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結界についての盛り上がりはともかく、その日も仕事は途切れることなく続く。終業際に始まった案件は急いだものの修理に手間取り、課に戻ったときにはアルヴァ以外の誰もいなかった。
「アルヴァ、みんな帰ったの?」
「……ああ。課長が伸びた時間を記録しておいてくれ、と言っていた」
「はーい」
結界の改善の余波で皆が浮き足立ち、火が点いた結果、終業の鐘と共に早々と帰って行ったらしい。帰ってすぐ魔術書が読みたい、つい帰宅が早足になる理由が伝わってくるようだ。
仕事道具を仕舞って規定の場所に時間を書き入れ、アルヴァを振り返る。
「アルヴァもまだ仕事?」
「いや。もう切り上げる」
そう言った割には、すぐに魔術機を消してしまった。時間を記録する箇所には、終業の時間が既に書き入れてある。
帰り支度をしているアルヴァに近寄って、顔を見上げた。
「今日、うち来ない?」
「いいのか?」
「うん。明日休みだしさ、飲もうよ」
泊まってもいいよ、と言えるように予防線を張った。控えめに飲んで、酔って口を滑らせた体で頷くことならできるはずだ。
急いで鞄に持ち帰る荷物を詰め、待っているアルヴァの元に駆けていく。職場の扉に結界を張り、魔術的な鍵を掛けた。
二人で並んで王宮を抜け、門番に挨拶をして帰路に就く。
帰り道の中で飲み屋が多い道を通り、近くにある酒屋で酒とつまみを仕入れた。食事は簡単なものを用意することにして、そのまま帰り道に戻る。
俺の家の方が遠いが、だらだらと酒の話をしながら歩いているとすぐに家に着いた。鍵を開け、暗い部屋の照明を灯す。
「ただいま」
冗談のような響きを持った言葉が聞こえたが、響きは悪くなかった。笑った口の形が分かる声音で、言葉を返す。
「おかえり」
堪えきれなくなってけらけらと笑いながら台所に入り、夕食の準備に取りかかった。アルヴァも近付いてきたので、手を洗わせて野菜の皮むきを押し付けた。
彼は文句も言わず、作業に取りかかる。最終的には綺麗にできあがるのだが、両手を使ってばりばりと皮を大胆に剥いていく。
アルヴァの手伝いもあってすぐに料理はできあがり、つまみと酒と共にテーブルに並べた。彼が訪れるようになって増やした椅子に腰掛け、グラスを持ち上げる。
「乾杯」
お互いに好きな酒を入れたグラスを打ち鳴らし、口に含む。できあがった料理を皿に取り分けると、アルヴァは大口で食べ始めた。
テーブルの上には隙間なく色とりどりの皿が並んでおり、用意しすぎたかと思っていたが、流石に大量の魔力を持つだけあって彼も大食らいだ。実験もあった所為か、酒もほどほどに食事ばかりが口に消えていく。
「見ていて気持ちいい食べっぷりだなぁ」
「そうか? 自分で作ると見映えは気にしないから、こうやって鮮やかな盛り付けの食事が美味しそうに見えてしまって」
鮮やか、と彼は言うが、ソースの色味を気にしてみたりとか、乾燥させた香草をちぎって載せたりだとか、ちょっと付け合わせの野菜を切って盛っているだけだ。
確かにアルヴァの作る朝食はこざっぱりしている。栄養を取ることが彼の食事の目的であることが伝わってくる皿だ。
俺はゆったりと食事を進め、持ち上げたグラスの酒を明かりに透かす。
「はは。そりゃありがとう。鮮やかに盛り付けるよう気にしてるっていうより、自分がなんでこの色の組み合わせを綺麗に思うんだろ、って試行錯誤しちゃうだけなんだけどな」
「なんで、綺麗だと思う、か……」
俺の言葉を反復し、アルヴァは皿の上にじっと見入った。素直に考えているらしい彼の様子が面白く、黙って酒のつまみにした。
流石に料理が冷えると思ったのか、諦めてまた食べ始めたが、それでも何か考えているようである。
「……色の組み合わせもそうなんだろうが。俺は、ディノが熱心に作っていたから、綺麗なものがもっと輝いて見えたし、口に入れるのが勿体なく思えてくる」
「一遍とんでもない食事を作ってやろうか?」
「俺はどこまで美味しいといえるんだろうな」
作らないよ、と冗談を訂正するが、アルヴァは逆に試してほしいようでもあった。二人して食べていると食事の皿はあらかた片付き、つまみを片手に酒を嗜む。
つい魔術の話になってしまうと、居間から魔術書をテーブルに積み上げ、酒と話だけで時間が面白いように進む。酔っている筈なのに、反射のようにアルヴァの口は流暢に魔術を語った。
それでも、頭の働きがにぶいのか、ちょくちょく細かな式を忘れては首を傾げている。
「アルヴァは、飲んでもあんまり変わらないなぁ」
そこそこ飲んでるはずなのに顔色に変化はなく、眺めていても酔っているのか分からない。へらり、と笑いながら言うと、アルヴァは意外そうに声を漏らした。
「そうか? 自分ではずいぶん酔っていると思うんだが」
「んー。分かんないや」
つまみの皿を差し出すと、指先で摘まんで大人しく口に運ぶ。魔術の話ができなくなるくらい頭に酔いが回り始めると、俺はつまみの好き嫌いだけを話すようになった。
とりとめのない、明日になれば忘れているような話にも、アルヴァは真面目に相槌を打つ。酔ってもその面倒見の良さに変化はないようだった。
境界を越えたのは、かなり酒が進んだ頃だった。
俺はくたりとテーブルに頬を付け、もういらない、と中身が残ったグラスをアルヴァに押しやる。アルヴァはグラスを持ち上げ、喉に流し込んだ。
グラスがテーブルに置かれると、彼が立ち上がった音がした。頬と木肌の間に掌が差し込まれ、肩を抱かれて身体を起こされる。
「風呂に入りたいか?」
「…………んー。歯だけ磨く」
そう言うとアルヴァは俺を支えたまま洗面台に向かった。彼も歯を磨きたいだろう、と棚から新品の歯刷子を差し出すと、礼と共に受け取って隣で磨き始めた。
口をすすぎ、ついでに顔も洗って一息つく。その瞬間、頭がぐらりと傾いだ。今日は風呂は止めておいた方が良さそうだ。
「アルヴァ……風呂に入りたいなら沸かそうか?」
「いや。俺もそこそこ飲んだから、明日になったら入るつもりだ」
「そか。じゃベッド行こ」
俺の言葉に、アルヴァは目を見開く。酒でも染まらなかった肌が染まったように見えて、ぱちぱちと瞬きをした。
彼はいちど目を閉じると、やれやれ、と言いたげに俺の肩を抱く。
「そんなこと言っていると、また事故を起こすぞ」
「また……?」
首を傾げるついでにもたれ掛かりつつ見上げると、ふい、とアルヴァに顔を逸らされた。覗き込むように身体を傾けるが、抱き寄せられて寝室に誘導される。
部屋に入ると俺をベッドに座らせ、換気をしに窓辺に歩いていった。窓から入る風は冷たく、部屋の空気が入れ替わるとアルヴァは窓を閉めてしまう。
俺は戸棚に近付き、寝間着を持ち上げた。ローブを脱ぎ、シャツの釦を外そうと手を掛ける。だが、力の入らない指はもつれ、ゆったりと指先が絡まった。
部屋の中央で立ち尽くすアルヴァに声を掛ける。
「なあ。脱がせ……」
がた、と酔いのためか、アルヴァが脚を縺れさせて床で音を立てた。俺が寝間着に着替えたいんだと服を振ると、慌てて近寄ってくる。
釦が、と言うと、俺よりも正確に動く指が釦を外してくれて、シャツを脱ぐのも手伝ってくれた。ついでに腕を上げてみると、寝間着の袖を通してくれる。流石に下は自分で履いたが、寝る体勢は整った。
アルヴァの服を見た俺は戸棚によろよろと近づき、彼でも着られそうな古い服を取り出す。はい、と手渡すと、きょとんとした視線が服に落ちた。
「服、皺になるから着替えたら?」
「………………いや、その」
「もう。俺ねむいから、早く着替えて」
「わ、分かった」
アルヴァはローブを脱ぎ、俺が脱ぎ捨てた服と共に畳んで置くと、渡した服に着替えた。結い紐を解いた髪が肩を滑って広がる。手足の長さが違う所為で裾が足りていないが、寝るのには十分だろう。
俺は満足して頷き、まだ戸惑っているアルヴァの腕を引いて布団に入った。二人で入った布団は徐々に暖かくなっていく。
布団の中で相手の腕に触れると、見知った魔力との境界が崩れる。
「ディノ、魔力が……」
「へへ。混ざっちゃうなあ」
魔力が混ざること自体は心地よかったが、どこか物足りない。本能に、もっと深く混ざった時の記憶が刻みつけられているようだった。
口元に甘ったるい蜜でも垂らされたかのように唾液が溢れ、ごくり、と飲み込んだ。
皮膚を触れ合わせてこれだけ心地いいのなら、粘膜同士が触れたあの夜は、どれだけ濃密に混ざったんだろう。
その胸に潜り込んで、首筋に擦り寄った。少しだけでも触れる場所を増やせるように、皮膚を重ねた。
訪れる眠気と共に、物足りなさが胸を掻く。
そっと背に回る腕が、服の上から優しく重なるのに苛立った。この腕が服を剥いでくれなければ、身体を重ねることはできない。
「……………………」
あれから、一度も抱こうとしてくれない。一度もキスしてくれない。最近は、結婚しよう、とも言わなくなった。
過ちを犯した一夜が熱だったのなら、その熱はいずれ冷める。彼が興味を失ったなら、俺はどうやって引き留めればいいのだ。
まだ俺のことを抱きたいか、なんて聞けるはずもなく、自棄になって眠気に身を委ねた。
「アルヴァ、みんな帰ったの?」
「……ああ。課長が伸びた時間を記録しておいてくれ、と言っていた」
「はーい」
結界の改善の余波で皆が浮き足立ち、火が点いた結果、終業の鐘と共に早々と帰って行ったらしい。帰ってすぐ魔術書が読みたい、つい帰宅が早足になる理由が伝わってくるようだ。
仕事道具を仕舞って規定の場所に時間を書き入れ、アルヴァを振り返る。
「アルヴァもまだ仕事?」
「いや。もう切り上げる」
そう言った割には、すぐに魔術機を消してしまった。時間を記録する箇所には、終業の時間が既に書き入れてある。
帰り支度をしているアルヴァに近寄って、顔を見上げた。
「今日、うち来ない?」
「いいのか?」
「うん。明日休みだしさ、飲もうよ」
泊まってもいいよ、と言えるように予防線を張った。控えめに飲んで、酔って口を滑らせた体で頷くことならできるはずだ。
急いで鞄に持ち帰る荷物を詰め、待っているアルヴァの元に駆けていく。職場の扉に結界を張り、魔術的な鍵を掛けた。
二人で並んで王宮を抜け、門番に挨拶をして帰路に就く。
帰り道の中で飲み屋が多い道を通り、近くにある酒屋で酒とつまみを仕入れた。食事は簡単なものを用意することにして、そのまま帰り道に戻る。
俺の家の方が遠いが、だらだらと酒の話をしながら歩いているとすぐに家に着いた。鍵を開け、暗い部屋の照明を灯す。
「ただいま」
冗談のような響きを持った言葉が聞こえたが、響きは悪くなかった。笑った口の形が分かる声音で、言葉を返す。
「おかえり」
堪えきれなくなってけらけらと笑いながら台所に入り、夕食の準備に取りかかった。アルヴァも近付いてきたので、手を洗わせて野菜の皮むきを押し付けた。
彼は文句も言わず、作業に取りかかる。最終的には綺麗にできあがるのだが、両手を使ってばりばりと皮を大胆に剥いていく。
アルヴァの手伝いもあってすぐに料理はできあがり、つまみと酒と共にテーブルに並べた。彼が訪れるようになって増やした椅子に腰掛け、グラスを持ち上げる。
「乾杯」
お互いに好きな酒を入れたグラスを打ち鳴らし、口に含む。できあがった料理を皿に取り分けると、アルヴァは大口で食べ始めた。
テーブルの上には隙間なく色とりどりの皿が並んでおり、用意しすぎたかと思っていたが、流石に大量の魔力を持つだけあって彼も大食らいだ。実験もあった所為か、酒もほどほどに食事ばかりが口に消えていく。
「見ていて気持ちいい食べっぷりだなぁ」
「そうか? 自分で作ると見映えは気にしないから、こうやって鮮やかな盛り付けの食事が美味しそうに見えてしまって」
鮮やか、と彼は言うが、ソースの色味を気にしてみたりとか、乾燥させた香草をちぎって載せたりだとか、ちょっと付け合わせの野菜を切って盛っているだけだ。
確かにアルヴァの作る朝食はこざっぱりしている。栄養を取ることが彼の食事の目的であることが伝わってくる皿だ。
俺はゆったりと食事を進め、持ち上げたグラスの酒を明かりに透かす。
「はは。そりゃありがとう。鮮やかに盛り付けるよう気にしてるっていうより、自分がなんでこの色の組み合わせを綺麗に思うんだろ、って試行錯誤しちゃうだけなんだけどな」
「なんで、綺麗だと思う、か……」
俺の言葉を反復し、アルヴァは皿の上にじっと見入った。素直に考えているらしい彼の様子が面白く、黙って酒のつまみにした。
流石に料理が冷えると思ったのか、諦めてまた食べ始めたが、それでも何か考えているようである。
「……色の組み合わせもそうなんだろうが。俺は、ディノが熱心に作っていたから、綺麗なものがもっと輝いて見えたし、口に入れるのが勿体なく思えてくる」
「一遍とんでもない食事を作ってやろうか?」
「俺はどこまで美味しいといえるんだろうな」
作らないよ、と冗談を訂正するが、アルヴァは逆に試してほしいようでもあった。二人して食べていると食事の皿はあらかた片付き、つまみを片手に酒を嗜む。
つい魔術の話になってしまうと、居間から魔術書をテーブルに積み上げ、酒と話だけで時間が面白いように進む。酔っている筈なのに、反射のようにアルヴァの口は流暢に魔術を語った。
それでも、頭の働きがにぶいのか、ちょくちょく細かな式を忘れては首を傾げている。
「アルヴァは、飲んでもあんまり変わらないなぁ」
そこそこ飲んでるはずなのに顔色に変化はなく、眺めていても酔っているのか分からない。へらり、と笑いながら言うと、アルヴァは意外そうに声を漏らした。
「そうか? 自分ではずいぶん酔っていると思うんだが」
「んー。分かんないや」
つまみの皿を差し出すと、指先で摘まんで大人しく口に運ぶ。魔術の話ができなくなるくらい頭に酔いが回り始めると、俺はつまみの好き嫌いだけを話すようになった。
とりとめのない、明日になれば忘れているような話にも、アルヴァは真面目に相槌を打つ。酔ってもその面倒見の良さに変化はないようだった。
境界を越えたのは、かなり酒が進んだ頃だった。
俺はくたりとテーブルに頬を付け、もういらない、と中身が残ったグラスをアルヴァに押しやる。アルヴァはグラスを持ち上げ、喉に流し込んだ。
グラスがテーブルに置かれると、彼が立ち上がった音がした。頬と木肌の間に掌が差し込まれ、肩を抱かれて身体を起こされる。
「風呂に入りたいか?」
「…………んー。歯だけ磨く」
そう言うとアルヴァは俺を支えたまま洗面台に向かった。彼も歯を磨きたいだろう、と棚から新品の歯刷子を差し出すと、礼と共に受け取って隣で磨き始めた。
口をすすぎ、ついでに顔も洗って一息つく。その瞬間、頭がぐらりと傾いだ。今日は風呂は止めておいた方が良さそうだ。
「アルヴァ……風呂に入りたいなら沸かそうか?」
「いや。俺もそこそこ飲んだから、明日になったら入るつもりだ」
「そか。じゃベッド行こ」
俺の言葉に、アルヴァは目を見開く。酒でも染まらなかった肌が染まったように見えて、ぱちぱちと瞬きをした。
彼はいちど目を閉じると、やれやれ、と言いたげに俺の肩を抱く。
「そんなこと言っていると、また事故を起こすぞ」
「また……?」
首を傾げるついでにもたれ掛かりつつ見上げると、ふい、とアルヴァに顔を逸らされた。覗き込むように身体を傾けるが、抱き寄せられて寝室に誘導される。
部屋に入ると俺をベッドに座らせ、換気をしに窓辺に歩いていった。窓から入る風は冷たく、部屋の空気が入れ替わるとアルヴァは窓を閉めてしまう。
俺は戸棚に近付き、寝間着を持ち上げた。ローブを脱ぎ、シャツの釦を外そうと手を掛ける。だが、力の入らない指はもつれ、ゆったりと指先が絡まった。
部屋の中央で立ち尽くすアルヴァに声を掛ける。
「なあ。脱がせ……」
がた、と酔いのためか、アルヴァが脚を縺れさせて床で音を立てた。俺が寝間着に着替えたいんだと服を振ると、慌てて近寄ってくる。
釦が、と言うと、俺よりも正確に動く指が釦を外してくれて、シャツを脱ぐのも手伝ってくれた。ついでに腕を上げてみると、寝間着の袖を通してくれる。流石に下は自分で履いたが、寝る体勢は整った。
アルヴァの服を見た俺は戸棚によろよろと近づき、彼でも着られそうな古い服を取り出す。はい、と手渡すと、きょとんとした視線が服に落ちた。
「服、皺になるから着替えたら?」
「………………いや、その」
「もう。俺ねむいから、早く着替えて」
「わ、分かった」
アルヴァはローブを脱ぎ、俺が脱ぎ捨てた服と共に畳んで置くと、渡した服に着替えた。結い紐を解いた髪が肩を滑って広がる。手足の長さが違う所為で裾が足りていないが、寝るのには十分だろう。
俺は満足して頷き、まだ戸惑っているアルヴァの腕を引いて布団に入った。二人で入った布団は徐々に暖かくなっていく。
布団の中で相手の腕に触れると、見知った魔力との境界が崩れる。
「ディノ、魔力が……」
「へへ。混ざっちゃうなあ」
魔力が混ざること自体は心地よかったが、どこか物足りない。本能に、もっと深く混ざった時の記憶が刻みつけられているようだった。
口元に甘ったるい蜜でも垂らされたかのように唾液が溢れ、ごくり、と飲み込んだ。
皮膚を触れ合わせてこれだけ心地いいのなら、粘膜同士が触れたあの夜は、どれだけ濃密に混ざったんだろう。
その胸に潜り込んで、首筋に擦り寄った。少しだけでも触れる場所を増やせるように、皮膚を重ねた。
訪れる眠気と共に、物足りなさが胸を掻く。
そっと背に回る腕が、服の上から優しく重なるのに苛立った。この腕が服を剥いでくれなければ、身体を重ねることはできない。
「……………………」
あれから、一度も抱こうとしてくれない。一度もキスしてくれない。最近は、結婚しよう、とも言わなくなった。
過ちを犯した一夜が熱だったのなら、その熱はいずれ冷める。彼が興味を失ったなら、俺はどうやって引き留めればいいのだ。
まだ俺のことを抱きたいか、なんて聞けるはずもなく、自棄になって眠気に身を委ねた。
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