神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)

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1章【始まりと記憶】

2.いっそ消えてくれた方が



こんな記憶なんていっそ消えてくれた方が、それなりに幸せに生きられたのに。
 ユークリッドとして生きる事にさえ希望を見いだせなくなった。

これはとある、神子の記憶。










「神子様、本日の公務のお時間です。」



心が荒み、覇気もなく。神々しさなど欠片も無い。
毎日毎日、神子と呼ばれる自分を自嘲する。

むこうの世界で部活が終わって帰ろうとした時、異世界転移というものをしてこの世界に来た。
ラノベとか読んでいたから異世界転移という知識はある。
当たり前のように言葉は伝わり、物語の主人公には特別な能力…チートが与えられるのは定石だ。

夢かなんかかと思ったが、現実だった。特別な能力チートだって持っていた。

ありがちな中世のような世界観に、頭がカラフルな人間達。魔法はないが、俺だけは使える。

聖なる泉で召喚の儀を行い、稀に現われる神の使いにのみ与えられる光の魔法がこの世界を救うとかなんとか。聖職者が言っていた言葉を思い出そうとすると嫌悪感が湧き出るのであまり真剣に思い出そうともならない。


──救うと言っても別に戦争がある訳でもないし、魔獣とか不可思議な存在がいる訳でもない。


泉に佇む俺を見て、狂喜乱舞した召喚者──この世界でのメイン宗教の司祭らしい──が即座に王宮に連行し、国王と謁見した時の事は忘れない。忘れたくても脳裏にこびりつく程の衝撃が俺の中に残り続けた。

大きな城、大きな廊下、大きな広間。テレビや画像でしか見た事のない舞台セットのような場所で、装飾の多い豪華な椅子に深く腰掛ける金髪の男の頭に乗せられた王冠。その姿がこの国で一番偉いのだと告げていた。

つまらなそうな顔でこちらを見る男──国王は「男か」とひとこと言うと、玉座からゆったりと立ち上がって歩み寄った。真っ黒な瞳はむしろ元の世界に馴染みある色なのに、得体の知れなさを感じて怖いと感じた。


───そして、腰に掛けていた宝石などで装飾された豪華な鞘から剣を抜いて、全く躊躇せずに俺を連れて来た司祭を自らの剣で切り付けた。


驚き、混乱した俺は崩れ落ちた司祭を支えようと手を伸ばした。
そしたら俺の手の平から光が溢れ出て、あっという間に切り付けられた司祭の傷を癒したのだ。

「間違いない。神子だ。」と国王が変わらず淡々とした口調のまま周囲に命令を下し、客室へと通され世話を焼かれた。司祭とはそれ以降会っていない。

何も感情を持たず人を斬る国王が怖くて、有り得ない現実に受け入れるだけの余裕もなくて、更には神子として何から何まで世話を焼く使用人達に必死に拒否したが、「始めは皆そうです」と手間のかかる子供を見るような目で押し通された。




それから、10日。まだ、たったの10日。




抵抗は出来る限りした。

暴れてもみたが、城で務める騎士達には赤子の手をひねるようなものだった。
食事を拒否したら流動食を用意されて無理矢理流し込まれた。吐き出そうとすれば即座に手を拘束された。トイレにまで監視がついている。
俺は家畜かと罵れば「尊き神子様です」と返された。何を言ってもここの世界の人間には通じない。同じ言葉を使う意味なんてどこにもなかった

この客室から出られるのは「公務」の時だけ。

この国の「神子様が着る伝統の衣装」とやらを着せられ、頭はベールで覆い尽くす。
光の魔法に俺の意思は必要なく、手を翳すだけで癒しを与える。
それも拒否をしたら、衣装の袖部分の下が鉄になって固定された。服の下は雁字搦めで動く事は出来ない。ベールの下は、猿轡が噛まされている。


──外から見る分には、俺は静かに佇む神の使いだ。


ここまでされれば抵抗なんて最初の数日だけだった。
大人しく従えば移動中の猿轡だけは外された。
今日も公務とやらの部屋に移動して、手を翳すだけの作業を終えてまた客室に戻る。視界はベールで覆われているし、拘束具でうまく身体を扱えないので宇宙人よろしく連行されるだけ。

今の俺は家畜か、道具か。『尊き神子様』という文字列がこの世でいちばん嫌いになった。

それでも抵抗したらまた自由を失うから、荒んだ心でどうにか足を動かしていた。






「……神子様?」

連行する騎士達の歩みが止まり、俺も足を止める。真っ白のベールの向こうで声がする。声変わり前の子供の声だ。


「…………誰…」


猿轡が外されたところで話をすることも無くなった俺の声は、発音を忘れかけて掠れていた。

「失礼しました。私は第三王子のアレクシスと申します。」
「第三王子…」
「あの、アレクとお呼び下さい!」
「………畏れ多いです。失礼します」

相手は子供だが、この世界で誰かと交流を深める余裕なんてない。
王子に見えない位置から騎士が早く歩けと俺を促していたので、ベールで王子がどこに居るかも見えないが僅かに会釈をしてさっさと立ち去った。決して早く足は動かせないが、会話をする気がないという意味で、なるべく早く動かした。








それからまた、数日経った。




「今日も公務お疲れ様です!神子様」
「…別に」

どういう訳か、アレクシス王子は初めて言葉を交わしたあの日から、俺の居る客室に日参している。

次の日に訪れた時は俺はもう公務を終えていてベールも衣装も身につけておらず、ここで過ごす時に着ているガウンを羽織っているだけだったので大層驚いていたが、子供らしい人懐っこい距離感で俺に接している。
どうやら妹こそいるが、同年代の友達も居らず、それぞれ王族として受けなければならない教育が多いので基本的に王城から出られないらしい。
勉強熱心な王子は、この国で重要視されているけどまだ教育で習っていない「神子」という項目に興味津々らしい。


───畏まらないで、愛称で呼んで、神子様の世界の話をして、神子様の名前を教えて。


王子は、多くの事を要求した。俺は最初のひとつだけ受け入れて、後は全て拒否をした。
この世界の人間は、俺の名前も年齢も知らない。
王子はそれでも足しげく通い、距離を詰めるのが目的か俺の話を聞く代わりに自分の話をする。

「今日は剣術の稽古でした!儀礼的な形のみを学ぶのですが、先生からはもっと筋力をつけないと正しい構えも出来ないと言われて…神子様は、とても綺麗な姿勢ですよね。いつでも背筋が真っ直ぐです。」
「………そう。」

短い返事をして、あとは自分の手元だけを見る。
子供相手に…とは思うが、この王子の親はあの国王だ。僅かな情報だって与えたくないし馴れ合う気は無い。

「あの…神子様、疲れていますか?顔色が悪いです。」

確かに疲れている。重病人が相手だと俺への負担が大きいらしい。
公務中はベールで見えちゃいないが声は聞こえる。いつものように手を固定されてボーッとしてると、すぐ近くで死にかけだったのが回復した、奇跡だと大騒ぎしていた。

そこで目眩がして倒れそうになったが、猿轡をされた俺は伝える術もなく、拘束された身体は倒れることなく公務を続行していた。
公務の間は余計な事を言わないように、最初から猿轡が標準装備だ。

「…今日は戻りますね。また明日、神子様」

体調を気遣った王子が部屋から去ったのを目線で追って、座っていた長椅子に横になった。








「力を使いすぎると体調を崩すようだな。」

───やはり王子の話は筒抜けだったか。
次の日の公務が始まる前、相変わらず淡々とした口調で国王が話しかけてきた。
王子ほどではないが、国王もよく顔を出す。国王としての公務で疲れた身体を癒す為に。

無言で手を翳し、大して疲れてない身体に光を当ててやると愉悦感たっぷりの顔で受け入れる。人の心を顧みないこの男が、目の前から滲み出る吐き気がするほどの嫌悪に気づく事はないだろう。

「重病人が居る時は人数を調整させる。」

───お前がいつでも癒されるようにな。言わなくても分かる。
そうは思うが余計な事は言わない。
だが、元々加虐嗜好があるらしい国王は俺を煽るように言葉を続けた。

「神子が来た事で我が国は早くも潤っている。他国の貴族らも癒しを求めて次々と向かっていると聞いた。今後も期待してるぞ、神子」
「っ……早く、俺を元の世界に帰せ………ッッ!!!」

期待なんてクソ喰らえだ。睨みつけて帰せと言えば、頬を思い切り殴り飛ばされた。
瞬間的な痛みと吹き飛ぶ身体が絨毯ごしとはいえ硬い床に叩きつけられる。

「…ふん。得意の光魔法ですぐ癒えるのだろう。帰る方法は無い。拘束を緩めて欲しければ従う事だ。」

反抗的な態度に簡単に腹を立てた国王は、蔑むように俺を見下し、さっさと部屋を出て行った。









「っ……神子様なんで…」
「…自分には、治癒が使えないらしい」

つくづくこの世界に都合のいいチートだ。この世界にだけ、都合がいい。
頬を腫らした俺の顔を見て、王子は可愛い顔を驚愕と痛ましさに歪めている。

「誰に、誰にそんなことを!!」
「王子の父親。」
「なっ……」

突然言われて戸惑いを隠せない様子だが、どうでもいい。
そんなことより、この仕様は俺にとても都合が良かった。素晴らしい発見だった。
いつも手から勝手に溢れる光が、大きく腫れた頬にかざしても癒すことはない。この発見に思わず口角が上がりそうになり、頬の痛みで現実に戻った。

───俺に対して万能じゃない光なら、回復しないなら、問題なく死ねるんじゃないか?

正直、この力が怖かった。何があっても俺を生かすんじゃないかと。
刃物を持つことは許されていない。
身体能力で考えれば監視役の騎士達に大きく劣る俺が何かした所ですぐに封じられる。

自分を癒せないと知って、安全の為とかなんとか言って今以上の雁字搦めが待っているはずだ。それを掻い潜って死ぬには、慎重に事を進めて機会を待つしかない。


この頬の痛みが、俺の光だ。絶対に逃しはしない。


こうして、俺のこの世界での目標が生まれた。
家畜や道具も、どれだけ非力だろうと反乱を起こす事があると知らしめてやる。
決意を固くした俺に、王子の心配は視界に入ったところで何も心が動かなかった。

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