命のたまご

いすみ 静江

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命のたまご

32 茜と真田のマリッジ

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 ――マリッジ ◎ マリッジ

 あなたと私。

 ……真田くんと茜のお話よ。

 『二人の結婚指輪物語』

 本当にあった愛の話。 

 あなたの優しさに触れられて、私は幸せです。


 私の指輪とあなたの指輪。
 お日さまに重ねてかざしてみると多角形。
 綺麗だなっていつも見ていた。

 あなたが、私が好きなのを選べばいいよとすすめてくれた指輪。


 秋田のジュエリーショップで買った、マリッジリング。

 一人に一つ。
 二人で二つ。


 ――結婚十年目で、大事件が。

 ごめんなさい。
 私の指輪、うちの中でなくしたみたい。
 ぽろぽろぽろぽろ泣いた。

 俺には、直ぐには無理だけどさ。
 又、マリッジリングを買うよ。
 指輪で別れたくない。
 俺たちの方が、大切だよ。

 とても申し訳なかった。
 ずっと連れ添うからとのあなたの声にうなずいた。

 切なくなって、泣きながら。
 あなたの胸に包まれた。

 私の引っ越しが多くて、生活も大変だったね。
 その時は、東京にいたっけ。

 東京のジュエリーショップは、秋田とは違い、キラキラとしていた。
 でも、なくした指輪とは、比べたくなかった。
 愛に重さはないから。
 秋田も東京も変わらないよ。

 それになにより、あなたの想いの方が、輝いていたよ。

 胸が締め付けられたわ。 


 新しい指輪は、重ねてみると二重丸。
 太陽に透かしてみなくても、すぽっとまるに入ってしまうわ。

 あなたの指は、節が太くて指輪も大きいまるなの。

 私は細い指で、ジュエリーショップの方に驚かれたわ。
 少し豪華になりました。
 私のには三つのメレダイヤ。

 こんなに素敵なもの。
 最初の指輪より倍の高さになったのに、どうして買ってくれるの?

 私が初めての妊娠をしているから?
 ストレスのないように。
 もし、お別れのことがあっても、涙しないようになの?

 それに、あなた……。
 どうやって苦労して働いてくれたのだろう。
 涙しかないよ。 


 もう、お互いに指の形に合ってしまったね。
 こうして年輪を重ねていくのね。
 あなたと私、なじみゆく。

 新しい指輪にしてから、絶対になくさないようにしている。
 中が見えるボトルにしまっているの。

 なくした指輪と今ある指輪。
 二つの指輪、合わせて二十数年経つね。

 二人合わせて四十数年か。


 ありがとう。
 あなた。

 あなた。

 ありがとう。


 これからもよろしくね。

 ◇◇◇

 ――このお話は、私のお母さんとお父さん達がそうだったのですって。

 お母さん達には、だから続きがあるの。

 ◇◇◇

 私は、あなたのお蔭で、結婚記念日をまた一つむかえられました。

 今度こそ、なくさないで、共に髪に霜の降るまで仲のよい夫婦でありたいです。



 古き恋人は黄金なり。

 とこしへの愛は変わらず。

 ◇◇◇

 そんなことを宣言して、絹矢茜と真田佐助くんは、結婚しました。

 櫻と慧が子どもに恵まれるのが遅かったように、茜も十年目に妊娠しました。

 それが、どんな悪夢を引き起こすか――。

 しかし、それでも、茜は、命のたまごを授かったのです。
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