命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

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第2章:火の心臓編

045 目的への近道-クラスメイトside

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 早朝に、グランル国から火の心臓が回収されたという話を聞いたクラインは、朝早くから生徒達を招集した。
 まだ生徒達の雰囲気はこの魔女関連の報告を受け止められる状態では無さそうだったが、流石にこれは、皆も知っておくべきだと判断したからだ。
 いつもの食事をする部屋に集められた生徒達に対し、クラインは、緊張した面持ちで口を開いた。

「皆様、朝早くから集まって頂き、誠にありがとうございます」
「そういう挨拶は良いです。それより、緊急事態ってなんですか?」

 クラインの言葉に、柚子が急かすようにそう言った。
 それに、クラインは「申し訳ございません」と小さく呟き、続けた。

「実は、先日……この城の近くにあるダンジョンに封印していた魔女が、失踪しました」
「失踪、って……」
「魔女が、外に出たってこと……?」

 クラインの言葉に、花鈴と真凛がそう続ける。
 二人の呟きを中心に、クラスメイト達は徐々にざわつき始める。
 それに、柚子がすぐに「皆、静かに」と凛とした声で言った。
 彼女の言葉に皆が静かになるのを確認すると、クラインは小さく息をつき、続けた。

「申し訳ございません。本当は、数日前から確認は出来ていたのですが……先日は色々あって、まだ皆様の心の整理が出来ていないと思い、報告を先延ばしにしてしまいました」
「……では、なぜ今、報告を……?」

 小さな声で尋ねる柚子に、クラインは一度口を噤み、ゆっくりと口を開いた。

「……先程、このフォークマン大陸の、グランルという国にあった心臓が……何者かによって破壊、もしくは回収されたという報告がありました」
「ッ……」

 クラインの言葉に、柚子は息を呑む。
 心臓を破壊、もしくは回収する為には、心臓の守り人を倒さなければならない。
 それが可能なのは、この世界では異世界から来た自分達……もしくは、ダンジョンに封印されていたと言う魔女しかいない。
 つまり、普通に考えて、グランル国の心臓は……──

「──魔女に……回収されたということ、ですか……?」
「えぇ、恐らく」

 重たい声で呟くクラインに、柚子は目を見開く。
 この状況は、クラインも予想外だった。
 魔女は不老不死の化け物とは言え、三百年もダンジョンに封印されていたのだ。
 三百年もの間に世界は変わり、魔女からすれば外は右も左も分からない未知の領域であるはず。
 オマケにダンジョンの中でまともに装備を整えることは不可能である為、魔女にとって未知の世界である外で、装備等を揃えなければならない。
 この短期間で装備調達から始まり、国を超えてグランル国まで行って心臓の回収をすることは、普通に考えれば不可能なのだ。

 そこまで考えて、クラインは頬を引きつらせた。
 ──いや……魔女となっている時点で、普通ではないか。

「では、急いで私達も心臓の破壊に……ッ」
「いえ、心臓が封印されているダンジョンは危険です。せめて、どれだけ譲歩しても……皆様のレベルが45を超えなければ……」

 クラインの言葉に、柚子は口を噤む。
 彼女と友子はダンジョンでの戦闘で、現在レベルは40を超えている。
 しかし、他のクラスメイトのレベルは、最近距離を取っている為に把握出来ていないのだ。

「……皆、レベルは……」

 柚子の言葉に、クラスメイト達は表情を曇らせ、静かに目を逸らす。
 それに、柚子は目を伏せた。
 ──……早く、日本に帰りたいのに……。
 ──これ以上、誰にも死んでほしくないのに……。

「少しでも早くレベルを上げられるように、私達も対策を考えます。それまでは、今まで通り、レベルアップに励んで下さい」

 クラインの言葉を皮切りに、その場は解散となり、室内に徐々にざわつきが戻っていく。
 圭達は少しでも早くレベルを上げる為か、すぐに部屋を出て行った。
 室内には、クライン、柚子、友子、花鈴、真凛が取り残された。
 クラインはそれに、何かを察したのか、フードを被り直して部屋を出て行った。
 真凛はそれを見送った後で、一度花鈴と顔を見合わせて頷き合い、柚子に顔を向けた。

「あのさ、柚子……!」
「最上さん、行こう」

 真凛の言葉を無視するように言って、柚子は友子を連れて部屋から出て行こうとする。
 それに、真凛は「待ってよ!」と言いながら、柚子の腕を掴んだ。
 突然腕を掴まれた柚子は目を見開くが、すぐにその目を細め、足を止める。

「……何?」

 真凛の方に振り向きながら、柚子は、訝しげな様子でそう聞き返した。
 彼女の反応に、真凛は腕を掴んだまま、ゆっくりと口を開いた。

「柚子が怒ってるのって、私達が……最上さんのイジメを、黙っていたからだよね」
「……別に怒ってない」
「怒ってるじゃん」

 横から割り込んだ花鈴の言葉に、柚子は言い返せず、静かに目を伏せる。
 すると、真凛は小さく息をついて、柚子の手を握る力を緩めた。

「……柚子は曲がったことが嫌いだから、私達がしたことが許せなかったんだよね。……イジメを見て見ぬフリするなんて、許せないから」
「……」
「ゆーちゃんにも、最上さんにも、謝って許されることじゃないのは分かってる。だから、許してとは言わない。でも……チャンスをくれないかな……?」
「「……チャンス?」」

 花鈴の言葉に、柚子と友子の声が重なった。
 それに花鈴は頷き、真凛と顔を見合わせた。
 それに真凛は頷き返し、柚子と友子に視線を向けて、口を開いた。

「今、私達の目的は、魔女の心臓の破壊。……そして、魔女の討伐。早くレベルアップして魔女を倒す力を得ることが、その目的への近道。……そうだよね?」
「……そう、だけど……」
「その為には、少しでも私達が協力することが大切だと思う。二人は私達のことを許せないかもしれないけど……日本に帰るまでは、協力しよう」

 真剣に、柚子の目を見つめながら、真凛は言う。
 それに、花鈴は友子に向き合って、「お願い」と言いながら頭を下げた。
 二人の言葉に、柚子と友子は困惑したような表情で、顔を見合わせた。
 しかし、すぐに柚子はフッと表情を緩めて真凛に視線を戻し、自分の腕を掴んでいる真凛の手に自分の手を添えた。

「うん。一緒に協力して、日本に帰ろう」
「……柚子……」
「最上さんは……それで良いかな?」

 柚子はそう言いながら、友子に視線を向けた。
 それに、花鈴はゆっくりと顔を上げて、友子を見つめる。
 途端に皆から注目されて驚いたのか、彼女は目を丸くした。
 しかし、すぐに表情を引き締め、ゆっくりと頷いた。

「うん。魔女を倒して……日本に帰ろう」

 友子の言葉に、他の三人は安堵したように笑みを浮かべた。
 室内に和やかな空気が流れるのを感じながら、友子は服の裾を静かに握り締めた。

 先程の言葉で、友子には、あえて言わなかった言葉がある。
 魔女を倒して……皆で、日本に帰ろう……と。
 なぜなら、友子にとっての皆には……こころも含まれるから。

 ──……この場所に、こころちゃんもいたなら……。
 叶いもしない僅かな欲望に、友子は唇を噛みしめる。
 その表情には影が掛かり、服の裾を握る手に力が籠る。

 その時、彼女の思考に、一瞬何かが引っ掛かった。
 一度出来たその引っ掛かりは徐々に広がっていき、巨大な疑問となって心の中に沈んでいく。
 彼女はすぐに服から手を離し、パッと顔を上げた。

「ごめん。私、ちょっとクラインさんに聞きたいことがあるから……三人は先に準備してきてよ」

 友子の言葉に、柚子は驚いたような表情で顔を上げた。
 しかし、すぐに笑みを浮かべ、「分かった」と答えた。
 それに、友子はすぐに部屋を出て、クラインを探した。

 クラインがいたのは、食事をとる部屋の隣にある、書斎のような部屋だった。
 彼はテーブルに数冊の本を広げており、何かを調べていた。
 友子が入って来るのを見ると、彼は顔を上げ、優しく微笑んだ。

「どうしましたか? 友子さん」
「……私達が倒そうとしている魔女って、禁忌を犯して、魔女と呼ばれるようになったんでしたっけ」

 友子の言葉に、クラインはどこか不思議そうな表情を浮かべながらも「そうですよ」と答えた。
 それに、友子は拳を強く握り締め、続けた。

「クラインさんは……魔女が、どんな禁忌を犯したのか、知ってますか?」
「……知っていますよ」

 その言葉に、友子は目を丸くする。
 彼女の様子に、クラインは椅子から立ち上がり、続けた。

「友子様は、知りたいのですか? 魔女の犯した禁忌を」
「……知りたいです」
「……なぜ?」

 そう聞き返したクラインの声に、若干ではあるが、トゲがあるのを感じた。
 友子はそれに怯みそうになるが、すぐに表情を引き締め、続けた。

「前に、ダンジョンに行って死んだメンバーの中には……私の大切な友達もいます」
「……ほぉ」
「この世界に来なければ、あの子が死ぬ必要は無かった。……私達がこの世界に来た理由となった魔女は、禁忌を犯さなければ、魔女にならなかった」

 友子はそう言いながら、クラインとの間にある机にバンッと両手を叩きつけた。
 ──魔女がいなければ、こころが死ぬことは無かった。
 それは、先程の思考の末に友子が導き出した、一つの答えだった。
 なぜ魔女が生まれたのか……せめて、その経緯を知りたいと、彼女は考えたのだ。
 友子はクラインの顔を見つめながら、続けた。

「なんで、あの子が死ななければならなかったのか……知りたいんです」
「……」
「教えて下さい。魔女はなぜ、どんな禁忌を犯して、魔女となったのか」

 友子の言葉に、クラインはしばらく考え込むような素振りを見せた。
 彼はフードを被り直し、ゆっくりと口を開いた。

「私も、魔女について、特別詳しいわけではありません。……なぜ、禁忌を犯したのかは知りませんが……どんな禁忌を犯したのかは、知っています」

 その言葉に、友子はハッと顔を上げた。
 彼女の反応に、クラインはソッと視線を逸らし、続けた。

「禁忌を犯した、というよりは……犯させられた、と言う方が、正しいかもしれませんね」
「えっ……?」

 聞き返す友子の顔を一瞥してから、クラインはどこか遠くを見つめながら、続けた。

「彼女の犯した禁忌は、死者蘇生。……魔女は三百年前に、一度死んでいるのですよ」

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