添い遂げない。でも死ぬまで共に。

江多之折(エタノール)

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本編

11.国を背負う者

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性欲盛んな年頃に、餌を与えるとどうなるかと予想すべきだった。
…それは私にも該当するが。


「ランス、頼む。我慢できねぇ」


一度きりのつもりで繋がった関係が、続いてしまった。

ヴィルヘルムの添い寝がないと眠れなくなってしまった私に離れるという選択肢は無く
それに付け込まれていると理解しているのに、拒否が出来ない。身体も心も求め合い、言葉だけが許されない関係の中で快楽に啼き、悦ぶ。

───快楽とは、こんなに麻薬のようにしびれるものだったのか。

毎夜毎夜、発情期の獣のように私達は盛った。
ヴィルヘルムの体力が尽きる事はなく、性欲もまた尽きなかった。
休みなく行う毎日の公務の為にある程度で終了するが、私の昂りは発散されて力を失っても、ヴィルヘルムの昂りは衰え知らずだ。

「もう一回」
「ヴィル、少し、休みが欲しい…お前のは大きすぎる」
「…」
「あ、ヴィルッ」
「煽んな…!」

向き合って突かれると、私の腹がヴィルヘルムの形に膨らんでたまらなくなる。
もう何も出ないと逃げようとしても腰を掴まれ、引き戻されるついでに奥を突かれる。過ぎた快感が私に襲いかかり、視界が白くなった。

氷と呼ばれた自分の面影もなく、みっともなく涙でぐちゃぐちゃの顔を見られながら何度も奥を貫かれる。

「もう、無理だ、ヴィル、ヴィル」
「ランス、あいし」

駄目だと言っているのに、ヴィルヘルムは想いを口にしたがる。
急いでヴィルヘルムの首に腕を回して唇を重ねて塞いだら不服そうに尻の形が変わるくらい揉みしだかれた。

「…言わせろよ」
「駄目だ。二度とお前に顔を合わせられなくなる」

納得しないヴィルヘルムに、時々抱き潰されながらも私達は関係を続けてしまっていた。











「ご機嫌よう、王太子殿下」
「ご機嫌よう、セレーネ嬢」

ヴィルヘルムに散々打ち付けられた腰が痛むが、顔に出ない体質で良かったとこの時ばかりは思った。

にこりと微笑む女性を前に、紅茶にミルクを垂らしてスプーンでかき混ぜた。

「銀の匙で毒を確認されているのですね。生存本能が高くて素晴らしいですわ。」
「………立場上、必要な事だ」

政略結婚とはいえ、婚約者は婚約者だ。
ヴィルヘルムとの日々を思うと後ろめたい気持ちがない訳では無い。

「そうですわね。わたくし達は同じ志を持つ者同士、特に王城ここは敵の本拠地…とでも言いましょうか。警戒は必須ですわね」

紅茶に砂糖を落として銀製のスプーンで混ぜるセレーネ嬢に、いくら密室とはいえ不用意な発言はと苦言を呈そうとしたところで、意志の強そうな瞳が私に真っ直ぐに向けられた。

「現状、ランスロット王太子殿下以上に王の適性がある王子は居ませんもの。アレクシス殿下は幼いですし…
貴方様だけが、私を国母にすると確信しておりますわ」

優雅にカップを傾け、「あら。流石に良い茶葉を使ってらっしゃるのね」とお茶を楽しんでいるセレーネ嬢に毒気を抜かれたが、気を取り直して会話を続けた。

「セレーネ嬢…レヴァン侯爵家は、なぜ私側についたのか聞いても」
「なぜ?現状に不満を持てば、自ずと可能性のある方に傾くでしょう。顔が綺麗すぎて癪に障りますが、見慣れればなんてことはないでしょう。」

ここまでハッキリと顔が癪に障ると言われたことは初めてだ。
内心驚きつつ、続きを促す。

「あとは…弟の意志ですわね。あの子は一度言うと聞きませんもの」

現在はアレクシスの侍従として仕えつつ、使用人達を自分の陣営に引き込むのに奔走しているクリストファーの姿が思い浮かんだ。
私がすぐに考え込むのも気にせず、セレーネ嬢は「これは私個人の願望ですが」と続けた。

「先程も言いましたが、私は国母になりたいのです。王の妻でなく、国の母に。」
「国母…」
「えぇ。夫の付属品ではなく、未来の国王である王太子殿下よりも、大きな存在になる夢がありますの」
「……スケールの大きい、夢だな」

驚いて大した事を言えない私に、セレーネ嬢は上品ながらも愉快そうに笑い声をあげた。

「やはり、殿下が適しておりますわね。不敬だと切り捨てない貴方様が」
「セレーネ嬢からは、努力が見える。…それに、簡単に夢を否定するものではない」
「…えぇ。国の母となる為に、努力はして参りました。予想していたより良いパートナーになりそうで安心しましたわ 」

優雅に笑う彼女は、とても魅力的な人間だとこの短いやり取りだけでもわかる。
正妃を見て、第二妃を見て。私一人で背負わなければならないと思っていた王冠が、少し軽くなったように感じて
それは早計だと自分の心を戒めた。

そうしている間にセレーネ嬢はバサリと扇子が広げ、口元を隠した。それは貴族女性が自らの感情を悟られないようにとる仕草だ。 

「……ひとつ、御忠告が御座います。」
「構わない」
「私を正妃として迎えた後、私が選んだ妃達と更に婚姻を結んで頂きます。……それ以外の方と、子を作らぬようご注意下さいませ」
「…わかった」
「申し訳ありません。現国王陛下が、そう、移り気なものですので…念の為、ですわ。余計な血は見たくありませんもの」

自分の立場を考えれば、当たり前の事だ。私が受け継ぐ血は大きな争いを生み出す血にもなる。
────いずれ、アレクシスと血を流し合う未来が来ないことを、私は心から祈っている。

「正直なところ、それ以外は貴方様に関心もありませんのでご自由に。政略結婚ですもの、子を産む必要はありますが…そこまで心配もしておりませんわ。」
「それは、どういう…」
「顔合わせには十分な時間が経ちましたわね。それでは、この後も社交の予定が御座いますので」

矢継ぎ早に話す彼女のペースに追いつけず、予定があると言われれば引き止める訳にもいかないと立ち上がった。

「門まで送ろう」
「…結構ですわ。私の護衛が怯えてしまいますもの。
戦争の英雄とはいえ、もう少し感情をコントロール出来るようになるべきですわね。
また、お茶をしましょう。国の今後については話したい事だらけですから」

そう言ってさっさと部屋を出て行ったセレーネ嬢を見送り、ソファに座り直した。


「ヴィル 」


開いたままの扉から、ヴィルヘルムが不機嫌そうに入って来る。

「腰が痛い。」
「……悪かったよ」

当たり前のように隣にドサリと座ったヴィルヘルムに、ちゃんと扉を閉めたか確認してから寄りかかった。
 
「ヴィルはどこもかしこも硬いな」
「…セレーネ嬢は、どうだった」
「聡明で、意志の強い…素晴らしい女性だった。…色々と驚いた」

素直に感想を述べれば、寄りかかった身体が更に倒されてヴィルヘルムの硬い太腿に後頭部が当たった。
文句のひとつでも言おうと思ったが、泣きそうな顔の弟に悪態をつくなど出来るわけがない。

「…ヴィル」
「惚れたのかよ」
「どうだろう。在り方はとても、素晴らしいと思った」
「未来の妃に、相応しいか」
「…相応しいだろうな。誰よりも」

そんなに、泣きそうな顔をするな。
幼い頃からあまり泣かなかったヴィルヘルムを、強いなと褒めてよく頭を撫でていた事を思い出す。


───あの時に、もっと泣いていいと教えるべきだった。


「彼女は立派な国母になるだろう。私はそれを支えたい。」
「…そうやって、守りたいもんばっか増やすなよ」
「彼女は守り、守られる関係になる人だ」

涙を流せない弟の目尻を指先で撫でた。
口に出す事は許してない。だが、ヴィルヘルムから痛いほどに伝わってくる。


お前は本当に、私を愛しているんだな。


「ヴィル」
「アイツと結婚したら、俺はもう要らないか」
「…本当に口が悪い」

顎を突き出して目を閉じれば、少しカサついた唇が重なってきた。
唇を舐め、そのまま舌を伸ばせばすぐに絡まる舌のぬるりとした感触が下半身に響く。
これはいけないなとヴィルヘルムの頬を両手で挟んで引き離した。

突き出した舌が粘液の橋を渡し、名残惜しそうに千切れる。

「ランス、俺は…」
「ヴィルは、私の剣なのだろう。死ぬまで、私の懐から離れる事はないのではなかったか」
「…ズルいじゃねぇか」

言葉にしない意味は、もうあまりないかもしれない。
それでも私達は唇を貪り合った。

「今夜はしないからな」
「…ここまできて生殺しかよ」

悔しそうなヴィルヘルムに知らぬフリをしてまた唇を強請る。
───私こそ、身体の不調がなければ喜んで受け入れていた。
……若いとは、色々と盛んで本当に大変なものだ。
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