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第1章:奴隷契約編
012 今必要なもの-クラスメイトside
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「……ふぅ……」
脱衣所にて、湿った髪をタオルで拭きながら、柚子は大きく息をつく。
食事をとった後、彼女はクラインと明日の捜索について色々話し合いを行っていた為、入浴の時間が他の生徒達より遅かったのだ。
誰もいない広い脱衣所にて、彼女は自身の髪を拭きながら、考える。
今はまだ、東雲達が失踪する前程ではないが、クラスはある程度の明るさを保っている。
だが、それはあくまで、一人残っている生存者の捜索という直近の目標に意識が向いているに過ぎない。
明日生存者の捜索を終えた時、自分達は嫌でも、クラスメイト三人の死に向き合わなければならなくなる。
四人が死んだかもしれないとなった時の空気を考えると、その時が来た時、多くの生徒が戦えなくなる可能性が高い。
──その時、学級委員長である私は、皆を奮い立たせることが出来るだろうか……。
髪を乾かす為の魔道具を手に取りながら、柚子は考える。
教師がこの場にいない今、学級委員長である柚子が、皆を率いるリーダーのような存在である。
生徒達がクラスメイトの死を前にした時、自分に出来ることは何があるだろう。
考えて気付く。……自分の無力さに。
顔を上げると、鏡に自分の姿が映っていた。
母親譲りの幼い見た目。実年齢より低く見られる要因である、童顔と低身長。
髪と目は、左手の薬指に付けた指輪の影響で金色に染まっている。
柚子はジッと鏡を見つめたまま、魔道具を使って髪を乾かし始めた。
一刻も早く日本に帰らなければならない身としては、戦意を失ったクラスメイトを鼓舞することは必須。
しかし、その具体的な策は思いつかない。
自分一人で戦うという手も無くはないが、如何せん柚子の武器は盾であるために、その思惑は叶わない。
せめて、もう一人……剣となる存在がいなければならない。
──……剣……か……。
そこで柚子の脳裏に、猪瀬こころの顔が過る。
次いで、昨日こころと友子が話していたのを思い出す。
グループを作る時にこころは否定していたが、恐らく二人は友人関係にあると見て良いだろう。
──もしも生き残っている生存者が猪瀬さんじゃなかったら、最上さんは相当傷付くだろうな。
そこまで考えて、柚子は首を横に振った。
──もしも猪瀬さんが生き残っていれば、最低でも最上さんは再起可能。
一瞬、そんなことを考えてしまった自分を、恐ろしく思った。
柚子は自分の額に手を当てて、息をつく。
ほんの一瞬でも人の命に順位を付け、軽視した。
そんな自分を嫌悪しつつ、柚子は魔道具を置いてあった場所に戻し、櫛で自分の髪を梳いた。
──人の命に優劣なんて無い。
──死んでもいい命なんて無い。
──こんな当たり前のことを忘れるなんて、この世界での生活に毒されたのかな。
柚子はそんな風に考えながら、櫛を置いた。
これ以上考えても答えなど出ないだろう、と考えた彼女は小さく溜息をつき、脱衣所を後にした。
もう時間も遅いし、明日に備えて寝てしまおうか……などと考えながら廊下を歩いていた時、柚子は中庭に出る扉が半開きになっていることに気付いた。
──誰かが中庭に出ている……?
「……一体誰が……」
小さく呟きながら、柚子は扉に手を掛け、ゆっくりと開ける。
すると、中庭に出てすぐの所にあるベンチに、同じグループの友子が座っていることに気付いた。
「最上さん……こんな所で何してるの?」
「……山吹さん……?」
柚子に声を掛けられ、友子はそう答えながら顔を上げる。
前髪で目元が隠れているために分かりにくいが、声色から、驚いているような印象を受けた。
友子はしばらく柚子を見ていたが、少しして、また目を伏せた。
それに、柚子は小さく溜息をついた。
「……猪瀬さんが心配?」
「な、なんでそれを……!」
柚子の言葉にそう答えてしまい、友子はすぐに自分の口を手で押さえた。
それを見た柚子は目を丸くしたが、すぐに小さく笑みを浮かべ、友子の隣に座った。
「そりゃあ、昨日話してるの見たし……最上さんも猪瀬さんも、仲良くない人とわざわざこんな所で喋るタイプの人でもないでしょ? だから、仲良いんだろうなぁって思って」
「……」
「……二人は……友達、なんだよね?」
質問というよりは、確認するような口調で、柚子は尋ねる。
それに、友子はビクッと肩を震わせたが、すぐに小さく頷いた。
彼女の反応に、柚子は「そっか」と呟くように言った。
「ごめんね。ホラ、グループ作る時に猪瀬さんが否定したから、どうなんだろうって思って」
「……あの時は、友達じゃなかった……から……」
かき消えそうな声で言う友子に、柚子は目を丸くして「そうなの?」と間の抜けたような声で聞いた。
それに、友子はコクッと頷き、続けるように口を開いた。
「昨日……ここで、友達になった、から……」
「へぇ……昨日……」
「それで……また明日って、別れて……今日もまた、ここで話そうと、思ってて……」
どんどん声が小さくなっていく友子に、柚子は居たたまれなくなって、ソッと目を逸らした。
すると、ポツポツと、液体が落下するような音がした。
その音に視線を向けた柚子は、僅かに目を丸くした。
なぜならそこでは……友子が、涙を流していたから。
「わたッ……私のせいでッ……こころッ、ちゃんがッ……」
込み上げてきているであろう嗚咽やしゃっくりを堪えながら、友子はそう口にする。
それに、柚子は慰めようと友子の背中に手を伸ばそうとして、止める。
ここで必要なのは、慰めの言葉ではないと判断したからだ。
柚子は少し考えて、口を開く。
「……まだ、猪瀬さんが死んだとは限らないでしょ?」
その言葉に、友子はハッと目を見開いた。
バッと顔を上げる友子に、柚子は真剣な表情で続けた。
「まだ一人生き残ってる。……それが猪瀬さんの可能性は、ゼロじゃない」
「……こころちゃんが……」
「友達の最上さんが信じなくてどうするの」
その言葉に、友子はクッと唇を噛みしめ、すぐに涙を拭う。
しかし長い前髪が邪魔なようで、少し手こずっていた。
柚子はそれに苦笑しつつ、ポケットから、昼間髪を纏めるのに使っているヘアピンを取り出した。
「最上さん、こっち向いて」
「……?」
不思議そうな表情を浮かべる友子の頬に手を添え、もう片方の手で友子の前髪をヘアピンで留める。
……座高ですら少し身長差があったので、少し背伸びをすることになるが。
しかし、一つのヘアピンでは、半分程しか纏めることが出来なかった。
それに柚子がもう一つのヘアピンを取り出すのを見て、友子は咄嗟に柚子の手首を掴んで止めさせる。
柚子が顔を上げると、友子は少し間を置いてから、小さく笑った。
「もう一個は……自分で付けても、良いかな?」
「……良いよ」
友子の言葉に、柚子はそう言って、ヘアピンを差し出した。
それを受け取った友子は、余った前髪をヘアピンで留めた。
今まで前髪によって狭かった視界が突然明るくなったからか、友子は僅かに目を丸くした。
しかし、すぐにどこか少し不安そうな表情を浮かべながら、柚子を見た。
「へ……変じゃ、ないかな?」
「全然変じゃないよ。……凄く似合ってる」
柚子の言葉に、友子は「そっか」と呟き、柔らかく笑う。
それに柚子はフッと優しく笑み、続けるように口を開く。
「でも、ちょうど良かったんじゃない? 明日の捜索、前髪が無い方が見つけやすいでしょ」
「あっ、そっか……でも、山吹さんは、良いの? ピン借りちゃって……」
「平気だよ。予備持ってるから」
「そう、なんだ……良かった……」
安堵した表情で言う友子に、柚子は笑い返す。
それから立ち上がり、友子に体を向けて口を開いた。
「ホラ。もう消灯時間になるし、帰ろう」
「あっ……うん。そうだね」
柚子の言葉に頷き、友子はベンチから立ち上がる。
それから、二人は部屋に向かって歩き出した。
脱衣所にて、湿った髪をタオルで拭きながら、柚子は大きく息をつく。
食事をとった後、彼女はクラインと明日の捜索について色々話し合いを行っていた為、入浴の時間が他の生徒達より遅かったのだ。
誰もいない広い脱衣所にて、彼女は自身の髪を拭きながら、考える。
今はまだ、東雲達が失踪する前程ではないが、クラスはある程度の明るさを保っている。
だが、それはあくまで、一人残っている生存者の捜索という直近の目標に意識が向いているに過ぎない。
明日生存者の捜索を終えた時、自分達は嫌でも、クラスメイト三人の死に向き合わなければならなくなる。
四人が死んだかもしれないとなった時の空気を考えると、その時が来た時、多くの生徒が戦えなくなる可能性が高い。
──その時、学級委員長である私は、皆を奮い立たせることが出来るだろうか……。
髪を乾かす為の魔道具を手に取りながら、柚子は考える。
教師がこの場にいない今、学級委員長である柚子が、皆を率いるリーダーのような存在である。
生徒達がクラスメイトの死を前にした時、自分に出来ることは何があるだろう。
考えて気付く。……自分の無力さに。
顔を上げると、鏡に自分の姿が映っていた。
母親譲りの幼い見た目。実年齢より低く見られる要因である、童顔と低身長。
髪と目は、左手の薬指に付けた指輪の影響で金色に染まっている。
柚子はジッと鏡を見つめたまま、魔道具を使って髪を乾かし始めた。
一刻も早く日本に帰らなければならない身としては、戦意を失ったクラスメイトを鼓舞することは必須。
しかし、その具体的な策は思いつかない。
自分一人で戦うという手も無くはないが、如何せん柚子の武器は盾であるために、その思惑は叶わない。
せめて、もう一人……剣となる存在がいなければならない。
──……剣……か……。
そこで柚子の脳裏に、猪瀬こころの顔が過る。
次いで、昨日こころと友子が話していたのを思い出す。
グループを作る時にこころは否定していたが、恐らく二人は友人関係にあると見て良いだろう。
──もしも生き残っている生存者が猪瀬さんじゃなかったら、最上さんは相当傷付くだろうな。
そこまで考えて、柚子は首を横に振った。
──もしも猪瀬さんが生き残っていれば、最低でも最上さんは再起可能。
一瞬、そんなことを考えてしまった自分を、恐ろしく思った。
柚子は自分の額に手を当てて、息をつく。
ほんの一瞬でも人の命に順位を付け、軽視した。
そんな自分を嫌悪しつつ、柚子は魔道具を置いてあった場所に戻し、櫛で自分の髪を梳いた。
──人の命に優劣なんて無い。
──死んでもいい命なんて無い。
──こんな当たり前のことを忘れるなんて、この世界での生活に毒されたのかな。
柚子はそんな風に考えながら、櫛を置いた。
これ以上考えても答えなど出ないだろう、と考えた彼女は小さく溜息をつき、脱衣所を後にした。
もう時間も遅いし、明日に備えて寝てしまおうか……などと考えながら廊下を歩いていた時、柚子は中庭に出る扉が半開きになっていることに気付いた。
──誰かが中庭に出ている……?
「……一体誰が……」
小さく呟きながら、柚子は扉に手を掛け、ゆっくりと開ける。
すると、中庭に出てすぐの所にあるベンチに、同じグループの友子が座っていることに気付いた。
「最上さん……こんな所で何してるの?」
「……山吹さん……?」
柚子に声を掛けられ、友子はそう答えながら顔を上げる。
前髪で目元が隠れているために分かりにくいが、声色から、驚いているような印象を受けた。
友子はしばらく柚子を見ていたが、少しして、また目を伏せた。
それに、柚子は小さく溜息をついた。
「……猪瀬さんが心配?」
「な、なんでそれを……!」
柚子の言葉にそう答えてしまい、友子はすぐに自分の口を手で押さえた。
それを見た柚子は目を丸くしたが、すぐに小さく笑みを浮かべ、友子の隣に座った。
「そりゃあ、昨日話してるの見たし……最上さんも猪瀬さんも、仲良くない人とわざわざこんな所で喋るタイプの人でもないでしょ? だから、仲良いんだろうなぁって思って」
「……」
「……二人は……友達、なんだよね?」
質問というよりは、確認するような口調で、柚子は尋ねる。
それに、友子はビクッと肩を震わせたが、すぐに小さく頷いた。
彼女の反応に、柚子は「そっか」と呟くように言った。
「ごめんね。ホラ、グループ作る時に猪瀬さんが否定したから、どうなんだろうって思って」
「……あの時は、友達じゃなかった……から……」
かき消えそうな声で言う友子に、柚子は目を丸くして「そうなの?」と間の抜けたような声で聞いた。
それに、友子はコクッと頷き、続けるように口を開いた。
「昨日……ここで、友達になった、から……」
「へぇ……昨日……」
「それで……また明日って、別れて……今日もまた、ここで話そうと、思ってて……」
どんどん声が小さくなっていく友子に、柚子は居たたまれなくなって、ソッと目を逸らした。
すると、ポツポツと、液体が落下するような音がした。
その音に視線を向けた柚子は、僅かに目を丸くした。
なぜならそこでは……友子が、涙を流していたから。
「わたッ……私のせいでッ……こころッ、ちゃんがッ……」
込み上げてきているであろう嗚咽やしゃっくりを堪えながら、友子はそう口にする。
それに、柚子は慰めようと友子の背中に手を伸ばそうとして、止める。
ここで必要なのは、慰めの言葉ではないと判断したからだ。
柚子は少し考えて、口を開く。
「……まだ、猪瀬さんが死んだとは限らないでしょ?」
その言葉に、友子はハッと目を見開いた。
バッと顔を上げる友子に、柚子は真剣な表情で続けた。
「まだ一人生き残ってる。……それが猪瀬さんの可能性は、ゼロじゃない」
「……こころちゃんが……」
「友達の最上さんが信じなくてどうするの」
その言葉に、友子はクッと唇を噛みしめ、すぐに涙を拭う。
しかし長い前髪が邪魔なようで、少し手こずっていた。
柚子はそれに苦笑しつつ、ポケットから、昼間髪を纏めるのに使っているヘアピンを取り出した。
「最上さん、こっち向いて」
「……?」
不思議そうな表情を浮かべる友子の頬に手を添え、もう片方の手で友子の前髪をヘアピンで留める。
……座高ですら少し身長差があったので、少し背伸びをすることになるが。
しかし、一つのヘアピンでは、半分程しか纏めることが出来なかった。
それに柚子がもう一つのヘアピンを取り出すのを見て、友子は咄嗟に柚子の手首を掴んで止めさせる。
柚子が顔を上げると、友子は少し間を置いてから、小さく笑った。
「もう一個は……自分で付けても、良いかな?」
「……良いよ」
友子の言葉に、柚子はそう言って、ヘアピンを差し出した。
それを受け取った友子は、余った前髪をヘアピンで留めた。
今まで前髪によって狭かった視界が突然明るくなったからか、友子は僅かに目を丸くした。
しかし、すぐにどこか少し不安そうな表情を浮かべながら、柚子を見た。
「へ……変じゃ、ないかな?」
「全然変じゃないよ。……凄く似合ってる」
柚子の言葉に、友子は「そっか」と呟き、柔らかく笑う。
それに柚子はフッと優しく笑み、続けるように口を開く。
「でも、ちょうど良かったんじゃない? 明日の捜索、前髪が無い方が見つけやすいでしょ」
「あっ、そっか……でも、山吹さんは、良いの? ピン借りちゃって……」
「平気だよ。予備持ってるから」
「そう、なんだ……良かった……」
安堵した表情で言う友子に、柚子は笑い返す。
それから立ち上がり、友子に体を向けて口を開いた。
「ホラ。もう消灯時間になるし、帰ろう」
「あっ……うん。そうだね」
柚子の言葉に頷き、友子はベンチから立ち上がる。
それから、二人は部屋に向かって歩き出した。
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