インビの箱

今曽カリン

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インビの箱 映画館編4

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彼女がお手洗いへ、というので彼も一端ロビーへ出る事にした。トイレで用を足し、手を洗う。手には彼女の液体が少し乾いてまとわりついていた。その液体が手にべっとりついた状況を思い出しながら、石鹸で丁寧に洗った。清潔が一番だ。ロビーに出て喫煙ブースを見つけた。加熱式タバコを取り出しながらブースへ入る。ブースには年配の男性が一人いた。加熱式タバコのスイッチを入れ、無言で吸う。先に居た男性はせわしなくスパスパと4~5回ふかすと、それが最後だったのだろう。備え付けの灰皿にゴシゴシこすりつけ、捨てて外へ出た。一人になってやっと、彼は深く息を吸い込んでゆっくり吐いた。



「ふううううううううう・・・・・。」



激しかった。彼女の反応が、である。感じる快感に集中し、全力でそれを楽しんでいた。こちらも我を忘れて楽しめた。座席で全身をくねらせる彼女の肢体を思い返し、本当に夢のような時間だった、と思った。



「お疲れ様です。」



仕事中にかけられるような挨拶が聞こえ、彼女がいきなりブースに入って来た。彼は驚いたが、



「あ、お疲れ様です。」



照れ笑いしながら返した。彼女も加熱式タバコと取り出し、セットする。加熱を待つ間に急に噴き出し笑い始めた。2人して変態的な行為を楽しんだ直後、仕事用の挨拶を交わしている不自然さに気づて、彼も笑った。自分の返事も他人行儀でぎこちなかった事を思い出し、余計に可笑しくなった。彼女は一口タバコを吸うと、



「変な趣味に付き合わせてすみません。」



と笑顔で話し始めた。彼はドキっとして周りを見渡したが、誰もいないようだった。



「さっきのお爺さんが最後のお客さんみたいです。今、私達だけですよ。」



彼女が可笑しそうに笑いをこらえながら話す。彼はその表情に見惚れていた。小悪魔的、とでもいうのだろうか。艶っぽくさえあるその笑顔は、整った目鼻立ちだけを見れば、純真な少女のようにも見える。しかし、その下にはとんでもなくエロい穴あきストッキングを履き、他人がいる小空間で淫猥な行為を楽しむ大人の女性が住んでいるのだった。



「とんでもない。お供させてもらって光栄ですよ。」



ニコニコ顔を心がけながら彼は答えた。



「私、宇佐美 沙織といいます。よろしくお願いします。」



「あ、私は朝森 忠信です。」



ぷっと沙織が吹き出し、忠信も釣られた。



「朝森さん、相談があるんですけど。」



「はい?どんな事でしょう?」



また、沙織は挑むような目で忠信を見た。



「私、今彼氏はいません。いらないんです。でも、エッチなパートナーが欲しいんです。ところが、これが難しいんですよね。」



ふんふん、と忠信は先を促した。



「さっきみたいなプレイを楽しもうと思ったら、男性は例外無く私をマゾだと思ってひどい事を言ってきたりするんですケド、それが冷めるんですよねえ。」



「ああ、なるほどね。言葉責めとかですかね。」



「そう、言葉責めのつもりなんだろうけど、『気持ちいいのか?ん?』とか、『ここはなんて言うんだ?口に出して言ってみろ』とか、『こうしてほしかったんだろ?この変態女』とかですかねえ。頭が悪いというかなんというか。」



「なるほど・・・・あははは!」



忠信は内心焦った。言葉責めはしたほうがいいのかと思っていた。結局、してないが、思い返すといつも声を出せない環境だったため、忠信は言葉を発しなかった。それがかえって良かったということか。無言で彼女の繊細な反応に集中していた姿勢が彼女の嗜好にあったのだろう。



「気持ちいいから止めたりせず遊んでるんだし、身体の部位の名前聞いてくるのとかもなんかバカバカしいというか。急に上から目線で命令口調とかも私、無理なんですよねえ。」



「まあ、わかっていることをわざわざ言うプレイ、なんでしょうね。マゾの方はそれで興奮する、とみんな思ってるんでしょうね。」



「あまりにも型どおりすぎません?みんなAVの見過ぎだと思います。目の前の相手の反応を見てわからないって。敏感な所ばかり強く責めてきたり、痛いって言っても『ん?気持ちいいだろ?』とか言って止めないから『気持ち良くない!痛いの!』て言って喧嘩になった事もあります。」



「あっははははは!」



「言葉責めの人にも、私『うるさい!』ってキレた事あります。」



「あははは!凄いですね!いや、その方がいいですよね。うん。相手にちゃんと伝えないとね。あはははは!」



「そうすると、なぜか皆『どうしていいかわからない』とか言い出すんですよね。私の様子や反応見ればわかることだと思うんだけど。虫のいい話ですけど私、一方的に痴漢されてるという状況で気持ちよくされたいだけなんですよね。」



「あ、それは私、わかりました。それに、私は一方的に責める事が楽しいようです。」



忠信が得意気にそう言うと、沙織の目がキラっと光った。



「そう、だから朝森さん、お互い都合のいいエッチパートナーになりません?セフレっていうのともちょっと違う。趣味が同じ者として。どうです?」



「いいですよ。というか、私にとっては物凄くありがたい話です。是非こちらからもお願いしたい。願ってもないチャンスです。けど、宇佐美さんこそ私なんかでいいんですか?私、年齢でいうと宇佐美さんの倍は行ってますよ?」



「え?そうなんですか?せいぜい10歳上ぐらいじゃないですか?」



「それはうれしいですね。でもダブルスコア超えです。間違いない。」



沙織はふーんと少し考えていたが、すぐ笑顔に戻った。まあ、そうだろうな、そんなに年齢が離れているとは思ってなかっただろうな、と忠信は思った。



「でも、年齢は関係無いですね。私達、相性がとてもいいようですし、こんなパートナー、なかなか見つからないですから。朝森さん、もっと自信持って下さい。朝森さんは清潔感あるし、穏やかで優しいって会社では評価されてるんですから。」



「えっ?そうなんですか?いやそれは・・・・。ありがたいことです。」



知らなかった。会社ではキモイおじさんとしか思われてないと思っていた。実際、キモイおじさんとしか判断されていない場合も多々あったから。しかし、沙織が楽しそうに言うのを聞いて心底ホっとした。



「それでは、エッチな趣味のパートナー、謹んでお受けいたします。この秘密は墓まで持っていきます。」



腕を前に回しうやうやしくお辞儀をした。沙織も真顔でスカートの両端をちょっとつまみ頭を傾け、膝を少し折って挨拶を返した。忠信の目にはそれは本物のお姫様に見えた。カジュアルな恰好をしてはいるが。



「ありがとうございます。よろしくお願いします。」



今、2人は健全な世界ではありえない約束を交わしたにも関わらず、とても雰囲気が明るかった。忠信は不思議に思った。もっと悲惨で陰惨な世界でしかこんな事は起こりえないと思っていたが、今自分は目の前の可愛らしい娘とエッチな契約をした。なんだか楽しくなってきた。生きる事が、である。若い女性を話すと元気が出るんだ、と以前友人から聞いたことがある。だからガールズバーへ通うんだと彼は言っていた。忠信はキャバクラもガールズバーも今ひとつ楽しめず、料金が高いこともあって足が遠のいてしまった。

それが今、こんな可愛らしいエッチなパートナーができた。こんな夢のような事があっていいのだろうか。忠信としては、パートナー解消を沙織に告げられるまで、黙々と付き合うしか他に思い浮かばなかった。



「そろそろ、戻りません?」



沙織に促され、忠信はハっとした。そうだった。まだ、プレイの真っ最中だった。



「そ、そうですね・・・・。」



緊張で自分の顔が赤くなるのがわかった。向うを向いている沙織の耳たぶも赤くなっていた。



今、館内は誰もいない。2人っきりだ。忠信は意気込んだ。

2人はイソイソとさっきの席へ戻った。丁度上映開始のブザーが鳴った。場内がゆっくり暗くなる。忠信の手の上に沙織がポンっと自分の手を置いた。忠信は手を上へ向けてお互いしっかり握り合った。お馴染みの上映前の注意事項、盗撮や無断アップロードの禁止、そして近日上映作品の予告があり、本編が始まる。忠信は沙織の右手をそっと引き、左腕を後ろへ回した。少し窮屈で肘あてが邪魔だが、後ろから胸を触った。沙織はブラをしていなかったので軽く驚いた。沙織の豊かな髪に顔を埋める。シャンプーとトリートメントの香を溺れるように吸った。脇の部分の、乳房の隆起の始まりから乳首の方まで、そーっと触った。乳首を軽くつまむ。リズムをつけると、そのリズムに合わせて「うっうっ」と小さな声が漏れる。暗闇に白く輝く沙織のうなじに口づけをした。軽く舌を出してすーっと線をひくように舐めた。「はあああああっ」と沙織が吐息を漏ら首をのけぞらせる。『かわいい!かわいい!たまらん!』忠信の心中はもう沙織に夢中になっていた。どこもかも味わいたかった。後ろから両方の胸をいじりながら、愉悦に浸った。





END
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