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2.一夜明けて、腰は痛くて
「なぁツクモ、俺が悪かったから」
「……」
気軽に話しかけないで頂きたい。こっちは腰が痛いんだ。
ていうか神様なんだから体調とかそういうの超越してて欲しかった。そもそも100年経ってない人形に宿る神ってなに。
「……僕、呪いの人形とかじゃないよね?」
「髪伸びたら呪い系で合ってんじゃね」
「お祓いされる!」
どうしよう。汚部屋から生まれたから呪いのひとつやふたつ眠っててもおかしくなかったかもしれない。汚部屋だし。
嫌だなぁ自分がそのうち祓われるとか、嫌だなぁと思いながらシーツをパンパンと叩いてシワを伸ばした。
「まぁ呪いで憑いたならそれはそれで…なぁ、ツクモ。機嫌直ったか?」
「直ってない!向こうに座ってて!!」
むしろ僕の背後霊かってくらい後ろをぴったりとくっ付いてたセイイチが肩を落として部屋に入って行った。肩を落としたところで僕より大きいんだなと横目で眺める。
一人バルコニーに残った僕は、セイイチに背中を向けてお腹をそっとさする。
「……どうしよ、お腹すいちゃってる」
昨日、目覚めてから飲まず食わずで一晩中ハードな運動までした僕の身体は空腹を訴えていた。
付喪神なのに腰は痛いし、お腹は減るし。これじゃ普通の人間みたいだ。
僕はセイイチの所有物だけど、いきなり現れて養ってと言うのもおかしな話だし。どうにか出来ないか…
「うーん…付喪神を雇ってくれる仕事ってあるのかな…あぁっ!僕の予備知識が身分を証明する物がないぞって訴えてくる!」
「一人でなに騒いでんだ…洗濯終わったなら部屋に戻ってこいよ」
「僕の腰は痛いままなんだから!!」
「わかったから、バルコニーで騒ぐなって」
確かに、ご近所迷惑な事はしちゃいけなかった。反省して部屋に戻るとセイイチが抱き締めてきて先に進めない。
「なぁツクモ、何したら許してくれる?本当に反省してるから」
「……なんでも聞いてくれるの?」
「出来る限りやる。なぁ、言ってくれ。俺もうツクモに相手して貰えないと無理だ。死ぬ。」
「物騒なこと言っちゃダメでしょ!まったく、昨日の夜に会ったばかりのくせに……なんでも、か…」
これはいきなり光が見えたかもしれない。とりあえず飢え死ぬことはなさそうだ。
「それならセイイチ、お腹すいたからご飯がほしい。」
まぁ、汚部屋住民が自炊なんて選択肢を作ったら昨日より酷い魔窟になっているところだったよね。そういう意味では空っぽの冷蔵庫で良かったというか、でも食糧がなんにもなくて丸一日なにも食べる事が出来なくて正直つらかった。
セイイチに服を借りて二人で外出をすることになり、近くにあるファミレスでハンバーグを頬張る僕はすっかり機嫌が良くなっていた。
「不思議なことに、神様なのに体調の変化があるんだ。僕って本当に付喪神なんだよね?」
「俺に聞かれてもな。」
パスタをつついてるセイイチは「もっと頼まなくていいのか?腹いっぱい食え」と僕にメニューを差し出してくる。残念ながらハンバーグだけでお腹いっぱいになってきたからこれ以上は頼んでも残してしまう未来しかない。
「お残しは罰が当たるから余計には頼んじゃいけないよ。」
「残したら俺が食べるから、ちゃんと食えよ」
思ったより気遣い出来るんだなぁと最後の一口を口に入れてもぐもぐしながらセイイチを観察した。
昨日、帰ってきた時は本当にくたびれてたけど顔のパーツは整ってる。目の下のクマはほんとに濃いけど過去にストーカー被害がありましたって言われても信じるかも。
「大丈夫。これで十分、機嫌直ったよ。」
僕はどうして生まれたのか分からないけど、人間と同じようにお腹が空くのは困ったな。神様のくせにセイイチにおんぶにだっこで養ってと依存するのも良くないと思う。
この先どうしようかな…と考えていると、身を乗り出したセイイチが僕の口元に指を当ててきた。
「ソースついてるぞ」
「あ、もったいない」
パクッとセイイチの親指を食べてソースを舐め取った。ソースも大切な食糧だ。無駄にはしちゃいけないよね。お皿を舐めるとかはしちゃいけないって僕にインストールされた常識が訴えてるからしないけど。
「………お前さぁ」
「ありがとうセイイチ、ごちそうさま!」
両手を合わせて感謝。お腹いっぱいになったし、とりあえず何をしようかな…あ、仕事を探すんだっけ。
「セイイチ、身分証とか出自とか一切必要ない仕事ってある?」
「知らね。いいから帰るぞ」
立ち上がってレジに向かうセイイチに慌てて着いて行ったら、レジの近くにアルバイト募集のチラシがご自由にどうぞって貼り紙つきで置いてあったから一部取って開いてみた。
「ふむ。仕事はいっぱいあるんだねぇ…でも僕みたいな生まれたての神を雇ってくれるところって…」
「余計なこと考えんな。帰るぞって」
チラシは取り上げられ、元の場所に戻された。余計ではないと思うんだけどな。
手を掴まれてファミレスを出る。冷たい風が顔に当たって温度差に少しだけ身体がすくんだ。
「……お腹いっぱいになったら眠くなってきちゃった」
「寝てねーからな。俺も眠い」
「セイイチはちゃんと寝た方がいいよ。そんなクマがいっぱいあるのにどうして寝なかったのやら」
「あー…まぁ、ノリ」
ノリで一晩盛るのはどうかと思う。
「ふぁ…セイイチ、帰ったらソファ借りていい?」
「なんでだよ。ベッドあんだろ」
「セイイチは寝ないとじゃん。仕事、あるだろうし」
「一緒に寝ればいいだろ。」
「狭いじゃん…」
セイイチのベッドはシングルだし。成人男性二人が寝るのは無理があるでしょ。
気を遣われるのも申し訳ないし、昨日みたいに盛って寝れなくなるの困るし、せめて僕がもう少し小さな身体だったらよかったのに。
(それこそゲーセンの袋に入るサイズ感なら…)
元の姿がわからないけど、抱き枕の代わりくらいにはなれそうなサイズ感かなぁって思うんだよね。
「……モ、おいツクモ」
「うーん…」
「ツクモ!おいこら勝手に消えんな!」
「!」
肩を引っ張られてハッとしたところにセイイチの顔が近付いてキスされた。ガッツリ舌まで入ってくる濃厚なやつが。ちなみにここは公衆の面前である。
「んんッ、ちょ、なにやってんの…!?」
「なに消えようとしてんだ。所有者の俺が許可しねーからな」
「消えそうだったの?もうちょいコンパクトになれないかなって考えてただけだよ」
「余計な心配すんな。そんなに不満ならキングサイズのベッド買うし、買うまでホテル暮らしにしてやる」
「お金大事にして!!」
セイイチってまぁまぁ極端だ。キングサイズのベッドなんて置いたら部屋がギチギチになるじゃないか。
…それより、消えそうだったのか。うーん…コンパクト、コンパクトに…
「おお。出来た」
「……………」
念じてみたら本当に手が透けてきたので本当に付喪神っぽいじゃんって驚いてたら怒りのディープキスが僕を襲った。
公衆!公衆だってここ!
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