77 / 101
暗闇の中の建物
十一
しおりを挟む「俺は闇。思い出してごらん、沙耶。今は無理でも君は思いだして、そしてわかるよ」
彼はふわりと私に笑い頭をゆったり撫でてくる。
「此処が何で君が何か──」
それは呪文のように私の耳にこびりついた。
「君の記憶の中にそれはあるはずだ。答えは既に持ってる、俺は二度同じ事は言わない主義なんだ。答えは記憶の中……」
「私の─────」
彼は目を閉じ、すぐに匠を見据える。
「君、沙耶の恋人?」
突然の問いに匠は眉をしかめつつもこくりと頷いて見せた。
「沙耶を頼む。そこの扉を開けて外に出て」
「は?ちょっと待てよ、何が何だか───」
シッと人差し指を口に当てる彼。
その瞳の中で、漆黒の瞳が揺れた。
「ゆっくり話してる時間が無くなっちゃった、いい?俺の話をよく聞いて」
彼は神妙な面持ちで静かにこう言う。
「影がくる。深い影だ」
影だったり闇だったり…此処はどんなところなんだろう。
とにかく闇は目の前の彼で、そして────
恐らく此方に敵意はないと言うこと。
私のことを知っていて、そして助けてくれようとしてる。
「信用するな。彼は俺と同じ姿をしてる。今のところ”やみ”には俺と奴しかいない」
早口に彼はまくしたてる。
「今後、俺の姿を見ても気安く声をかけるな」
その瞳は真剣で、私は静かに頷いた。
匠も同様。
「何かあったらこれを使って電話してきて」
ポイッと乱暴にも投げ渡されたのは真っ黒な携帯。
「此方からも連絡する」
まくしたてて彼は早足に部屋を出て行ってしまった。
最後に振り返ったその瞳は闇が揺らめいていて、彼は例えるなら本当に闇が等しいのだと思った。
投げ渡された携帯を手に、私は匠と屋敷を後にする。
ひとまず、味方がいることに私達は安堵した。
同じ闇。
もう匠の姿も肉眼でとらえられないけど、不安はあまりない。
疲れもないのは闇と名乗った彼のおかげだろう。
思い出したい。
消えてしまった記憶を─────────。
──────
───二人が出て行くのを確認する事もなく闇は影と対峙した。
同じ姿。
同じ物から産まれた同じ産物。
それと対峙し、その瞳を揺らめかせた。
10
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/3:『かがみのむこう』の章を追加。2025/12/10の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/2:『へびくび』の章を追加。2025/12/9の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/1:『はえ』の章を追加。2025/12/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/11/30:『かべにかおあり』の章を追加。2025/12/7の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる