「それは、その……」
小太りの、見るからに中間管理職といった風体のマルケスは、迷宮踏破のスピード著しい昨今、日々持ち込まれる高価な素材の買い取り、業者への口利き、商人達との折衝と、表に出ない所で目まぐるしく立ち回る苦労人である。
ジンは二束三文と言うが、高価、貴重というだけで幾らでも買い手が付くのは、大都市圏や国家の管理の行き届いた一部に限った事で、ほぼ民間企業扱いのリトルフィンガーの探索者ギルドに、それらと同等の対応を求めるのが無茶という物だ。
ただし、そんな事はジン達には関係の無い話で、今までは上層の魔物の素材しか獲って来なかった探索者たちに愚痴の1つもこぼしていた連中が、望み通りに高価な素材を持ち込んだら今度はとても対処出来ません、話が通らない。
その辺をチクチクと突っつくジンだった。
「なんでしたら、そちらの職員で欲しい素材を採りに行くツアーでも企画しますか? 今なら40層まで引率が可能ですよ」
「………………………………」
「ジン、あまり虐めてやるな。ギルド長も立場というものがある」
ジンの嫌味をルフトがたしなめると、マルケスは嬉しそうに表情を輝かせ、ルフトに顔を向ける。
1対2の不利な戦いだと思っていたが、向こうはどうやら1枚岩では無いらしい、しかも中立の立場にいるのはこの町きっての最古参コミュニティの代表で、ゴネているのは新進気鋭とはいえ、この町に来てまだ半年にも満たない単一パーティ、付け込むスキはいくらでもある。
……などと思えるほどに楽な相手ではなく、彼はその最古参コミュニティと肩を並べて40層を攻略できるほどの猛者を仲間に持っており、その力は共に戦った連中が太鼓判を押すほどだ。
その分他のコミュニティと軋轢を生みかけているらしいが、決して粗略に扱っていい相手とも言えない。
何より、とかく粗暴な連中が多い探索者・冒険者の中において、ジン達は常日頃から一定の礼節をもってギルドとも接している、いわゆる優良物件なのだから。
「ジン君、もちろん君の言い分はもっともだ。ただ判って欲しいのは、こういった取引においては常々、需要と供給のバランスというものが発生する訳で、優先度が高いものはそれだけ話に飛びつく連中も多いのだよ。そして逆もまた然り」
「……つまり、ヘヴィ・トータスの甲羅を扱いたがる業者はいない、と?」
「いない訳ではない。キミだけには内情を打ち明けるが、今、あの素材から盾なり鎧なりを作ったとして、それが出来上がる頃に都合よく仕入れ話に乗ってくれそうな商人、それに渡りを付けられそうな取引先は2つしかなくてね、そこが共謀してこちらの足元を見ているって現状なのだよ」
マルケスはジンの説得を諦め、相手の矛先を自分以外に向けることで、あくまで自分は味方であると思わせるように話の内容をスライドさせる。
しかして、ジンはその話に乗ってきてくれた。
「なるほど、確かに商人は慈善事業ではありませんから、安く買い叩ける機会は最大限利用したいところですねえ……」
「そこなんだ、彼等も商談をふいにするつもりは無いだろうが、だからといってこちらの希望をホイホイと聞いてくれるほどにお人好しでもない」
ジンの瞳に少しだけ攻撃的なものを感じたマルケスは、ここぞとばかりにジンの意見に追従すると、自分はあくまで探索者側の人間だとアピールしてくる。
そして、そんなマルケスの態度にほだされたか、ジンは
「そういえばマルケスさん、ギルドを通さず素材を売買、町外への持ち出しは規約によって厳重に罰せられると書いてありましたが、素材を加工したものはその限りでは無いんですよね。では、こちらが職人達に直接加工依頼を出すのは?」
「そうですね……規約に書かれていませんな。面倒な金額交渉などをしたがる探索者はそうは居ませんから、かりにあっても年に数件程度、お目溢しの範囲と言えますかな」
ジンの言わんとしている事が理解できたマルケスは、顎に手を当てながらあさっての方向を向いて空々しく話し出す。
これでようやく交渉が出来ると踏んだジンは、
「ギルド長、先程の話しぶりからすれば、甲羅を加工できる職人についてはいくつか見当を付けているようですが、出来ればお教え頂けませんでしょうか? 交渉はコチラで済ませます、勿論ギルドとは無関係を貫きます」
「しかしですなぁ、言わんとする事は判りますが彼等にも生活という物があります。今回の一件で商人から目を付けられると今後の生活に支障がきたしますので……」
「もしご了承頂けるのでしたら、スパイダーシルクの安定的な供給の方法をお教えいたしますが?」
ガバッ──!!
「ジン君……今、何と?」
何らかの条件が提示されるかと思っていたが、まさか、スパイダーシルクの買取をごねた後の交渉材料がそれだとは、流石のギルド長も意表を突かれた。
「言葉の通りですよ、苦労して手に入れたスパイダーシルクを手放すのは嫌ですが、別の誰かがそれを手に入れる事を邪魔するほど野暮ではありませんので」
そう言いながらジンは、懐から小さな壺を取り出す。
「これは?」
「糸の粘着成分だけを分解する剥離液です」
スパイダーシルクは通常、氷水にさらして粘着成分を半固形化、それを熱湯にくぐらせて糸本体から徐々に分離させる。そうする事でまず糸の部分だけが取り出される。
それを、糸を痛めないよう日を置いて何度もしなければいけないのだが、ジンの取り出した剥離液は、ぬるま湯に溶かして中でほぐすだけで粘着成分を除去する事が可能だという。また、直接かけるだけでもすぐに効果が現れるので、戦闘中に糸に囚われるような事があっても脱出が可能との事。
さらに、比較的低~中レベルの探索者でも入手が可能なように、上層で出現するジャイアントスパイダーからの糸の入手方法も教えた。
……ジンの行った、ルディを囮に使っての採集方法には、マルケス・ルフトの両者に引かれたが。
「その2つの取引先とやらがもし職人側に圧力をかけるのでしたら、スパイダーシルクの取引相手から除外すると言えばいい。どうです?」
「その様な薬、聞いた事もありませんが?」
「ええ、コレはある知り合いに「古代迷宮に潜る仕事が来た」と行った際に、きっと必要になるといって渡してもらった薬なんですが、まあその知り合いってのが、錬金術ギルドに未加入なまま色々な新薬を作っていましてね」
市販の物では無いから、ここで乗らないのであれば話はここまで、と言外に示され、マルケスは頭の中で算盤を弾き、結果、ジンの話に乗ることにした。
「いいでしょう、ジン君の提案はこちらで進めておきましょう。ほかに何かありますか?」
「そうですね……この薬、結構大量に貰ってはいるんですが、如何せん数に限りがあります。この薬をオレが提供するのはコミュニティ「異種混合」のメンバーに限定させていただきます。勿論、これを使いたいという加工業者には、ギルド長から紹介を頂ければ格安でお譲りしますよ」
「いやはや、ジン君は商人の方が合っているのではないかね? ともあれ、キミの提案はとても魅力的だ、こちらもすぐに動くのでルフト殿、できればコミュニティのメンバーには他言無用という事で話を付けておいてくれないか?」
「コチラには利益しかない話だからな、喜んで応じよう」
談合、と言えば聞こえは悪いが、関係者の誰も不幸にならない取引を成立させ、ジンとマルケスは年の差を感じさせないほど手を握りながら笑いあい、ルフトは2人の手の上に手の平を重ね、3者間の蜜月を祝う。
その後マルケスは職員を呼び出し色々と事務手続きに入ったので、ジンとルフトはギルドを後にし、40層攻略の祝賀会が開かれている異種混合の本部に向かい、肩を並べて歩く。
「これでジンには借りばかり作っているな」
「なに、こちらも慈善事業のつもりは無いので気にする必要はありませんよ」
「と言うと?」
「利益は先にそちらに渡しました。その分の対価を後で回収させて頂くつもりですから」
そう言って肩をすくめるジンの顔は、少しだけ意地悪ではあったが嫌らしい感じはしなかった。だからルフトは気楽に、そのまま話を広げた。
「ふむ、対価とは仰々しいな、一体何を望んでいるのだ」
自分たちに差し出せる物であればいいのだが、とルフトがほぼ蜥蜴の頭部を振りながら冗談めかして聞いてくるので、ジンもサラリと言い放つ。
「大した物ではありませんよ。迷宮の最深層、50層を攻略した時に手に入る秘宝。もしも俺達が望む物であった場合は無条件でこちらに渡して頂きたい」
ルフトはシュッ──と息を飲み、目を限界まで開いてジンを見やる。
ジンはその視線を軽く受け止めながら言葉を続ける。
「その代わり、俺達は異種混合が最初に50層を攻略出来るよう、最大限協力をさせていただきますよ──どうしました?」
ジンの落とした爆弾は、しっかり10秒ほどルフトを硬直させる事に成功した。
感想 497
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【老化返却】聖女の若さは俺の寿命だった〜回復魔法の代償を肩代わりしていた俺を追放した報いだ。回復のたびに毛が抜け、骨がスカスカになるが良い〜
「寿命を削って回復してやってたのに……感謝すらしないんだな」
聖女パーティの荷物持ち兼回復術師だった俺は、ある日突然パーティを追放された。
理由は「回復魔法のコストが寿命で、もうすぐ死ぬ無能はいらない」という勝手な思い込み。
だが、彼らは知らなかった。
俺の正体が、この世界の生命を司る世界樹の根源そのものだったことを。
俺の寿命は無限であり、俺がパーティにいたからこそ、彼らは「若さ」と「健康」を維持できていたのだ。
「俺がいなくなったら、誰が君たちの老化を止めるの?」
俺がいなくなった途端、聖女たちの身体に異変が起きる。
回復魔法を唱えるたびに、自慢の金髪はバサバサと抜け落ち、肌は土色に。
若さに溺れていた彼女たちは、骨がスカスカになり、杖なしでは歩けない老婆のような姿へと変わり果てていく。
一方、解放された俺は隣国の美少女皇女に拾われ、世界樹の力で枯れた大地を森に変える「現人神」として崇められていた。
「今さら戻ってきて? ……悪いけど、そのハゲ散らかした老婆、誰だっけ?」
すべてを失ってから「俺」の価値に気づいても、もう遅い。
これは、恩を仇で返した連中が、自らの美容と健康を代償に破滅していく物語。
クラス全員で異世界召喚されたが、俺だけ教室に取り残されたのでとりあえず帰宅した
クラス全員で異世界召喚されたが、先生と俺が残っていた。
魔法もチートスキルもステータス画面すら表示されない、ただの「残され損」
異世界に行けなかった俺を待っていたのは、世知辛い現実だった。
AI使用状況
GoogleのGeminiさん使ってます〜
誤字脱字チェックと調べ物お願いしてます
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~
シンゴはある日、事故で死んだ。
どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。
転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。
弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。