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第54話 地獄の帝王 ツノ
しおりを挟む後ろから、貫かれた。
腹部から熱いお湯が流れ出してくる。見ると、俺の手は真っ赤に染まっていた。
俺の血だ。なんで血が出てんだ、どうして腹から刀が伸びてんだ。後は仙道が見てくれてるはずだろ。どうして、なんで
仙道、なにしてんだよお前
「せ、仙道・・・?」
「ごめん、服部くん。こうするしか無かったんだ」
どんっ!と、背中を蹴り飛ばされる。その衝撃で俺の体は前に飛んだ
「ぐふっ!」
俺の口から、血が出る。倒れたままギザな男を見ると、刀をこちらに構えていた。やばい、あの時のあれだ・・・逃げなきゃ・・・逃げなきゃ
「熟業『気炎万丈』」
巨大な火の玉が、圧倒的な火力をもって迫る。ジリジリと迫る、生命を奪う熱量が近づいてくる。嘘だろ、助けてくれよ仙道・・・
ゴォ!
「がぁぁぁ・・・ぁぁあ!」
熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!誰か、たす・・・けて・・・
俺の視界が、真っ赤な炎によって埋め尽くされる。そして、だんだんと、真っ暗になってゆく。
あぁ、おれ死ぬんだ。
・・・
「っ!! はぁ!はぁ!はぁ!」
飛び起きると、そこは薄暗い空間だった。どこか見覚えがある。そうだ、はじめて天界に来た時もこんな感じだったような・・・
「はぁ・・・はぁ・・・」
腹部を見てみる。傷はない、夢だったのか?ここはどこなんだ?
「大変な目にあったな」
「だ、誰だよ!」
背後から声が聞こえてきた。振り返ると、真っ黒な体に額から生えた角。まさしく魔王だなという風貌の男が立っている。
「大変な目にあったな」
「へ?」
「大変な目にあったな」
「あ、あの」
「大変な目にあったな」
「・・・はい」
「こっちへ来い」
「あ、あの!」
「こっちへ来い」
「・・・はい」
なんだこの無理やりな会話は。会話は言葉のキャッチボールじゃないのか、ただ一方的に投げつけるだけじゃ友達出来ないんだぞ!
どこだよここ、誰だよお前!
案内された場所には、こたつがあった。当然のごとく、ミカンも置いてある。魔王のような男がこたつに入ると、どうした、お前も入れと言わんばかりの目でこちらを見てくる。こ、怖いよ。そんなに睨まないでくれよ、入るからさぁ・・・
ごそっ・・・
「食べてもいいぞ」
「み、ミカンですか?」
「食べてもいいぞ」
「頂きます!」
震える手で、ミカンを剥く。誰だかわからんが、逆らうのは不味いだろう。怖いやつには逆らわない。これ、鉄則
「・・・」
味は最悪だった。天界で食べたミカンとは天と地の差がある。甘くないし、酸っぱい。・・・ま、不味い
「美味いか?」
「う、美味いです!」
「そうか、うまいか」
ちょびっと、嬉しそうな顔をする魔王的な男。よしよし、このまま怒らないでくれよ?
「あのー・・・ここはどこなんでしょうか」
「地獄だ」
「へ、へぇ・・・地獄ですか」
地獄。幼女ちゃんが言ってたな、天界と、現世。その下に地獄があると。ということは、おれはやっぱり死んだのか。死んで地獄に送られたのか。いやだなぁ、血の池地獄とか泳げないし無理だよぉ・・・
そう言えば、この人誰なんだ。見た感じ悪魔そのものだが
「あのー・・・あなたのお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「我が名はツノ」
「私はマクア、よろしく」
「っ!?」
い、いつの間に居たんだこのお姉さん・・・ 黙って背後に立つなよ!背負い投げしちまったらどうすんだよ
「マクアよ、ミカンは美味しく出来ていたようだぞ」
「そうですか。やはり、現世の土を取ってきたのが正解でしたね。けれど・・・」
ひょいっと、俺の食べかけのミカンを口へ放り込む。
「・・・やはり、まだまだですね」
「なぬ。この男は美味い美味いと食べておったぞ?」
「ぼ、僕は好きですけどねぇ!この味!」
「ふむ、そうか。ならば遠慮なく食べるがいい」
「え、いいんですか?!いただきます!」
むきむきっ!パクパク!まずっ!
「マクアよ、どうだこの食べっぷりは。我の見込んだ通りだな」
「・・・わたしには無理して食べているようにしか見えませんが」
「無理なんかしてませんよ!美味しいですよ!」
不味い!吐きそう!どうしよ、なんで意地はったんだろ俺!
てかこの集まりなんなんだよ!
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