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忘れたはずの記憶
八
しおりを挟む村を抜けて森の中をさまよい歩く。
真っ暗だ。
生い茂る木々のせいで月明かりは伺えない。
言いしれぬ不安を抱えながら、私は一人小走りになりながら見えぬ森をさまよった。
そんな中、ある一歩を踏み出したときだった。
暗闇の中でも僅かに伺えていた景色が一変して真っ黒に染まった。
目を閉じているわけでもなく、ましてや目隠しをされてるわけでもなく、本当に真っ暗な闇。
うっすらと見えていたはずの手でさえも伺えない。
どくん…どくん─────
せわしなく慌ただしく鼓動する心臓。
こんな暗闇の森を無闇に歩き回ることもできず、私はぴたりと歩みを止めた。
それと同時に溢れてくる涙。
押し寄せてくる不安と恐怖。
「ふぇぇ……」
声を押し殺してその場に座り込む。
膝を抱えて、顔を埋めて、少しでも丸くなって私は泣いた。
「ふっ……えっ…うぅ…」
漏れる嗚咽を残る自制心で止めようとするが、それは虚しく漏れ、そして森に響きわたる。
それでも必死に声を押し殺していたら唐突に話しかけられる。
「……迷い子って君のこと?」
ビクッと身体が飛び跳ねた。
反射的に顔を上げて見渡しても、闇ばかりで草木さえ伺えない。
「あぁ。君っぽいね」
くつりと声は笑った。
それにカタカタと身体が震える。
見えない恐怖。
それと同時に思い出す男性の無惨な姿。
突きつけられる現実。
─────自分は鬼とやらに追われてるのだと。
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