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第6章:光の心臓編
166 ルミナ②
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「皆様の中に、他に治療が必要な方はおられますか? どのような怪我でも症状でも構いません。私も、ここに集まっている皆様も全員が、神の元に産まれし平等なる存在なのですから。遠慮など、する必要はありませんよ」
光の心臓のダンジョンから現れた少女ルミナは、ルリジオの住民達を前に一切臆することなく、毅然とした態度でそう言い放った。
そんな彼女の姿を見た瞬間、アランとミルノはほぼ同時に確信した。
彼女が、光の心臓の守り人であることを。
何か根拠があったと言う訳では無い。
心臓の守り人同士通ずるものがあったのか、本能のような、直感に近いものだった。
「み、ミルノちゃん……! あの子、もしかして、心臓の……ッ!」
「う、うん……! わ、私も、そうだと、思う……」
小声ながらも興奮した様子で尋ねるアランに、ミルノは小さく頷きながらそう答える。
二人がそんなやり取りをしている間に、ルミナは集まったルリジオの住民を見渡し、微笑を浮かべて口を開いた。
「他にはいないようですね? 皆様が身も心も健やかに暮らせているようで、とても喜ばしく思います。ところで……そちらの方々は、お祈りに参加しないのですか?」
ルミナはそう尋ねながら、アランとミルノが隠れている方に顔を向けた。
──見つかった……!?
明らかに自分達に投げ掛けているかのようなその言葉に、ミルノは動揺を露わにしながらも咄嗟にアランの服を引っ張る形で共に建物の陰に身を隠し、すぐに思考を巡らせる。
──いや……私達はずっとここに隠れていたし、会話もずっと小声でしてきた。
──目立った物音を立てた訳でも無いし、そもそもあの子は目を瞑っている。
──……分かるはずがない。
「人数的に……お二人、ですか? 感じたことの無い気配ですが、旅のお方ですかね?」
すぐに続いたその言葉に、ミルノは息を呑む。
アランも同様に衝撃を受けたようで、自分の手で口を押さえたまま大きく目を見開いていた。
すると、ルミナは微笑を絶やさぬまま両手を軽く広げて続けた。
「良かったら、共に神様へ祈りを捧げませんか? 私達は皆、神の元に産まれた平等な存在なのです。この町の住民では無いとか、そのようなことは一切気にしません。興味があるのであれば、是非、お祈りに参加してみて下さい」
「ど、どうしよう!? 絶対私達に気づいてるよね!?」
明らかに自分達に向かって語りかけてくるルミナに、アランは動揺した様子で言いながらミルノの肩を揺する。
それに、ミルノは体を揺すられながらも何とか「お、落ち着いてアランちゃん」と声を掛け、アランの腕を掴んで止めさせる。
アランがムゥッと不満そうに口を噤みながらも手を止めたのを確認すると、ミルノはルミナの方に視線を向けた。
「た、多分、私達の正体、までは……き、気づかれてないと、思う。だから、と、とりあえずお祈りに、参加して、みて……様子を、見ない?」
「ん~……力ずくで何とかならないかな?」
「さ、流石に、それは……無理なんじゃ、ないかな……」
「むぅ~」
オズオズとした様子で答えるミルノの言葉に、アランは不満そうに口を尖らせた。
ひとまず二人は通路から抜け出し、広間に集まる人々の中に紛れ込む。
それを確認したルミナは小さく微笑を浮かべ、改めて広間に集まった人々全員に顔を向けるような動きをしながら口を開いた。
「それでは皆さん。我々の母なる神様に、祈りと感謝を捧げましょう。今日も皆様が平等に一日を終えることができたことに感謝し、明日も平等な幸福が訪れんことを祈って。リエール」
最後の言葉を合図にするように、人々は両手の指を組んだまま目を瞑り、祈祷を始める。
ミルノも同じように祈りの姿勢を取りつつ、薄く瞼を開いて周囲の様子を窺った。
どこを見ても人々は皆同じような姿勢を取ったままピクリとも動かず、また一切の言葉を交わすこともなく、”母なる神”とやらに祈りを捧げている。
一つの町の住人が得体の知れない少女を一切疑うこと無く盲信し、付き従う異様な光景。
ミルノがいた獣人族の村のように、封印されている心臓が意図せずその土地に効能をもたらした故に生まれた偶発的な物ではなく……恐らくだが、ルミナが意図的に産み出したもの。
この町の人々が、宗教に縋りつかなければならない程に心身ともに追い詰められた状況だったのか……それとも、これだけの人々を束ねて統率できているルミナが、常軌を逸したカリスマ性を有しているのか。
心臓の属性上、直接的な戦闘力は低いかもしれないが、それでも一筋縄ではいかないだろうということは容易に想像できた。
小さく生唾を飲み込みつつ、ミルノは隣にいるアランの方に視線を向けた。
彼女は両手の指を組んで顔を伏せたまま、まるで上目遣いで睨み付けるようにジッとルミナの方を見つめている。
──アランちゃんには、何か考えがあるのかな……?
薄目にその横顔を見つめながら、ミルノは心の中でそう呟いた。
「止め」
すると、ルミナがそんな風に合図をした。
それと同時に町の人々は祈りを止め、顔を上げて彼女の方を見る。
釣られるようにしてミルノとアランも前方を見ると、ルミナは朗らかな微笑を浮かべたまま小さく頷き、続けた。
「母なる神は、いついかなる時も、私達のことを見守ってくれています。きっと、この祈りも届いたことでしょう。今後も神への感謝の気持ちを常に心に留めておき、この恩恵に恥じぬ生活を心掛けていきましょう。それでは、本日はこの辺りとお開きとします。また明日の朝、この場所でお会いしましょう」
ルミナがそう締めくくると、広間に集まっていた人々はそれぞれ挨拶を返し、各々自由な方向に歩いて去っていく。
人々が解散していくのを察したのか、ルミナは満足そうな微笑を浮かべると踵を返し、ダンジョンの中に戻っていく。
「マズい……! ミルノちゃん! 行くよ!」
「えっ……!? ちょっ、アランちゃ……ッ!」
否定気味な声を上げようとしたミルノだったが、それよりも先にアランがミルノの手を掴み、強引に引っ張るようにして人ごみの中を強引に突き進む。
突然人ごみの中を進むこととなったミルノは途端に口を噤み、人とぶつからないように避けることに専念しながらアランの後を追った。
二人が何とか人ごみを抜けると、そこではこちらに背を向け、ダンジョンの方に向かって歩みを進めているルミナの姿があった。
「ちょぉっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
その背中に向かって、アランが咄嗟に声を張り上げる。
突然の叫び声に、広間を離れようとしていた人々はたちまち足を止め、驚いたような様子で何事かとアランの方に視線を向ける。
声を掛けられた張本人のルミナも足を止め、どこか困惑したような表情を浮かべながら振り返る。
「あッ、ア、アランちゃん!? 何やって……!」
突然注目を集めるような真似をしたアランに、ミルノが慌てた様子でそう聞き返す。
しかし、アランはそれを無視してミルノの腕を握り直し、足を止めた人ごみの間を縫うようにして一気にルミナの元へと辿り着く。
「えっと……旅の方々、ですよね? 私に何か、用……ですか?」
わざわざ大声を上げて自分を呼び止め、目の前までやって来た異様な来客二人を前に、ルミナはそんな風に聞き返しながらコテンと軽く首を傾げる。
彼女の動きに合わせて長く艶やかなロイヤルブロンドがサラサラと揺れるのを見つめながら、ミルノはゴクリと静かに生唾を飲み込み、自分の腕を掴んだままのアランの背中を見つめる。
特に何の話し合い等も無いまま、突然ルミナを呼び止めてここまで来た為に、彼女ですらアランがどうしてこんな行為に出たのか把握出来ていないのだ。
何か考えがあったのか……だとしても、もっと他に方法があったのではないか。
困惑するミルノを他所に、アランは両腕を組んだままキッとルミナを見つめ、口を開いた。
「うん、用事。……そもそも、私達はルミナちゃんに会う為に、この町に来たの」
「私に……あぁ、もしかして入信を希望される方ですか?」
堂々とした態度で言うアランの言葉に、ルミナは自分の胸の前でパンッと軽く手を叩き、若干明るくなった声でそう聞き返す。
そのやり取りを見たミルノは、アランが次に言おうとしている言葉を予想し、僅かに目を見開いてアランを見た。
しかし、アランがそれに気付くことは無く、真っ直ぐにルミナの顔を見つめたまま口を開いた。
「違うよ、ルミナちゃん。だって、私達がここに来た目的は……光の心臓だからね」
光の心臓のダンジョンから現れた少女ルミナは、ルリジオの住民達を前に一切臆することなく、毅然とした態度でそう言い放った。
そんな彼女の姿を見た瞬間、アランとミルノはほぼ同時に確信した。
彼女が、光の心臓の守り人であることを。
何か根拠があったと言う訳では無い。
心臓の守り人同士通ずるものがあったのか、本能のような、直感に近いものだった。
「み、ミルノちゃん……! あの子、もしかして、心臓の……ッ!」
「う、うん……! わ、私も、そうだと、思う……」
小声ながらも興奮した様子で尋ねるアランに、ミルノは小さく頷きながらそう答える。
二人がそんなやり取りをしている間に、ルミナは集まったルリジオの住民を見渡し、微笑を浮かべて口を開いた。
「他にはいないようですね? 皆様が身も心も健やかに暮らせているようで、とても喜ばしく思います。ところで……そちらの方々は、お祈りに参加しないのですか?」
ルミナはそう尋ねながら、アランとミルノが隠れている方に顔を向けた。
──見つかった……!?
明らかに自分達に投げ掛けているかのようなその言葉に、ミルノは動揺を露わにしながらも咄嗟にアランの服を引っ張る形で共に建物の陰に身を隠し、すぐに思考を巡らせる。
──いや……私達はずっとここに隠れていたし、会話もずっと小声でしてきた。
──目立った物音を立てた訳でも無いし、そもそもあの子は目を瞑っている。
──……分かるはずがない。
「人数的に……お二人、ですか? 感じたことの無い気配ですが、旅のお方ですかね?」
すぐに続いたその言葉に、ミルノは息を呑む。
アランも同様に衝撃を受けたようで、自分の手で口を押さえたまま大きく目を見開いていた。
すると、ルミナは微笑を絶やさぬまま両手を軽く広げて続けた。
「良かったら、共に神様へ祈りを捧げませんか? 私達は皆、神の元に産まれた平等な存在なのです。この町の住民では無いとか、そのようなことは一切気にしません。興味があるのであれば、是非、お祈りに参加してみて下さい」
「ど、どうしよう!? 絶対私達に気づいてるよね!?」
明らかに自分達に向かって語りかけてくるルミナに、アランは動揺した様子で言いながらミルノの肩を揺する。
それに、ミルノは体を揺すられながらも何とか「お、落ち着いてアランちゃん」と声を掛け、アランの腕を掴んで止めさせる。
アランがムゥッと不満そうに口を噤みながらも手を止めたのを確認すると、ミルノはルミナの方に視線を向けた。
「た、多分、私達の正体、までは……き、気づかれてないと、思う。だから、と、とりあえずお祈りに、参加して、みて……様子を、見ない?」
「ん~……力ずくで何とかならないかな?」
「さ、流石に、それは……無理なんじゃ、ないかな……」
「むぅ~」
オズオズとした様子で答えるミルノの言葉に、アランは不満そうに口を尖らせた。
ひとまず二人は通路から抜け出し、広間に集まる人々の中に紛れ込む。
それを確認したルミナは小さく微笑を浮かべ、改めて広間に集まった人々全員に顔を向けるような動きをしながら口を開いた。
「それでは皆さん。我々の母なる神様に、祈りと感謝を捧げましょう。今日も皆様が平等に一日を終えることができたことに感謝し、明日も平等な幸福が訪れんことを祈って。リエール」
最後の言葉を合図にするように、人々は両手の指を組んだまま目を瞑り、祈祷を始める。
ミルノも同じように祈りの姿勢を取りつつ、薄く瞼を開いて周囲の様子を窺った。
どこを見ても人々は皆同じような姿勢を取ったままピクリとも動かず、また一切の言葉を交わすこともなく、”母なる神”とやらに祈りを捧げている。
一つの町の住人が得体の知れない少女を一切疑うこと無く盲信し、付き従う異様な光景。
ミルノがいた獣人族の村のように、封印されている心臓が意図せずその土地に効能をもたらした故に生まれた偶発的な物ではなく……恐らくだが、ルミナが意図的に産み出したもの。
この町の人々が、宗教に縋りつかなければならない程に心身ともに追い詰められた状況だったのか……それとも、これだけの人々を束ねて統率できているルミナが、常軌を逸したカリスマ性を有しているのか。
心臓の属性上、直接的な戦闘力は低いかもしれないが、それでも一筋縄ではいかないだろうということは容易に想像できた。
小さく生唾を飲み込みつつ、ミルノは隣にいるアランの方に視線を向けた。
彼女は両手の指を組んで顔を伏せたまま、まるで上目遣いで睨み付けるようにジッとルミナの方を見つめている。
──アランちゃんには、何か考えがあるのかな……?
薄目にその横顔を見つめながら、ミルノは心の中でそう呟いた。
「止め」
すると、ルミナがそんな風に合図をした。
それと同時に町の人々は祈りを止め、顔を上げて彼女の方を見る。
釣られるようにしてミルノとアランも前方を見ると、ルミナは朗らかな微笑を浮かべたまま小さく頷き、続けた。
「母なる神は、いついかなる時も、私達のことを見守ってくれています。きっと、この祈りも届いたことでしょう。今後も神への感謝の気持ちを常に心に留めておき、この恩恵に恥じぬ生活を心掛けていきましょう。それでは、本日はこの辺りとお開きとします。また明日の朝、この場所でお会いしましょう」
ルミナがそう締めくくると、広間に集まっていた人々はそれぞれ挨拶を返し、各々自由な方向に歩いて去っていく。
人々が解散していくのを察したのか、ルミナは満足そうな微笑を浮かべると踵を返し、ダンジョンの中に戻っていく。
「マズい……! ミルノちゃん! 行くよ!」
「えっ……!? ちょっ、アランちゃ……ッ!」
否定気味な声を上げようとしたミルノだったが、それよりも先にアランがミルノの手を掴み、強引に引っ張るようにして人ごみの中を強引に突き進む。
突然人ごみの中を進むこととなったミルノは途端に口を噤み、人とぶつからないように避けることに専念しながらアランの後を追った。
二人が何とか人ごみを抜けると、そこではこちらに背を向け、ダンジョンの方に向かって歩みを進めているルミナの姿があった。
「ちょぉっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
その背中に向かって、アランが咄嗟に声を張り上げる。
突然の叫び声に、広間を離れようとしていた人々はたちまち足を止め、驚いたような様子で何事かとアランの方に視線を向ける。
声を掛けられた張本人のルミナも足を止め、どこか困惑したような表情を浮かべながら振り返る。
「あッ、ア、アランちゃん!? 何やって……!」
突然注目を集めるような真似をしたアランに、ミルノが慌てた様子でそう聞き返す。
しかし、アランはそれを無視してミルノの腕を握り直し、足を止めた人ごみの間を縫うようにして一気にルミナの元へと辿り着く。
「えっと……旅の方々、ですよね? 私に何か、用……ですか?」
わざわざ大声を上げて自分を呼び止め、目の前までやって来た異様な来客二人を前に、ルミナはそんな風に聞き返しながらコテンと軽く首を傾げる。
彼女の動きに合わせて長く艶やかなロイヤルブロンドがサラサラと揺れるのを見つめながら、ミルノはゴクリと静かに生唾を飲み込み、自分の腕を掴んだままのアランの背中を見つめる。
特に何の話し合い等も無いまま、突然ルミナを呼び止めてここまで来た為に、彼女ですらアランがどうしてこんな行為に出たのか把握出来ていないのだ。
何か考えがあったのか……だとしても、もっと他に方法があったのではないか。
困惑するミルノを他所に、アランは両腕を組んだままキッとルミナを見つめ、口を開いた。
「うん、用事。……そもそも、私達はルミナちゃんに会う為に、この町に来たの」
「私に……あぁ、もしかして入信を希望される方ですか?」
堂々とした態度で言うアランの言葉に、ルミナは自分の胸の前でパンッと軽く手を叩き、若干明るくなった声でそう聞き返す。
そのやり取りを見たミルノは、アランが次に言おうとしている言葉を予想し、僅かに目を見開いてアランを見た。
しかし、アランがそれに気付くことは無く、真っ直ぐにルミナの顔を見つめたまま口を開いた。
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