命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

文字の大きさ
13 / 208
第1章:奴隷契約編

012 今必要なもの-クラスメイトside

しおりを挟む
「……ふぅ……」

 脱衣所にて、湿った髪をタオルで拭きながら、柚子は大きく息をつく。
 食事をとった後、彼女はクラインと明日の捜索について色々話し合いを行っていた為、入浴の時間が他の生徒達より遅かったのだ。
 誰もいない広い脱衣所にて、彼女は自身の髪を拭きながら、考える。

 今はまだ、東雲達が失踪する前程ではないが、クラスはある程度の明るさを保っている。
 だが、それはあくまで、一人残っている生存者の捜索という直近の目標に意識が向いているに過ぎない。
 明日生存者の捜索を終えた時、自分達は嫌でも、クラスメイト三人の死に向き合わなければならなくなる。
 四人が死んだかもしれないとなった時の空気を考えると、その時が来た時、多くの生徒が戦えなくなる可能性が高い。

 ──その時、学級委員長である私は、皆を奮い立たせることが出来るだろうか……。

 髪を乾かす為の魔道具を手に取りながら、柚子は考える。
 教師がこの場にいない今、学級委員長である柚子が、皆を率いるリーダーのような存在である。
 生徒達がクラスメイトの死を前にした時、自分に出来ることは何があるだろう。
 考えて気付く。……自分の無力さに。

 顔を上げると、鏡に自分の姿が映っていた。
 母親譲りの幼い見た目。実年齢より低く見られる要因である、童顔と低身長。
 髪と目は、左手の薬指に付けた指輪の影響で金色に染まっている。
 柚子はジッと鏡を見つめたまま、魔道具を使って髪を乾かし始めた。

 一刻も早く日本に帰らなければならない身としては、戦意を失ったクラスメイトを鼓舞することは必須。
 しかし、その具体的な策は思いつかない。
 自分一人で戦うという手も無くはないが、如何せん柚子の武器は盾であるために、その思惑は叶わない。
 せめて、もう一人……剣となる存在がいなければならない。

 ──……剣……か……。

 そこで柚子の脳裏に、猪瀬こころの顔が過る。
 次いで、昨日こころと友子が話していたのを思い出す。
 グループを作る時にこころは否定していたが、恐らく二人は友人関係にあると見て良いだろう。

 ──もしも生き残っている生存者が猪瀬さんじゃなかったら、最上さんは相当傷付くだろうな。

 そこまで考えて、柚子は首を横に振った。
 ──もしも猪瀬さんが生き残っていれば、最低でも最上さんは再起可能。
 一瞬、そんなことを考えてしまった自分を、恐ろしく思った。
 柚子は自分の額に手を当てて、息をつく。
 ほんの一瞬でも人の命に順位を付け、軽視した。
 そんな自分を嫌悪しつつ、柚子は魔道具を置いてあった場所に戻し、櫛で自分の髪を梳いた。

 ──人の命に優劣なんて無い。
 ──死んでもいい命なんて無い。
 ──こんな当たり前のことを忘れるなんて、この世界での生活に毒されたのかな。

 柚子はそんな風に考えながら、櫛を置いた。
 これ以上考えても答えなど出ないだろう、と考えた彼女は小さく溜息をつき、脱衣所を後にした。
 もう時間も遅いし、明日に備えて寝てしまおうか……などと考えながら廊下を歩いていた時、柚子は中庭に出る扉が半開きになっていることに気付いた。
 ──誰かが中庭に出ている……?

「……一体誰が……」

 小さく呟きながら、柚子は扉に手を掛け、ゆっくりと開ける。
 すると、中庭に出てすぐの所にあるベンチに、同じグループの友子が座っていることに気付いた。

「最上さん……こんな所で何してるの?」
「……山吹さん……?」

 柚子に声を掛けられ、友子はそう答えながら顔を上げる。
 前髪で目元が隠れているために分かりにくいが、声色から、驚いているような印象を受けた。
 友子はしばらく柚子を見ていたが、少しして、また目を伏せた。
 それに、柚子は小さく溜息をついた。

「……猪瀬さんが心配?」
「な、なんでそれを……!」

 柚子の言葉にそう答えてしまい、友子はすぐに自分の口を手で押さえた。
 それを見た柚子は目を丸くしたが、すぐに小さく笑みを浮かべ、友子の隣に座った。

「そりゃあ、昨日話してるの見たし……最上さんも猪瀬さんも、仲良くない人とわざわざこんな所で喋るタイプの人でもないでしょ? だから、仲良いんだろうなぁって思って」
「……」
「……二人は……友達、なんだよね?」

 質問というよりは、確認するような口調で、柚子は尋ねる。
 それに、友子はビクッと肩を震わせたが、すぐに小さく頷いた。
 彼女の反応に、柚子は「そっか」と呟くように言った。

「ごめんね。ホラ、グループ作る時に猪瀬さんが否定したから、どうなんだろうって思って」
「……あの時は、友達じゃなかった……から……」

 かき消えそうな声で言う友子に、柚子は目を丸くして「そうなの?」と間の抜けたような声で聞いた。
 それに、友子はコクッと頷き、続けるように口を開いた。

「昨日……ここで、友達になった、から……」
「へぇ……昨日……」
「それで……また明日って、別れて……今日もまた、ここで話そうと、思ってて……」

 どんどん声が小さくなっていく友子に、柚子は居たたまれなくなって、ソッと目を逸らした。
 すると、ポツポツと、液体が落下するような音がした。
 その音に視線を向けた柚子は、僅かに目を丸くした。
 なぜならそこでは……友子が、涙を流していたから。

「わたッ……私のせいでッ……こころッ、ちゃんがッ……」

 込み上げてきているであろう嗚咽やしゃっくりを堪えながら、友子はそう口にする。
 それに、柚子は慰めようと友子の背中に手を伸ばそうとして、止める。
 ここで必要なのは、慰めの言葉ではないと判断したからだ。
 柚子は少し考えて、口を開く。

「……まだ、猪瀬さんが死んだとは限らないでしょ?」

 その言葉に、友子はハッと目を見開いた。
 バッと顔を上げる友子に、柚子は真剣な表情で続けた。

「まだ一人生き残ってる。……それが猪瀬さんの可能性は、ゼロじゃない」
「……こころちゃんが……」
「友達の最上さんが信じなくてどうするの」

 その言葉に、友子はクッと唇を噛みしめ、すぐに涙を拭う。
 しかし長い前髪が邪魔なようで、少し手こずっていた。
 柚子はそれに苦笑しつつ、ポケットから、昼間髪を纏めるのに使っているヘアピンを取り出した。

「最上さん、こっち向いて」
「……?」

 不思議そうな表情を浮かべる友子の頬に手を添え、もう片方の手で友子の前髪をヘアピンで留める。
 ……座高ですら少し身長差があったので、少し背伸びをすることになるが。
 しかし、一つのヘアピンでは、半分程しか纏めることが出来なかった。
 それに柚子がもう一つのヘアピンを取り出すのを見て、友子は咄嗟に柚子の手首を掴んで止めさせる。
 柚子が顔を上げると、友子は少し間を置いてから、小さく笑った。

「もう一個は……自分で付けても、良いかな?」
「……良いよ」

 友子の言葉に、柚子はそう言って、ヘアピンを差し出した。
 それを受け取った友子は、余った前髪をヘアピンで留めた。
 今まで前髪によって狭かった視界が突然明るくなったからか、友子は僅かに目を丸くした。
 しかし、すぐにどこか少し不安そうな表情を浮かべながら、柚子を見た。

「へ……変じゃ、ないかな?」
「全然変じゃないよ。……凄く似合ってる」

 柚子の言葉に、友子は「そっか」と呟き、柔らかく笑う。
 それに柚子はフッと優しく笑み、続けるように口を開く。

「でも、ちょうど良かったんじゃない? 明日の捜索、前髪が無い方が見つけやすいでしょ」
「あっ、そっか……でも、山吹さんは、良いの? ピン借りちゃって……」
「平気だよ。予備持ってるから」
「そう、なんだ……良かった……」

 安堵した表情で言う友子に、柚子は笑い返す。
 それから立ち上がり、友子に体を向けて口を開いた。

「ホラ。もう消灯時間になるし、帰ろう」
「あっ……うん。そうだね」

 柚子の言葉に頷き、友子はベンチから立ち上がる。
 それから、二人は部屋に向かって歩き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

修復術師は物理で殴る ~配信に乱入したら大バズりしたので公式配信者やります~

樋川カイト
ファンタジー
ソロでありながら最高ランクであるSランク探索者として活動する女子高生、不知火穂花。 いつも通り探索を終えた彼女は、迷宮管理局のお姉さんから『公式配信者』にならないかと誘われる。 その誘いをすげなく断る穂花だったが、ひょんなことから自身の素性がネット中に知れ渡ってしまう。 その現実に開き直った彼女は、偶然知り合ったダンジョン配信者の少女とともに公式配信者としての人生を歩み始めるのだった。

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

【リクエスト作品】邪神のしもべ  異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!

石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。 その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。 一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。 幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。 そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。 白い空間に声が流れる。 『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』 話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。 幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。 金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。 そう言い切れるほど美しい存在… 彼女こそが邪神エグソーダス。 災いと不幸をもたらす女神だった。 今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...