吸血鬼公爵の籠の鳥

江多之折(エタノール)

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11.だらしなく生きるには


固形物を食べられるようになったばかりだったのに、再びスープからの療養生活に逆戻りした事に腹を立てたルルの監視は厳しくなり
今まで以上に仕事に打ち込まねばならなくなったウォルターと、
領地を国に讓渡し、表向きは血筋も途絶えたとして小侯爵ではない平民と同等の存在になったレナードは相変わらず公爵家でゆったりとした時間を過ごしている。

最近は体力作りと称してララと夜の庭園を散歩するようになったレナードは、ウォルターに合わせて日が登る時間帯に眠るようにしている。

花の名前や庭園のコンセプトなどをララに聞きながらする散歩はとても楽しい。

「レナードさま、そろそろもどりましょう」
「えぇ。少し疲れてしまいました」
「つめたいお茶をのみますか?」
「いただきます。とても嬉しいです」

貴族らしい微笑みは、笑っているように見えて無表情だとウォルターから指摘され、ルルから「感情に素直なレナード様の表情がとても好みだと言っているんですよ」とすかさずフォローが入れられた。

もう貴族とも言えない立場だし、ならばとそれ以来レナードはなるべく感情を表に出そうとまずは気持ちを口に出す事から始めている。
「おかおをマッサージしてほぐすといいです」とララに助言を受けて頬を摘んだり伸ばしたり揉んだりと自己流でマッサージしているところをウォルターに目撃された時は少し恥ずかしかった。

「レナード様、もっと背中をクッションに沈めて」
「こうかな…」
「レナードさま、ふるーつも用意しました」
「ありがとう、ララちゃん」

"ララさん"は嫌だと頬を膨らませて抗議してきたララと相談して呼び方が変わったとか、ルルからはもっとリラックスしましょう。きちんと身体を休めることも回復には必要です。という事で『姿勢悪く座る』という指導を受けたりと
今まででは考えられなかった生活をしている。レナードは習慣により無意識で姿勢を正してしまうのだ。

「レニーを抱いてリラックスがしたい」
「主様は今日のノルマをこなす迄は接触禁止です。」

忙しなく動かすペンの音にレナードも心配になるが、ウォルターの疲労的には問題ないらしい。

ぶつくさ言いながらも仕事をする姿に、日々エスカレートするスキンシップの数々を思い出してほんのり顔が熱くなった。

風呂で寝てしまうのは危険だからと毎日一緒に風呂に入ることをウォルターに宣言され、
傷跡の事もあり必死に断ったが実は寝込んでいた一ヶ月もの間、レナードの体を拭いていたのはウォルターであると判明し、なし崩し的に風呂を共にする事になった。

髪を洗うばかりか身体を洗ったり、時にはマッサージまでウォルターが世話を焼くので自分でやると訴えるが「これは生き甲斐だ」とまたも押し切られて恥ずかしさのあまり失神しそうになりながらも日々甘やかされている。

(私は餌、ですよね…?)

王宮に行った日の帰り、間違いなく血を吸われた。それによりレナードの中でウォルター好みの見た目をしているが、やはり餌は餌であると納得した。

もしかしたら時折食べるデザートのような感覚かもしれない。死なない程度に時折血を吸って楽しむ、ような…
ならばそれに応えるよう、健康体でなければならない。

(半ば死んでもいいと思ってさ迷っていたところを身体を巡っていた毒によって死を逃れたに過ぎない。
ここまで大切に扱われているし、…子爵の結末は予定通りだが、その光景を見れた事も感謝せねば)

よし、と積極的に(しかし優雅に)フルーツを食べ始めたレナードに、
段々と思考が分かるようになってきたウォルターは据わった目でそれを眺め、深い溜息をついて仕事に戻ったがレナードがそれに気付く事はなかった。






「睡眠時間の確保、それを忘れないようにして下さい。」
「分かっている。もう下がれ」

以前がただ従順に主の命令を聞いていた双子もレナードが来てからここまで表情豊かになるとは。
特にレナードの体調管理に精を出している為、俺には手厳しくなったなとウォルターは頭を掻きながら寝室の扉を閉めた。

「このように見た目も味も、鳴き声まで全てが極上な鳥を、鳴かさずしてただ転がすなぞ勿体ない」

日々、健康を取り戻してどんどん美しくなる宝石の鳥。
先にベッドで横になって微睡んでいるレナードの隣に腰を下ろせば、期待しているように少し重そうな瞼から覗く群青色の瞳が揺らいだ。

手始めに寝着に手を掛け、ゆったりとした動作でボタンを外せば焦れるように手を添えられる。宥めるようにその手を握って指先を舐めれば湿った吐息が小さな口から漏れ出た。

「愛しい小鳥、その全てが俺の物だ。」

きちんと言葉にしなければ、この男には伝わらないだろう事は重々理解している。
否定され続けた十数年は呪いのようにレナードという存在を歪めてしまった。───その歪められた姿さえ、壮絶に美しいが。

牙で付けられた首筋にあるふたつの穴を舌でなぞる。びくびくと震えつつ恥じらって必死に抑えているにも関わらず漏れ出る高い声にうっそりと微笑み、
時折愛を囁きながらウォルターは手の中に居る宝石の鳥をじっくりと味わい堪能した。
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