命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

文字の大きさ
51 / 208
第3章:水の心臓編

049 前途多難な喧嘩

しおりを挟む
「……相変わらず不味いわ」

 空も大分暗くなり、唯一の光源とも言える焚火を囲いながらの食事の場で、私の隣に腰かけているリートは不機嫌そうに言った。
 それに、私を挟む形で座っていたフレアは「贅沢言うなっての」と言いながら魔物の肉を刺した串を取り、固い肉を噛み千切った。
 しかし、リートが文句を言うのも分かる。
 魔物の肉なんて初めて食ったが、正直二度と食べたくない味だ。
 固いし、焼いてもなんか臭いし、不味いし。
 ていうか、この肉はひたすら固い。食ったことは無いが、なんかゴムみたいな歯ごたえだ。
 味や匂いも相まって、なんていうか、焼いたゴムを食っている感覚がする。

「……フレアはよくそんなに平然と食べられるよね」

 リートのように文句を垂れることもなく、黙々と魔物の肉を食っているフレアに私はそう聞いてみた。
 すると、彼女は口の端に付いた肉片を指でグイッと拭いながら、口を開いた。

「そりゃあ、俺はつい最近まではコレが主食だったからな。まー、確かに普通に町で食う料理の方がうめぇけど、これはこれで悪くないだろ?」
「……慣れって凄いなぁ」

 悪くないなんて笑顔で言えるフレアに、私はそう素直に呟いた。
 しかし、リートと言いフレアと言い、ダンジョンにいた頃はやはり魔物の肉が主食だったのか。
 禁忌を犯して封印されていた身であるリートはともかく、心臓を守るという名目で生み出されたフレアまでとは……ブラック過ぎないか?

「……イノセ、顔に肉ついてんぞ」
「えっ?」

 フレアの言葉に、私は反射的に空いている左手を口の左端に当てた。
 すると、フレアは「逆だっての」と言いながら私の肩を掴み、振り向かせる。
 何をするつもりなのかと驚いていた時、フレアが私の右頬に口を当ててきた。

「……っ?」
「取れたぜ」

 そう言いながらフレアは舌先に肉片を乗せ、どこか得意げに見せてきた。
 ……ビックリした。急にキスしてきたのかと思った。
 驚きつつもそれを隠し、私は笑いながら口を開いた。

「ちょっと、行儀悪いよ」
「へへっ、わりぃわりぃ」

 私の指摘に、フレアはそう言って笑いながら舌を口の中にしまい、肉片を飲み込んだ。
 そんな私達のやり取りを見ていたリートが、ムスッと不機嫌そうな表情を浮かべた。

「おい。別に口で取ることは無かったのではないか?」
「手が塞がってたんだからしょうがねぇだろ」
「余裕で片手が空いているではないかッ!」

 ヘラヘラと笑いながら言うフレアに、リートは威嚇するように声を上げた。
 勘弁して欲しい。食事中まで喧嘩されては困る。
 二人きりで長話なんてするくらいだから、仲直りしたのかと思っていたが、そんなことは無かった。
 もしかしたら、薪集めの最中も喧嘩をしていたのではないだろうか。
 私が近付いた時も、実は喧嘩の真っ最中だったのかもしれない。
 ……仲良くしてくれないかなぁ。

「……食事中に喧嘩しないで」

 一々宥めるのも面倒だったが、流石に私を挟んでの喧嘩は見過ごせなかったので、そう言っておいた。
 すると、二人共不満げな表情を浮かべ、プイッと顔を背けた。
 二人に似ている箇所は一つもないが、それでもこうしてると、フレアがリートの分身という話はなんとなく分かる。
 主に子供っぽいところがソックリだ。
 その子供っぽさがぶつかり合って、こうしてギスギスしてるわけなんだけどさ。

「まぁでも、ただでさえ不味い肉だと言うのに、フレアなんかと言い争っていたらさらに不味くなってしまうからのぉ」

 一人呆れていた時、リートがさらなる挑発をフレアに当てた。
 それに、フレアは「あぁッ!?」と怒声を上げるので、私は溜息をついてしまった。
 しかし、リートがわざわざ肉を不味いと言ったせいで、折角必死に殺していた味覚が復活してしまった。
 味わわないように必死で意識を逸らしていたのに、リートの言葉でつい口の中に意識を戻してしまい、改めて肉の不味さを実感してしまう。
 口に含んでいた肉の味に、私は咄嗟に口に手を当てて「うぅ……」と小さく呻いた。

「おいおい、大丈夫か?」
「……だいじょばない」

 心配そうに顔を覗き込んでくるフレアに、私は小さく呟くようにそう答えた。
 やはりこの肉は人間が食べるものではないと思う。
 もしも今、五感の内のどれかを失えと言われたら、私は迷わず味覚を選ぶ。

「イノセ、あーん」

 すると、フレアがそう言いながら肉を刺した串を差し出してくる。
 悪魔の所業とも思えるその行為に、私は「はい?」と聞き返す。
 それに、彼女は少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「人に食わせてもらったら、少しは味の感じ方が変わるかもしれないだろ? だから、あーん」
「いや、変わるわけ……」

 断ろうとしていた時、横からリートが顔を出し、フレアの差し出していた肉に齧りついた。
 彼女は串から引き抜くように肉片を一つ口に含み、固い肉を何度も噛んで、なんとか飲み込んだ。
 不味い肉をほぼ丸飲みのように飲み込んだ彼女は、頬に冷や汗を伝わせながらも笑みを浮かべ、口を開いた。

「ふっ……自分で食うのと、味は変わらんが?」
「テメッ……!」
「あと、何度も言っておるが、イノセは妾の奴隷じゃからな。不必要に触れるでない」

 リートはそう言うと、私の肩を掴んで自分の方に引き寄せた。
 いや……最早どういう喧嘩?
 私の取り合い? 一体、どういう紆余曲折を経れば、この二人の喧嘩が私の取り合いに発展するのだろうか……?
 しかし、二人が本当に私を取り合って争っているなら、尚更私がしっかりしなければならないはずだ。
 私はすぐに体を起こし、リートの手を離させた。

「は、早く食べないと、肉が冷めてさらに不味くなっちゃうし……喧嘩するなら、ご飯を食べてからにしようよ」
「「……」」

 私の言葉に、二人はしばし顔を見合わせてから、無言でまた顔を背けた。
 そんなこんなでなんとか食事を終えた私達は、寝床の準備を開始した。
 流石に固い地面の上で寝るのは憚られたので、森の中で落ち葉などを拾って来て、それを布団のように敷き詰めて簡易的な寝床を三つ作った。
 簡易布団をポフポフと軽く叩きながら、リートは口を開いた。

「ノジュクというのは、こう……テントとかいう物を建てて寝泊りするのではないのか?」
「いや、それはキャンプ。野宿はまた少し違う」
「何じゃ、難しいのぉ」
「そうでもないと思うけど……」

 不機嫌そうに呟くリートに、私は苦笑しつつそう答えた。
 すると、フレアが焚火に薪を追加しながら口を開いた。

「それより、寝てる間って魔物とかどうすんだ? 俺やイノセはともかく、リートは急に魔物に襲われたりしたらヤベェだろ?」
「確かに……どうしよっか」

 私はそう聞きながら、リートに視線を向ける。
 フレアの言う通り、私やフレアは防御力が高いから寝てる間に魔物に襲われてもそこまでダメージは無いが、リートは別だ。
 彼女が襲われたら、攻撃を受けた箇所によっては一撃が重傷になりかねない。
 不老不死だから死なないとはいえ、だからと言って見過ごせる問題では無かった。
 それを彼女自身も自覚しているのか、顎に手を当てながら「そうじゃのう」と呟いた。

「イノセがずっと妾を抱きしめて寝てくれれば、問題無いかもしれんのう」
「今は冗談言ってる場合じゃないよ」

 真面目な顔で呟くリートに、私はそう答えた。
 いや、急に何を言い出すんだ。
 元々体力無いのに、ずっと野宿の準備をしたりしていて、疲れているのか?
 私の反応に、リートはムッとした表情を浮かべて、立ち上がった。

「ではどうするのじゃ? 妾はそれくらいしか思いつかんぞ」
「いや、普通に三人で順番を決めて、交代で見張りをすれば良いじゃない」
「おっ、良いなそれ」

 私の言葉に、フレアがそう肯定してきた。
 それから彼女は立ち上がり、私の隣に来て肩を組んできた。

「んじゃあ俺とイノセで一緒に見張ろうぜ。んでその後リートな」
「何じゃそれ! じゃあ、妾がイノセと見張る!」
「見張りは一人ずつだから!」

 またよく分からぬ争いを始める二人に、私はそう声を上げた。
 ホントに何なんだ、二人の仲の悪さは。
 ……先が思いやられる……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

修復術師は物理で殴る ~配信に乱入したら大バズりしたので公式配信者やります~

樋川カイト
ファンタジー
ソロでありながら最高ランクであるSランク探索者として活動する女子高生、不知火穂花。 いつも通り探索を終えた彼女は、迷宮管理局のお姉さんから『公式配信者』にならないかと誘われる。 その誘いをすげなく断る穂花だったが、ひょんなことから自身の素性がネット中に知れ渡ってしまう。 その現実に開き直った彼女は、偶然知り合ったダンジョン配信者の少女とともに公式配信者としての人生を歩み始めるのだった。

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

【リクエスト作品】邪神のしもべ  異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!

石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。 その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。 一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。 幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。 そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。 白い空間に声が流れる。 『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』 話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。 幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。 金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。 そう言い切れるほど美しい存在… 彼女こそが邪神エグソーダス。 災いと不幸をもたらす女神だった。 今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...