25 / 41
25、噂の正体
しおりを挟む
「それはそう、ですけど……」
「だろう? 断るということは、そんな彼女たちの乙女心を無下にするということだ。残酷で、酷い仕打ちじゃないか。だから私がびや……惚れ薬を飲むくらい、些細な問題だと思わないか?」
なぁ、ラファエルと問えば、彼は目を吊り上げた。
「大問題です! もしそれが惚れ薬ではなく毒だったりしたら、一体どうするおつもりですか!」
「大丈夫だ。王家の人間として、毒に対する耐性は小さい頃からつけている」
さらりと衝撃的な過去を打ち明けたサミュエルにラファエルは意表を突かれたように黙り込んだ。苦虫を噛み潰したような顔をして、サミュエルから目を逸らす。
「貴方がそんな調子だから、私たちも常に目を光らせておく必要があるんですよ」
「ああ。だからラファエルや他の騎士たちにもいつも感謝している。ありがとう」
そう言われては、ラファエルももう何も言えないだろう。
頭が痛い、と額を押さえて呻く幼馴染の背中を、イリスは労わるようにそっと撫でた。
「大変なんだね、ラファエル」
「……ああ、すごくな。未婚の令嬢相手なら、保護者に言ってある程度取り締まる事ができるが、これが夫人相手となると対処が難しくなる」
「もう結婚した女性まで殿下に言い寄るの?」
教会で神に誓った相手がいるというのに、どうして夫以外の男性にそういうことをするのだろう。イリスは理解を通り越して、嫌悪感が湧いた。
「どうしてそんなことするの?」
「それは……」
「いろんな理由があるんだよ、イリス嬢」
笑うようにサミュエルは言ったけれど、その顔はイリスよりもずっと大人びていて、多くのことを経験してきたように見えた。
彼の言ういろんな理由とやらをイリスは詳しく知りたい気もしたけれど、今はまだ少し怖くて、それ以上たずねることを拒む自分がいた。
「相手の女性にどんな理由があれ、まだ結婚していない殿下によからぬ噂が立つのはよくない。今後の婚姻にも支障をきたす場合がある」
「……そういう相手には、どう対処するの?」
「やんわり断っても都合のいいように解釈されるから、はっきりと断るのがいい」
はっきり……
「二度と現れるな、とラファエルは言ったことがあったな」
(それってどこかで……)
『特に女性に対してはそっけなくて、俺の前に二度と現れるなって――』
「あっ」
以前茶会でベルティーユたちが話していた内容ではないか。
(でも彼女たちは……)
「夫人に迫られたのはラファエルじゃないの?」
「違う。迫られたのは殿下だ。俺じゃない」
「そう、なの?」
「ああ。俺は殿下相手に夫人がしつこく迫るから、それ以上近づかれてはこちらもただではすまないということを、職務上言っただけだ」
つまり「二度と現れるな」というのは「二度とサミュエル殿下の前に現れるな」という意味だったらしい。
イリスは驚いて彼の顔をまじまじと見つめた。
「じゃあ、お菓子をもらって毒がないか調べる、っていうのは……」
「俺ではなく、殿下がもらった話だ。俺は菓子なんかもらったりしない」
「手紙をその場で破り捨てた、ってのは……」
「それも俺じゃなくて、殿下宛ての手紙だ。二人きりで会いたいっていう逢引の誘い。しかも差出人はすでに婚約者がいる令嬢だ。ばれたら酷い醜聞沙汰になるような高位貴族からの、な」
「まぁ……」
ラファエルに寄せられていた好意はすべてサミュエルへ向けたものだったのだ。
「あくまでもラファエルはこっそり処分したのに、なぜか目の前で破り捨てられたことになっている」
「殿下が約束の場所に現れず、私に逆恨みをした女性があえてそう言ったのでしょう」
「そんな……わたしてっきり、王女殿下がおっしゃったことは本当だと……」
王女たちもまた、ラファエルが本当にやった出来事だと思っているようだった。
「ベルティーユがラファエルと会うことはそうないからな。実際何が起きているか、よく知らないのだろう」
「えっ、そうなんですか?」
てっきり頻繁に顔を見合わせていると思っていた。
「俺はあくまでも殿下の護衛だ。仮に王女殿下と会うことはあっても、気軽に話すことはない」
「他の護衛もいるからな。あまり贔屓してしまうとかえって軋轢を生じかねないし、人の目があるところでは主と臣下の立場を守るようにしているんだ」
人の目があるところでは……
「でも、舞踏会では思いっきり話しかけているような気がしましたが」
「あの時は護衛ではなく、きみの婚約者として参加していたからな。臣下ではなく、友人という立ち位置だ」
仕事とプライベートは別、ということだろうか。
しかしイリスにはまだ気になることがあった。
「あの、ベルティーユ様のラファエルに向ける感情はどういうものなのでしょうか」
「だろう? 断るということは、そんな彼女たちの乙女心を無下にするということだ。残酷で、酷い仕打ちじゃないか。だから私がびや……惚れ薬を飲むくらい、些細な問題だと思わないか?」
なぁ、ラファエルと問えば、彼は目を吊り上げた。
「大問題です! もしそれが惚れ薬ではなく毒だったりしたら、一体どうするおつもりですか!」
「大丈夫だ。王家の人間として、毒に対する耐性は小さい頃からつけている」
さらりと衝撃的な過去を打ち明けたサミュエルにラファエルは意表を突かれたように黙り込んだ。苦虫を噛み潰したような顔をして、サミュエルから目を逸らす。
「貴方がそんな調子だから、私たちも常に目を光らせておく必要があるんですよ」
「ああ。だからラファエルや他の騎士たちにもいつも感謝している。ありがとう」
そう言われては、ラファエルももう何も言えないだろう。
頭が痛い、と額を押さえて呻く幼馴染の背中を、イリスは労わるようにそっと撫でた。
「大変なんだね、ラファエル」
「……ああ、すごくな。未婚の令嬢相手なら、保護者に言ってある程度取り締まる事ができるが、これが夫人相手となると対処が難しくなる」
「もう結婚した女性まで殿下に言い寄るの?」
教会で神に誓った相手がいるというのに、どうして夫以外の男性にそういうことをするのだろう。イリスは理解を通り越して、嫌悪感が湧いた。
「どうしてそんなことするの?」
「それは……」
「いろんな理由があるんだよ、イリス嬢」
笑うようにサミュエルは言ったけれど、その顔はイリスよりもずっと大人びていて、多くのことを経験してきたように見えた。
彼の言ういろんな理由とやらをイリスは詳しく知りたい気もしたけれど、今はまだ少し怖くて、それ以上たずねることを拒む自分がいた。
「相手の女性にどんな理由があれ、まだ結婚していない殿下によからぬ噂が立つのはよくない。今後の婚姻にも支障をきたす場合がある」
「……そういう相手には、どう対処するの?」
「やんわり断っても都合のいいように解釈されるから、はっきりと断るのがいい」
はっきり……
「二度と現れるな、とラファエルは言ったことがあったな」
(それってどこかで……)
『特に女性に対してはそっけなくて、俺の前に二度と現れるなって――』
「あっ」
以前茶会でベルティーユたちが話していた内容ではないか。
(でも彼女たちは……)
「夫人に迫られたのはラファエルじゃないの?」
「違う。迫られたのは殿下だ。俺じゃない」
「そう、なの?」
「ああ。俺は殿下相手に夫人がしつこく迫るから、それ以上近づかれてはこちらもただではすまないということを、職務上言っただけだ」
つまり「二度と現れるな」というのは「二度とサミュエル殿下の前に現れるな」という意味だったらしい。
イリスは驚いて彼の顔をまじまじと見つめた。
「じゃあ、お菓子をもらって毒がないか調べる、っていうのは……」
「俺ではなく、殿下がもらった話だ。俺は菓子なんかもらったりしない」
「手紙をその場で破り捨てた、ってのは……」
「それも俺じゃなくて、殿下宛ての手紙だ。二人きりで会いたいっていう逢引の誘い。しかも差出人はすでに婚約者がいる令嬢だ。ばれたら酷い醜聞沙汰になるような高位貴族からの、な」
「まぁ……」
ラファエルに寄せられていた好意はすべてサミュエルへ向けたものだったのだ。
「あくまでもラファエルはこっそり処分したのに、なぜか目の前で破り捨てられたことになっている」
「殿下が約束の場所に現れず、私に逆恨みをした女性があえてそう言ったのでしょう」
「そんな……わたしてっきり、王女殿下がおっしゃったことは本当だと……」
王女たちもまた、ラファエルが本当にやった出来事だと思っているようだった。
「ベルティーユがラファエルと会うことはそうないからな。実際何が起きているか、よく知らないのだろう」
「えっ、そうなんですか?」
てっきり頻繁に顔を見合わせていると思っていた。
「俺はあくまでも殿下の護衛だ。仮に王女殿下と会うことはあっても、気軽に話すことはない」
「他の護衛もいるからな。あまり贔屓してしまうとかえって軋轢を生じかねないし、人の目があるところでは主と臣下の立場を守るようにしているんだ」
人の目があるところでは……
「でも、舞踏会では思いっきり話しかけているような気がしましたが」
「あの時は護衛ではなく、きみの婚約者として参加していたからな。臣下ではなく、友人という立ち位置だ」
仕事とプライベートは別、ということだろうか。
しかしイリスにはまだ気になることがあった。
「あの、ベルティーユ様のラファエルに向ける感情はどういうものなのでしょうか」
82
あなたにおすすめの小説
優しすぎる王太子に妃は現れない
七宮叶歌
恋愛
『優しすぎる王太子』リュシアンは国民から慕われる一方、貴族からは優柔不断と見られていた。
没落しかけた伯爵家の令嬢エレナは、家を救うため王太子妃選定会に挑み、彼の心を射止めようと決意する。
だが、選定会の裏には思わぬ陰謀が渦巻いていた。翻弄されながらも、エレナは自分の想いを貫けるのか。
国が繁栄する時、青い鳥が現れる――そんな伝承のあるフェラデル国で、優しすぎる王太子と没落令嬢の行く末を、青い鳥は見守っている。
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
【完結】悪役令嬢は折られたフラグに気が付かない〜王子たちは悪役令嬢の平穏を守れるのか!?〜【全23話+おまけ2話】
早奈恵
恋愛
エドウィン王子から婚約破棄されて、修道院でいじめ抜かれて死んでしまう予知夢を見た公爵令嬢アデリアーナは、男爵令嬢のパナピーアに誘惑されてしまうはずの攻略対象者との出会いを邪魔して、予知夢を回避できるのか試そうとする。
婚約破棄への道を自分で潰すつもりなのに、現実は何だか予知夢の内容とどんどんかけ離れて、知らないうちに話が進んでいき……。
宰相インテリ子息、騎士団長の脳筋子息、実家を継ぐために養子になったわんこ系義弟、そして婚約者の王太子エドウィンが頑張る話。
*リハビリに短編を書く予定が中編くらいになってしまいましたが、すでにラストまで書き終えている完結確約作品です。全23話+おまけ2話、よろしくお願いします。
*短い期間ですがHOTランキング1位に到達した作品です。
望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで
越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。
国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。
孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。
ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――?
(……私の体が、勝手に動いている!?)
「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」
死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?
――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる