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陰章【王弟の暗躍】
1.焦燥
しおりを挟む相変わらず穏やかに毎日を過ごしていても、変化というものは必ずあるもので。
「えっ、ランス兄さんも行くの?」
「普段通りならヴィル一人か外交官に任せるのだが…」
「たまにはいいだろ。ほとんど城から出た事がねーんだから」
「わぁっ!ちょっと、ヘル兄さん!」
アレクシスの執務室を訪ねてきた兄二人が揃って城を空けるのは、ユークリッドが城に来てから初めての事だ。
会話をしながらランスロットのお腹に抱き着いて頭を撫でられていたユークリッドは、ヴィルヘルムから強制的に剥がされてムッと口を尖らせるが、「甘えすぎだ、ガキ。」と一喝されて下を向く。
「ヴィル、大人げない行動は慎みなさい」
「兄上、ユークを泣かさないで下さい」
「なっ、泣いてないから!ッ先に、抱き締めてきたのランス兄さんだし!」
「…それでは、私が悪いな」
アレクシスこそ伴侶を子供扱いしていないかと抗議しようとしたら、目を伏せてショックを受けた様子のランスロットの変化に三人で慌てた。
「兄上、ユークは喜んでいたので大丈夫です」
「うん!俺、ランス兄さんにギュッてされるの好きだよ!」
「グッ……悪かった!俺が悪かった!んな悲しむな!」
傾国レベルの美丈夫が悲しむとこんなにも破壊力があるのかと、ユークリッドは目の当たりにした。
そもそもランスロットが感情を分かりやすく表情に出すことさえ珍しいというか、初めてかもしれない。
無表情に眉を下げる程度の変化だが、与える衝撃は物凄かった。
「とにかく、明日から俺とランスはしばらく居ねぇから!アレク、留守を頼むぞ」
「は、はい。任されました」
「…皆、どうしたんだ」
混乱を知らぬは本人ばかり。首を傾げて何事かと疑問を持つランスロットを「いいから」とヴィルヘルムが肩を抱いて連れて行ってしまった。
「ランス兄さん、最近なんとなく表情というか、空気が柔らかくなったね」
「そうだね。申し訳ないけど、心臓に悪い…」
そう言って苦笑いするアレクシスに、ユークリッドも頷いて同意した。
アレクシスとランスロットは顔が似てるけど、雰囲気が違うのだ。誰もが理想とする王子様で言えばアレクシスのような見た目を言うが、ランスロットは傾国だ。無意識に人を惹きつけて全てを捧げたくなる見た目というか…
今までは無表情だから近づき難い空気感があったけど、ここ最近は逆に吸い寄せられるように人が集まるようになった。
「セレーネ様も、『いつも極端なのよあの彫刻男!』ってランス兄さんが変わったの気付いてたよ」
「…ユーク、悪口を真似するのはやめようね」
アレクシスの人差し指が窘めるようにユークリッドの唇に当てられて、それもそうかと反省する。
最近のユークリッドは同じ年頃の子ともっと交流しよう、ということでランスロットとヴィルヘルムの妻子達が暮らしている後宮によく遊びに行き、子供達と一緒に座学をしたりと賑やかに過ごしている。
異例中の異例で王族に入ったユークリッドは、王族としての教育を何も受けていないので助かるばかりだ。
「そういえば、今日はダンスのレッスンだったね?」
「ん。アレクはランス兄さんの代わりに仕事するなら忙しくなるし、俺、先生と練習してようか?」
「ダメだよ。」
ユークリッドの唇から移動して頬を撫でていた人差し指が顎の下にきて、下を向かないようにと顎を固定された。アレクシスがこれをする時は、絶対にキスをしてくると経験則で知っている。
「……節度。」
「ユークリッドが他の男とダンスしようなんて言うからだよ」
予想通り重ねられた唇に抗議しようと思ったが、つい目を閉じてしまう自分も自分だと、アレクシスに甘いユークリッドは内心反省する。
反省はするが、アレクシスと行う行為はどれもこれも心地良いから困っていた。
「…殿下、侍従達が困っています」
「すまない。仕事に戻ろうか」
クリストファーの言葉でパッと切り替えて机に戻るアレクシスに、ユークリッドは状況を思い出して赤面した。
クリストファーが居る時点で配慮すべきだが、今は三人だけの執務室じゃない。
アレクシスとユークリッドに、とうとう新しい侍従や使用人が配属されたのだ。
「ユーク、この書類を任せたい」
「ッはい!」
レッスンの時間が来る前にキリのいい所まで仕事を終わらせるんだった。
慌てて駆け寄るユークリッドに一瞬微笑むが、すぐに仕事モードに切り替えて指示を出すアレクシスにユークリッドも集中しようと背筋を伸ばす。
(ほんとにズルい。ズルいけど…アレクって本当に仕事出来るんだよな…)
人の多くなった執務室で、ユークリッドがしていた資料探しなどの補助は新しい侍従達が請け負うようになった。
もう少ししたら文官を雇って仕事を割り振るようにもするらしい。
時間は常に動いている。ユークリッドが見えない範囲でも、常に変化は起きている。
そんな目まぐるしい日々に置いていかれないように、駆け足で人生を進んでいる。
とても毎日が充実しているし、忙しい。
「──ユークリッド殿下、講師の方が参りました。」
「アレク、行ける?」
「行けるよ」
侍従に呼ばれて机を片付ける。
自分が自分の居場所を守れるように、アレクシスの隣に立つ事が相応しいと思われるようにするにはいくら努力しても足りない。
(ダンスが終わったら、立ち振る舞いのチェックもしてもらおうかな…)
アレクシスが亡霊王子の噂を払拭して社交界で脚光を浴びるようになってから
自分は隣に立つのに相応しい人間でいられるかと、ユークリッドは焦りを抱えるようになっていた。
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