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第6章:光の心臓編
164 違和と邂逅-クラスメイトside
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「ひゃぁ~! さむぅ~い!」
ルリジオに到着し、ノスタルト車から下りた花鈴はそんな甲高い声を上げながら、隣にいた真凛の腕に抱き着いた。
突然抱き着かれた真凛はギョッとしたような表情を浮かべながら「ちょっと」と声を上げ、花鈴を引き剥がそうとする。
その様子を見た柚子は、クスクスと楽しそうに笑いつつ口を開いた。
「花鈴、気持ちは分かるけど、真凛が歩きづらそうだよ?」
「えぇっ!? そんなことないよねっ? 真凛っ」
「……邪魔」
柚子の言葉に反論するように答えつつ尋ねる花鈴に、真凛は端的に答えながらグイッと花鈴の体を押し返した。
すると、花鈴は「えぇ~」と不満そうな声を漏らしつつ真凛の腕を離し、二、三歩距離を取る。
その様子を見た柚子は困ったような笑みを浮かべつつ、花鈴の背中をポンポンと軽く叩いた。
「まぁまぁ、宿屋もここから近いし、少しの我慢だよ」
「むぅ~……柚子がそう言うなら……」
宥めるように言う柚子の言葉に、花鈴は不満そうにしながらも渋々といった様子でそう答えた。
すると、前方の方を歩いていたクラインが足を止め、彼女等の方に振り向いて続けた。
「お手数をお掛けして申し訳ございません。本日泊まる予定の宿屋は少し細い道にありまして、ノスタルト車で入れるのはここまでなんです」
「あ、いえッ、大丈夫です! 気にしてないです!」
申し訳なさそうに謝るクラインに、花鈴が慌てた様子で否定しつつ、顔の前で両手をブンブンと振る。
すると、クラインはそれを見てクスッと小さく笑い、続けた。
「そうですか? それなら良いのですが……何か不都合があれば言って下さい。特に何が出来ると言う訳では無いですが、多少のサポートは出来ますので」
「ありがとうございます。……それにしても、あまり人気のない路地を歩いているみたいですが……どうして今日はこんな所に? 大通り沿いにも、何軒か宿屋はあったと思うんですけど……」
柚子はそんな風に尋ねつつクラインの隣に駆け寄り、背の高い彼の顔を見上げる。
すると、クラインは口元に微笑を浮かべて答える。
「あぁ、これは心臓の魔女対策ですよ。今回は魔女の一行達が同じ町の中にいる可能性が高いので、大通り沿いにあるような大きな宿屋に行くと、鉢合わせしたり、こちらが泊まっている場所を特定される可能性がありますからね。それを防ぐのが目的です」
「なるほど……」
クラインの説明に、柚子は感心した様子で呟くように答えた。
そんな二人のやり取りを、皆から数歩後ろに下がった距離を歩いていた友子が、特に表情を変えないまま聴いていた。
──そうか……今、この町に、心臓の魔女達が……こころちゃんが、いるかもしれないんだ……。
心の中で呟きながら、友子はユラリと視線を動かして辺りを軽く見渡した。
本当は今すぐこの場から離れて魔女の捜索に向かいたいところだが、そんなことをすれば、また柚子から色々と小言を言われるのが目に見えている。
こころを確実に救えるのならばそれ自体は構わないのだが、自分のステータス上、柚子のサポートがない状態で魔女の一行と戦うのは些か分が悪い。
面倒だが、ここは逸る気持ちを抑え、柚子達の動向に合わせておくのが得策だろう。
そんな風に考えつつ、視線を前に戻そうとした時だった。
友子達が歩いていた路地からさらに分岐した、建物と建物の間にある、人一人通るのがやっとというような細い通路。
その通路の奥に……焦げ茶色の外套を着た人影が見えたのは。
「……ッ!?」
視界の隅に入って来た外套の人影を確認した瞬間、友子は反射的に足を止め、バッと顔を上げて通路を確認する。
しかしそこには誰もおらず、細い通路の中に自分の脛くらいの高さまで雪が積もっており、何人かの人間が無理矢理歩いたような足跡が残っているだけだった。
──いや、でも、さっき……誰かが……。
「最上さ~ん? どうかしたの~?」
何も無い細い通路を呆然と見つめていると、柚子がそんな風に声を掛けてきた。
それに友子は微かに肩を震わせ、すぐに前方に顔を向けた。
「あ、いや……ごめんっ、何でもない……!」
「もぉ~何してるの? 早く宿屋に行こう?」
困ったように笑いながら言う柚子だったが、目が笑っていなかった。
──これは、後で文句を言われるパターンだな……。
友子は心の中でそう呟きつつ、何とかそれを表情に出さないよう気を付けながら、小走りで皆の元へと向かった。
しかし、今の彼女には、柚子の不評を買うこと自体はどうでもよかった。
それより、先程見掛けた外套の人物の正体が、気に掛かって仕方が無かった。
──どうして、こんなに気になるんだろう……?
──一瞬見掛けただけの……どうせ、通行人か何かなのに……。
友子は自分の胸に手を当て、小さく息をつく。
不思議な感覚。
胸元がざわつくというか……まるで、粗目の紙やすりで心臓の裏側を軽く擦られているかのような、何とも言えない不快感が胸中を占めていた。
──この感覚は……まるで……──。
「……?」
そして、そんな違和感を抱く友子の様子に、前方を歩いていた柚子が軽く後ろを振り向いた。
元々皆とはあまり話さない、どちらかと言えば孤立している部類の友子だったが……今は、少し様子が違うように感じたのだ。
「……」
流し目で友子の様子を観察していた柚子の表情から、一瞬だけ“優等生”の雰囲気が消える。
しかし、彼女はすぐに表情を戻し、視線を前に向けるのだった。
---
建物と建物の間にある、人一人通るのがやっとというような細い通路。
先程まで友子達が歩いていた道から分岐し、さらに途中で左に曲がった通路にて、外套を着た少女……リンは、建物の影に隠れるようにして、身を潜めていた。
ほとんど人が通っていないような細い通路は、リンの脛くらいの高さまで雪が積もっていたが、風魔法を足に纏わせた状態で雪を吹き飛ばすことで難無く歩くことが出来た。
外套のフードで顔を隠しつつ、建物の影から顔だけ覗かせて路地の様子を窺った彼女は、こちらから見える路地に人の気配が無いことを確認して小さく息をつく。
──……まさか、アイツ等がこの町に来ているなんて……。
心の中でそう呟きながら、リンは痛みが走る右肩口を左手で掴み、ギュッと強く握り締める。
彼女は昨日の夜の内にノスタルト車での送迎を手配し、今日の早朝にはオリエンスの町を発ち、つい数刻前にルリジオに辿り着いた。
ひとまず今日泊まる宿屋を探していたところで思いもよらぬ輩に出会い、反射的に手近な細い通路に隠れ、今に至ると言う訳だ。
今自分がいるような人気の無い寂れた路地を、遠目で見て分かる程に上質なローブを着た男が先導する集団が歩いていれば、嫌でも目立つというもの。
おかげでリンは早めに気付き、こうして細い通路に身を潜めることで向こうに気付かれなくて済んだのだ。
オリエンスの町でアナから貰った防寒具にフードが付いていなかった為に、元々持っていた外套を上から着てフードを深く被ることで顔を隠していたこともあり、向こうは自分の存在にはほぼ気付いていないと思って良いだろう。
途中で一人がこちらに気付いた様子ではあったが、すぐに姿を隠したので、こちらの正体までは勘づいてはいない筈だ。
──どうしてギリスール国の奴等がこんな裏路地に……?
──そもそも、どうして私がいる時に同じ町に来るのよ……。
内心げんなりとしつつも、奴等がここにいる理由は、なんとなく見当がついていた。
大方、自分と同じように、光の心臓が目的だろう。
なぜよりによってタイミングが被ったのかと嘆きつつも、リンは右肩を掴んでいた手を離し、その手でフードを被り直しつつ表情を引き締めた。
──まぁ良い。
──奴等がこの場にいようと、私の目的は変わらない。
光の心臓の回収。
奴等がこの町にいたのは誤算だが、それなら奴等より早くダンジョンを攻略し、心臓を回収してしまえば良い。
むしろ、奴等がこの町に来ているということで、このルリジオに光の心臓があるという仮説がほぼ確定したといっても良い。
それならば、宿屋など探している暇は無い。
奴等よりも先に、光の心臓の回収に向かわなければ。
思い立ったが吉日と考え、彼女はすぐにフードを深く被り直し、細い通路を出た。
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「ひゃぁ~! さむぅ~い!」
ルリジオに到着し、ノスタルト車から下りた花鈴はそんな甲高い声を上げながら、隣にいた真凛の腕に抱き着いた。
突然抱き着かれた真凛はギョッとしたような表情を浮かべながら「ちょっと」と声を上げ、花鈴を引き剥がそうとする。
その様子を見た柚子は、クスクスと楽しそうに笑いつつ口を開いた。
「花鈴、気持ちは分かるけど、真凛が歩きづらそうだよ?」
「えぇっ!? そんなことないよねっ? 真凛っ」
「……邪魔」
柚子の言葉に反論するように答えつつ尋ねる花鈴に、真凛は端的に答えながらグイッと花鈴の体を押し返した。
すると、花鈴は「えぇ~」と不満そうな声を漏らしつつ真凛の腕を離し、二、三歩距離を取る。
その様子を見た柚子は困ったような笑みを浮かべつつ、花鈴の背中をポンポンと軽く叩いた。
「まぁまぁ、宿屋もここから近いし、少しの我慢だよ」
「むぅ~……柚子がそう言うなら……」
宥めるように言う柚子の言葉に、花鈴は不満そうにしながらも渋々といった様子でそう答えた。
すると、前方の方を歩いていたクラインが足を止め、彼女等の方に振り向いて続けた。
「お手数をお掛けして申し訳ございません。本日泊まる予定の宿屋は少し細い道にありまして、ノスタルト車で入れるのはここまでなんです」
「あ、いえッ、大丈夫です! 気にしてないです!」
申し訳なさそうに謝るクラインに、花鈴が慌てた様子で否定しつつ、顔の前で両手をブンブンと振る。
すると、クラインはそれを見てクスッと小さく笑い、続けた。
「そうですか? それなら良いのですが……何か不都合があれば言って下さい。特に何が出来ると言う訳では無いですが、多少のサポートは出来ますので」
「ありがとうございます。……それにしても、あまり人気のない路地を歩いているみたいですが……どうして今日はこんな所に? 大通り沿いにも、何軒か宿屋はあったと思うんですけど……」
柚子はそんな風に尋ねつつクラインの隣に駆け寄り、背の高い彼の顔を見上げる。
すると、クラインは口元に微笑を浮かべて答える。
「あぁ、これは心臓の魔女対策ですよ。今回は魔女の一行達が同じ町の中にいる可能性が高いので、大通り沿いにあるような大きな宿屋に行くと、鉢合わせしたり、こちらが泊まっている場所を特定される可能性がありますからね。それを防ぐのが目的です」
「なるほど……」
クラインの説明に、柚子は感心した様子で呟くように答えた。
そんな二人のやり取りを、皆から数歩後ろに下がった距離を歩いていた友子が、特に表情を変えないまま聴いていた。
──そうか……今、この町に、心臓の魔女達が……こころちゃんが、いるかもしれないんだ……。
心の中で呟きながら、友子はユラリと視線を動かして辺りを軽く見渡した。
本当は今すぐこの場から離れて魔女の捜索に向かいたいところだが、そんなことをすれば、また柚子から色々と小言を言われるのが目に見えている。
こころを確実に救えるのならばそれ自体は構わないのだが、自分のステータス上、柚子のサポートがない状態で魔女の一行と戦うのは些か分が悪い。
面倒だが、ここは逸る気持ちを抑え、柚子達の動向に合わせておくのが得策だろう。
そんな風に考えつつ、視線を前に戻そうとした時だった。
友子達が歩いていた路地からさらに分岐した、建物と建物の間にある、人一人通るのがやっとというような細い通路。
その通路の奥に……焦げ茶色の外套を着た人影が見えたのは。
「……ッ!?」
視界の隅に入って来た外套の人影を確認した瞬間、友子は反射的に足を止め、バッと顔を上げて通路を確認する。
しかしそこには誰もおらず、細い通路の中に自分の脛くらいの高さまで雪が積もっており、何人かの人間が無理矢理歩いたような足跡が残っているだけだった。
──いや、でも、さっき……誰かが……。
「最上さ~ん? どうかしたの~?」
何も無い細い通路を呆然と見つめていると、柚子がそんな風に声を掛けてきた。
それに友子は微かに肩を震わせ、すぐに前方に顔を向けた。
「あ、いや……ごめんっ、何でもない……!」
「もぉ~何してるの? 早く宿屋に行こう?」
困ったように笑いながら言う柚子だったが、目が笑っていなかった。
──これは、後で文句を言われるパターンだな……。
友子は心の中でそう呟きつつ、何とかそれを表情に出さないよう気を付けながら、小走りで皆の元へと向かった。
しかし、今の彼女には、柚子の不評を買うこと自体はどうでもよかった。
それより、先程見掛けた外套の人物の正体が、気に掛かって仕方が無かった。
──どうして、こんなに気になるんだろう……?
──一瞬見掛けただけの……どうせ、通行人か何かなのに……。
友子は自分の胸に手を当て、小さく息をつく。
不思議な感覚。
胸元がざわつくというか……まるで、粗目の紙やすりで心臓の裏側を軽く擦られているかのような、何とも言えない不快感が胸中を占めていた。
──この感覚は……まるで……──。
「……?」
そして、そんな違和感を抱く友子の様子に、前方を歩いていた柚子が軽く後ろを振り向いた。
元々皆とはあまり話さない、どちらかと言えば孤立している部類の友子だったが……今は、少し様子が違うように感じたのだ。
「……」
流し目で友子の様子を観察していた柚子の表情から、一瞬だけ“優等生”の雰囲気が消える。
しかし、彼女はすぐに表情を戻し、視線を前に向けるのだった。
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建物と建物の間にある、人一人通るのがやっとというような細い通路。
先程まで友子達が歩いていた道から分岐し、さらに途中で左に曲がった通路にて、外套を着た少女……リンは、建物の影に隠れるようにして、身を潜めていた。
ほとんど人が通っていないような細い通路は、リンの脛くらいの高さまで雪が積もっていたが、風魔法を足に纏わせた状態で雪を吹き飛ばすことで難無く歩くことが出来た。
外套のフードで顔を隠しつつ、建物の影から顔だけ覗かせて路地の様子を窺った彼女は、こちらから見える路地に人の気配が無いことを確認して小さく息をつく。
──……まさか、アイツ等がこの町に来ているなんて……。
心の中でそう呟きながら、リンは痛みが走る右肩口を左手で掴み、ギュッと強く握り締める。
彼女は昨日の夜の内にノスタルト車での送迎を手配し、今日の早朝にはオリエンスの町を発ち、つい数刻前にルリジオに辿り着いた。
ひとまず今日泊まる宿屋を探していたところで思いもよらぬ輩に出会い、反射的に手近な細い通路に隠れ、今に至ると言う訳だ。
今自分がいるような人気の無い寂れた路地を、遠目で見て分かる程に上質なローブを着た男が先導する集団が歩いていれば、嫌でも目立つというもの。
おかげでリンは早めに気付き、こうして細い通路に身を潜めることで向こうに気付かれなくて済んだのだ。
オリエンスの町でアナから貰った防寒具にフードが付いていなかった為に、元々持っていた外套を上から着てフードを深く被ることで顔を隠していたこともあり、向こうは自分の存在にはほぼ気付いていないと思って良いだろう。
途中で一人がこちらに気付いた様子ではあったが、すぐに姿を隠したので、こちらの正体までは勘づいてはいない筈だ。
──どうしてギリスール国の奴等がこんな裏路地に……?
──そもそも、どうして私がいる時に同じ町に来るのよ……。
内心げんなりとしつつも、奴等がここにいる理由は、なんとなく見当がついていた。
大方、自分と同じように、光の心臓が目的だろう。
なぜよりによってタイミングが被ったのかと嘆きつつも、リンは右肩を掴んでいた手を離し、その手でフードを被り直しつつ表情を引き締めた。
──まぁ良い。
──奴等がこの場にいようと、私の目的は変わらない。
光の心臓の回収。
奴等がこの町にいたのは誤算だが、それなら奴等より早くダンジョンを攻略し、心臓を回収してしまえば良い。
むしろ、奴等がこの町に来ているということで、このルリジオに光の心臓があるという仮説がほぼ確定したといっても良い。
それならば、宿屋など探している暇は無い。
奴等よりも先に、光の心臓の回収に向かわなければ。
思い立ったが吉日と考え、彼女はすぐにフードを深く被り直し、細い通路を出た。
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