こんにちは、付喪神です。

江多之折(エタノール)

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5.朝はおはようございます!



「いいか。急いで帰るからな、消えるなよ」
「僕から消える予定はないし、早く行かないとセイイチ遅刻しちゃうよ。行ってらっしゃい」

今日は月曜日らしい。セイイチはかなり渋りながらも出勤して行った。さて。

「張り切って家事をしようかな!」

おはようございます、付喪神です。今日も元気に家政夫をしています。

「おはようロボちゃん。まさか汚部屋にキミが眠っているとは思いもしなかったよ」

足元で頑張って掃除機をかけて回るロボット掃除機に声を掛けた。床が見えない部屋でこんな文明の利器…ずっと汚部屋だった訳ではなさそうだ。
あちこち磨いて、洗濯機も回して~鼻歌交じりに家事をこなしてたらあっという間に昼になった。

「もう少し効率よく動けたら時短いけるな…」

うんうん、とお茶漬けを食べながら午前の反省をする。残念ながらインストールされたスキルの中に料理はなかった。
セイイチの方が料理スキルはあったので僕でも簡単に用意出来るメニューを用意してもらったのだ。料理まで作れたら完璧だったのになぁ。

お昼からは何しようかな…折角だから近所を散歩してもいい。セイイチのサンダルを借りてお散歩しようそうしよう。









「俺から逃げようとしてないよな?」
「してないしてないしてない」

心臓飛び出すかと思ったから聞いて欲しい。玄関の扉を開けたらセイイチが立ってた。めっちゃくちゃびっくりした。

「なんで?セイイチ、仕事は?」
「昼からリモート。当分はリモートで仕事出来るようにしてきた」

そう言って散歩に出ようとした僕の肩を抱いて玄関に入った。まさかの散歩失敗である。
しかも扉が閉まるか閉まらないかのところで唇まで奪われた。この男、僕を好きすぎる。

「逃げようとしたら抱き潰してでも繋ぎ止めるからな」
「仕事して…」

僕を人間を堕落させる神にしないでほしい。付喪神に何か加護があるかどうかは分からないが、それでも逆加護はちょっと遠慮したい。

セイイチの家はリビングと寝室が分かれてて、ダイニングテーブルもある。ひとり暮らしと思えない豪華さだ。仕事の邪魔をしてはいけないから、どこで仕事をするのかなって見守ってたらソファに腰掛けたセイイチに手招きされた。

「ツクモ、隣に来いよ」
「仕事するんじゃないの?」
「仕事はするが」

鞄からノートPCを取り出したから、リビングで仕事するのかと躊躇してると「早く」と急かされて慌てて隣に座った。

「……なんで離れて座るんだよ。」
「だって、セイイチは仕事なのに」
「いいから寄れって。落ち着かねーから」

もどかしそうに腕を引っ張られて、なんで仕事するのに僕が必要なのか理解出来ずにいると「暇ならこれでゲームでもしてろ」とセイイチのスマートフォンが渡された。
む。僕の知識インストールが試されてるな…

「……」
「パスコードは909な」
「ぱす、こぉど…」
「……」
「ボタン…」

端末のサイドにボタンを見つけてカチカチ押してみる。画面がついたり消えたりする。なるほど。
手のひらサイズのテレビみたいだ。テレビということならリモコンがあるのだろうか。

「………ブフッ」
「セイイチ?」
「そうか、スマホはわからねーか…クッ」

密着してるから小刻みに震えてるのがダイレクトに伝わってきて、笑われてると自覚した。

「お前なんで、知識が家事だけ…テレビは扱えてたじゃん」
「なっ!仕方ないじゃん!僕は神様だから最新機器に疎いの!」
「いや洗濯機とか使えてるし。…どう考えても家政婦なんだよなぁ」

頭をワシワシ撫でられて、貸してみ、と操作を一から教えてくれた。画面触るだけでいいのか…文明ってすごい。

「あー可愛い。パズルなら出来るな?アプリ入れたから、これで遊んでな。」
「むー………綺麗な絵だ」

操作に慣れないけどポチポチと遊び始めた僕の頭をもう一度撫でて、セイイチは仕事に戻った。







「できた!…あ。ごめん」
「んー?邪魔じゃないから、気にするなよ。…喉乾いたな」

いつの間にかパズルに夢中になってセイイチに全力で寄りかかってた。姿勢を正したらセイイチはPCをテーブルに置いて、飲み物を淹れに行ったので僕は次のパズルをしようと一覧を眺める。

綺麗な景色だったり、花だったり、色んな写真が並んでる。ゆっくりスクロールしていくと一覧はやがて動物の画像ばかりになった。

「……なんか」

意識がぼんやりしてくる。僕はなにかを忘れていて、ここにヒントがある気がする。

「猫、犬、兎、………」 

ひとつずつ、じっくり見る。答えはこれじゃない…これでもない。

「……」

どれだろう。僕は、この中の────



「ツクモ。」



手からスマホが抜き取られ、代わりにマグカップを手渡された。

「熱いから気をつけて飲めよ。」
「……うん、ありがとう」

僕、何か考えてたっけ?まぁいいか。
湯気が出てるカップに口をつけると熱くて苦かった。

「ひゃぁ…これって珈琲?」
「苦いの苦手だったか。砂糖とミルクはあったっけか…牛乳なら昨日買ったか」
「苦いけど、大丈夫だよ。なんだか目が覚めるね」
「仕事が終わったら買い物に行くかぁ」

初めての珈琲は苦味にびっくりしたけど、香りはとても好きだなと思った。
ちびちび飲んでいる間にセイイチも隣に座り直して珈琲を飲んでる。

「ねぇ、セイイチ」
「うん?」
「僕もセイイチも珈琲飲んでるから、キスも苦くなってるかな?」
「……計算してやってんのか?」
「算数はどうかな、やってみないと分からないなぁ」

また一口飲む。うん、苦いなぁ。
パズルはもう出来ないのかなってマグカップをテーブルに置いたら、待っていたかのようにセイイチの手が僕の顎を掴んできた。

「ふぁ?」

潤ったばかりの僕とセイイチの舌が重なって、珈琲の香りの息が混ざる。セイイチはほんとにキスが好きなんだなぁ。
薄らとした苦味のあるキスも、嫌じゃない。
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