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10.いんたーふぉん?
「セイイチはなんでゲーセンで狸の人形をとったの?」
「……」
人形になった僕はすっかり定位置になったセイイチの服の中で過ごしていた。
やめろと言いつつセイイチが伸びやすい服を選んでるの、気付いてるもんね。居心地いいし、セイイチの匂いするし、最高の環境だ。
「せーいちーなんでー?セイイチの部屋って僕以外の人形いっこもないよね。というか娯楽がない」
「うるせーな…娯楽ならスマホあるだろ」
「僕が遊ぶのしか入れてないじゃん」
「使いこなしやがって…」
そろそろ休憩終わるぞ、と誤魔化されてムッとなったけど人形だと頬っぺた膨らませられないんだった。
いいもんね。このままお昼寝するもんねーって丸まってるとピンポーンって聞き慣れない音が部屋に響いて僕はびっくりした。
「ひゃあ!襲撃!?」
「初めて聴いたっけ?来客を知らせる音だから、このまま大人しくしてな」
服の上からポンポンと叩かれて僕は言われた通りにセイイチの服の中に隠れておくことにした。
立ち上がったセイイチが片手で僕を支えながら移動して、ピッと電子音がしたかと思ったら「はーい」と何やら話しかけている。
『この度、隣に越して参りました神と申します~ご挨拶に伺いました』
「あ、はい。すぐ出ます。…この時期に珍しいな」
「せーいち」
「もうちょい待ってな。静かにしてて」
僕を服に入れたまま玄関に向かっているらしい。なんだか聴いたことがある声と話し方だったんだよね。でも静かにって言われたし…と考えてると玄関の扉が開く音がした。
「突然すみません、もっと早く対応したかったのですが隣の部屋を確保するのに苦労しまして………おや?」
「もっと早く…?なんですか」
「いえ、そのお腹…」
「あっ!やっぱり神様だ!」
僕がセイイチの首元から顔を出した瞬間、物凄い勢いでドアが閉まってセイイチが鍵とチェーンロックまでかけた。早業だ。
一瞬しか見えなかったけど、確かに僕を追い掛けた神様だったと思う。
「………ツクモ。今の白髪男は」
「神様だよ!僕に成仏しようねって言いに来てた!」
「神ですよ~」
カチッと鍵が勝手に開いてドアがチェーンロックに許された隙間分だけ開く。真っ白な髪の神様がその間から覗いていてちょっとホラーだ。
「あぁ、お腹にいたから食べられたのかと心配しましたが…お人形さんになっていたのですね。そこの狸ちゃんの今後の為にもお話はしておいた方がよろしいかと~」
「………ツクモは渡さないからな」
「大丈夫ですから、お話だけでも」
渋々とチェーンロックを外すセイイチに、僕にインストールされた知識が「悪質な訪問販売…!」と訴えていた。
お茶を淹れようかと提案したけどセイイチに人間に戻るのは拒否されたので、僕は相変わらずセイイチの首元から顔を出してる人形モードだ。
「…それで、神様とやらが何をしに来たんですか」
「狸ちゃんが成仏を拒否して物に宿ってしまいましたので、監視役として現界して来ました~」
「僕は立派な家政夫してるよ!」
「そのようですねぇ。部屋もすっかり綺麗になって…」
「……」
汚部屋を見られている事を知ったセイイチは気まずそうにしている。僕がずっとセイイチのそばに居たせいでごめんね。
神様は特に気にせずのほほんと笑って話を続けた。
「加護を沢山あげて良かったですねぇ。ちゃんと使いこなせているようで」
「……あー、セフレの知識も加護だったのか」
「…………え?」
「セックスに関しての技術は浅いのに、セフレとかヤバめの単語は知ってるの、神様の知識か」
「…………そんな、まさか」
「知らないと知識あげれないもんね!」
てことは、料理とかは神様も出来ないってこと?隣にお引越ししてきたのに一人だったら大変そうだなぁって思ってたら、神様の顔が真っ赤になってた。
「…………ふふ、狸ちゃんが楽しく過ごせているようで安心しました。それでは私はこれで…」
「神様もう帰るの?」
「まぁ待ってくださいよ神様。色々と聞きたいことあるんですよね」
「あの、私は、大丈夫で……」
「俺にツクモを授けて頂いて感謝しております。感謝しておりますが、期間とか、色々…ねぇ」
「あ。僕もそれ気になる」
「あの…」
「セフレとか興味があるなら紹介も…」
「結構です!!!狸ちゃんが成仏すると決めた時に私も去りますので!!!!あと神様ではなく、神という名字ですので!!」
叫ぶように言い捨てて去って行った神様に、僕はぽかんとして見送るしか出来なかったけどセイイチが僕を首元からスポンと出して膝に乗せたので気持ちはあっさりと切り替わった。
「ツクモ、人間に戻って」
「?いいよー」
むむむって念じて人間に戻る。素っ裸でセイイチに跨ってるけど今更だ。今日は既にエアコンが効いてるから寒くないし。
「どうしたのセイイチ、服、着てくる?」
「…俺が死ぬまで、成仏しなくていいか?」
「うん?僕、セイイチが死んだら一緒に成仏するー」
むしろセイイチの方が大丈夫?って話だと思うけど。だって生きてる人間のセイイチが生前も今も人外の僕と一緒にいるのって、イレギュラーでしょ?
「僕は今が一番幸せだよー。セイイチと一緒だし、家事も楽しいし」
「そうか……おい、人形に戻るな」
「セイイチの目がやらしくなってたからダメー。お仕事あるでしょ?」
「人形を涎でベチャベチャにしてやってもいいんだからな」
「そんなことしたら口きいてあげないから!」
「あーあ。ツクモとキスしたいなぁ」
人形の口を執拗にむにむにされて、しばらくは耐えたけど僕は結局人間の姿に戻ってセイイチの唇に飛びついた。人形の時は感覚なくなってても良かったよ!神様!
side.晴壱
────色々あって、人生が嫌になっている時に誰もいない神社で狸の最期を看取ってしまった。
スコップもない、手入れされていない固い土に穴を掘るのは苦労した。苦労したけど、そのまま放っておくのはあまりにも可哀想だと思った。
「次は、腹いっぱい食べれる生き物に生まれ変われよ。幸せになれよ」
狸の死体に向かって何度も話しかける俺は滑稽だったろう。それでも儚く散らした小さな生命がこのひと時だけでも報われればと思った。
──冷たくなった狸の身体は、小さくても生命の重みがあった。
「……ちゃんと、生まれ変われよ」
俺みたいな寂しい人間に看取られるな。次はちゃんと沢山愛されて、笑って死ねる一生になれ。
狸の分だけかさを増して盛り上がった土の山に手を合わせる。思えば、形式でなく心から祈る為に手を合わせたのはこれが初めてだ。
普段は神なぞ信じていないのに、ふらりと訪れたこの神社にも意味があったのだと自分を肯定してくれた気がして、土の山を最後にぽんと一撫でして立ち上がる。
辛いのは俺だけじゃない。どうしようもなく、生き続けることの許されなかった生命が近くに居た。
そんなやるせない気持ちで帰路に着いた。ほんの一瞬だけど、心を開いて鳴き声をあげた狸の事が頭から離れなかった。
忙しい毎日の片隅に、その記憶は在り続けた。
「───狸か。」
ある日、普段は行かないゲーセンで狸の人形相手に俺は何度も札を両替して、最後には店員に同情されてコツや取り方をレクチャーされてどうにか取った。
「なにやってんだ俺…」
荒れ放題の家のどこに人形を飾ろうって言うんだ。
馬鹿らしい。ただ生きているだけしか出来ないくせに、生まれ変われって幸せになれなんて烏滸がましい。
「───いち、せーいち!お腹すいた!」
「………あー…朝か?」
「おはようセイイチ!今は昼だよ!お腹すいたー」
空腹はいけないな。すぐに何か食べさせないと。
「せーいち、僕また歩けなくなっちゃった。人形の方がいい?」
「……いや。俺が全部やるから、おいでツクモ」
ツクモを愛でるつもりがつい無理ばかりさせてしまう。俺にこんなに性欲があるとは思わなかった。
人間のツクモも全然重くない。これは幸せの重みだ。
「えっと、時間で挨拶が変わるんだったっけ…」と俺に運ばれながらコロコロ表情を変えるツクモに「昼はこんにちは、だな」と教えてやるとぱぁっと表情に光が宿った。
「こんにちは!セイイチ!」
「おう。こんにちは」
一撫での恩が、こんなに大きくなって返ってくるとは。人生何が起こるかわかったもんじゃない。
「飯食ったら散歩にでも行くか。」
「僕、セイイチの服の中がいいー」
「まぁ歩けないんじゃ仕方ないな。」
まずは腹ぺこの付喪神をどうにかしてやるところから。
冷蔵庫の中を思い出しながら、俺は可愛い付喪神に満たされる一日の始まりを噛み締めた。
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